重たいな状況を、冷徹な描写が切れ味よく表現しています。
異世界に放り出された――転移という二文字では足りないと感じるため、敢えて放り出されたといいたくなる、正しくサバイバルです。
未知の怪物、未知の世界、常識が通用しない場面に出くわした時、どうしても邪魔をしてしまう厄介な理性、プライド…その全てが、画面に向かって「そうじゃない」と思わずいってしまう程、物語に引き込みます。
そんな世界で、才能を開花させていくダブル主人公の存在に、私は悲哀、哀愁を覚えてしまいます。
主人公二人が覚醒させていく才能は、この弱肉強食の世界で生き残るためには、絶対に必要な才能だと思います。
思いますが、その才能をもってしても現実は厳しく、両手で抱えきれずに零れ落としてしまうものが沢山あります。それに対し、誰もが認める優れた才能であるのに、それを優れていると誇れない…いや、二人は決して誇ったりはしないけれど、誇る余裕なんてないくらい必死な様子が描写されています。
読んでいく内に、自分の中にある本能が、この世界で、主人公二人に負けて欲しくないと訴えてくるのを感じました。
現実で特に目立たない才能が、ある。
それはこの現実が、その才能を認めないからだ。
さて、ステージが変わったとしよう。ここは異世界だ。
石ころ同然だと思われていたものが、宝玉にも金にもなる。
それを見事に描き出したのが作者さまの本作なのですが、
作中で本人が、頭が良い事で、冷静でかつ恐怖されるキャラを
やり通している。
これは明らかな強さであるけど、本来、主人公とは
こうあるべきなのではないか、と思うのです。
その役割を請け負った彼に、拍手を贈りたいのです。
英雄とは……そのカリスマのあり方を、見つけるガイド、
そうなり得るのがこの作品です!
自信を持って、おススメします!!
もし、普通の、何の特殊な力も持たない高校生たちが異世界に飛ばされたらどうなるのだろうか?
その質問の大凡の答えは、この小説に書かれている通りであろう。
そこは是非読んで確かめて欲しい。
しかし、それは、決して明るくて楽しくて愉快なものばかりとは言えない。
偏に、ダークファンタジーとも言えるこの小説の面白い点は、一般的な高校生たちの死に様ではなく、むしろ”生き様”である。
右も左も、風習も通貨も分からないこの世界で、元の世界に帰るという目的を胸に一つ一つ懸命に生きる高校生たちの姿こそが読んでいて面白い。いや、彼らの苦しさを読み取るとするならば、ここは魅力と言っておこう。
また、その魅力の一つに、高校生、特に主人公たちの葛藤もある。
「朱に交われば赤くなる」と言うように、どうやら異世界に交われば、そこに住む人間に近づくのかもしれない。
この異世界を自分の世界とは無関係なものとして割り切れるかどうかが、この先の主人公たちの顛末に繋がるような気がして、楽しみでならない。
最後に、この小説を引っ張って行くのは二人の相反する主人公たちかもしれないが、この小説を彩るのはそんな主人公たちに関わる人々、通称モブに思える。
案外、ことの真実を察する力はそのモブにこそ備わっているのかもしれないと思わせる場面がちらほら存在し、そこに何とも惹かれる。
是非そこら辺にも注目して、読み進めていただきたい。
では、願わくば、作者がこのキャラクターたちの命を弄ぶ神ではないことを切に祈る。