第3話
瞼に光が刺して、眩しくて身動ぎした。
かさり、と皮膚に触れたのは、慣れたベッドの心地良い感触ではなく、少し濡れた草のようなそれ。
鼻に冷たい空気が入り、土の匂いがした。
そっと目を開ける。
「.........外?」
目に入ったのは、澄んだ青空だ。
上体を起こしてみたが、体の痛みなどは全くない。
それどころか、体が軽いくらいだ。
辺りを見回すと、目に入るのは木々ばかり。
どうやら森の中のようだ。
もちろん、見覚えがあるわけがない。
「私、確か事故にあって...それで...?」
直前の記憶を思い出してみる。
交差点で事故にあったところまではしっかりと思い出せた。
服装を見ると、事故に遭った時に身に付けていたスーツのまま...ではなく、白い簡素なワンピースを着ていた。
それから気になるのは、自分の腕や体の細さ、そして白さだ。
私は元々そんなに痩せていた訳では無いし、肌の色も割と健康的であったはずだ。
しかし今の自分の腕を見ると、病的に白く細い。
体も薄く、胸なんて以前の半分くらいしかないのではないか?
自分が自分でないような感覚に戸惑いながら立ち上がる。
視線もいつもより低い気がした。
そして背に触れる髪の毛の感触。
元々私はショートヘアだったはずだが、今は髪が胸のあたりまでは触れているように感じる。
「いてっ、いてて...!は、裸足で森の中はきっついなあ...ここ何処なのよ...」
辺りを見回しても木々しか見えず、森の深い位置に居るのだろうということは何となくわかった。
今はまだ日が高くないように思えるが、それざ朝だからなのか、夕方だからなのかもよく分からない。
(と、とりあえず、ここに居ても野垂れ死にする気がする...野犬とかいるかもだし...)
裸足の足の裏に木の枝や石が触れて痛いが、我慢してあるきだす。
森の冷たい空気が肌を刺す。
道も分からないまま、不安に胸を押し潰されそうになりながら、ゆっくりと足を進めた。
どれくらい歩いたのか分からないが、休み休み歩いているので、多分1時間か2時間くらいは歩いているのではないか。
ただ歩いているだけだが、水も食事もなく、この薄着では体力も奪われるばかりだ。
(何が何だかわからないけど、こんな所で死にたくない...誰か...)
心が砕けそうになる。
じわじわと涙が出てきた。
こんな風に泣くのはいつ以来だろう。
大人になってからなかなか泣くことも出来なくなったが、今はもうそんな大人の自制心も効かない。
「う。ううう...うあああん、誰かあぁぁぁ」
今までは、大きな音を出して動物を刺激しては行けないと思い声を挙げなかった。
しかし、精神的に限界がきている。
声を上げると、それは虚しく森に谺した。
次の瞬間、ガサガサッと草が揺れた。
「誰かいるのか!」
人の声だ。
はっとそちらに目を向けると、遠くに数人の人影が見えた。
「い、いますううう!助けてくださいい!」
思わずその人影に向かって大きな声で呼びかける。
人影も、その声の方向に気づいて視線を向けると、こちらの姿を確認したようだ。
ゆっくりと近づいてくるその人影は3人で、男が2人と女が1人。
全員が革や鉄などで出来た、所謂防具のようなものを身につけていて、アニメなどで見る冒険者のような風貌だ。
コスプレだろうか?
怪しくてつい少し警戒するが、それでもこの人たちにおいて行かれるのは死を意味する。
「あ、あの、あの私...!」
「その格好...お前もしかして、この間の奴隷商の生き残りか?」
「へ...?」
でかい剣を持った男に聞かれて、思わず間抜けな声が出る。
気付くと、全員から哀れむような視線が投げかけられていた。
自宅の冷蔵庫と異世界生活 てのこ。 @lacraze
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