第2話

私、紺野秋葉(こんのあきは)26歳独身は、会社勤めのしがないOLだ。

変わった所とかは特にない。

仕事終わりでフラフラになりながらなんとかマンションの前まで辿り着くと、部屋の電気が着いているのが見える。

なぜ既に電気がついているのかと言うと、私は友達とルームシェアをしているからである。


「たっだいまああああず!遅くなってごめんねええ」

「あーやっと帰ってきたぁ!随分かかったねー?もー遅いから、今日のご飯は私が作ったよお」

「あず神!ありがとう!」


本当は今日のご飯当番は私だったのだけれど、残業していたら22時になってしまっていた。

そこで、ルームシェアの相手である長谷川梓美(はせがわあずみ)が、代わりにご飯を作ってくれていた。


「もーご飯も炊けるんだけどぉ、秋葉、飲み物買ってきてくれた?」

「あっちゃー忘れてた!茶葉切らしちゃってたね」

「そー。あとマヨネーズもあとちょっと。今日生姜焼きにしたから、マヨネーズ要るでしょー?」

「いるいる!私ちょっとコンビニ行って買ってくるよ」

「うん、お願いねー」


間延びした声で話すあずは、とっても心穏やかで仏のような同居人だ。

その声に癒されながら、私は鞄をもう一度手に取って部屋を出る。

コンビニまでは、細い道を少し進んで、大通りに出たら横断歩道を渡ってすぐだ。

徒歩5分程。

のんびり歩いて、横断歩道の赤信号で止まった。


「ご飯当番代わってもらっちゃったし、今日はコンビニデザート奢りだなあー」


何にしようかななんて考えているうちに信号は青になり、歩き出す。

横断歩道の真ん中まで来たところで、ふと視界に違和感を覚えた。


ぐにゃり。


視界が歪む。

青色の信号が歪んで消えて、次の瞬間赤くなっている。


「え...あれ...?」


パーッと大きなクラクションの音が右耳の近くで響き、反射的に振り向いた。

その時にはもう私の視界の数センチ前には、トラックのバンパーがあった。


ドンッ


鈍い音がして、私の体が吹き飛んだ。

ドシャ、と音がして床に放り投げられた体には激痛が走っていて、ピクリとも動かない。


(あれ...どうして...信号、青で...体動かな...死ぬ...?)


目の前が霞んで見えず、このまま意識がなくなるのだろうということは直ぐにわかった。


(あず...に...デザート.......お家に...)


支離滅裂な思考のまま、私の意識は無くなった。

無いはずの意識の先で、小さな声を聞いた。






(貴方の死は、運命に則ったものではありませんでした。貴方は死ぬべきではありませんでした。補償として、あなたの人生はやり直されます。)

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