第6話

 結論から言うと、政宗まさむねを部屋に泊めていることは竜姫たつきにすぐばれた。


 なぜだ。完璧だったはずだ。


 小虎ことらは自問自答を続ける。

 今までの対応について何か間違いはなかったのかと思い返すが、何かあったとは思いにくかった。


 竜姫が部屋に訪ねてきたときは政宗を隠したし、ふじの樹は友達からもらったインテリアだと言い張った。

 さすがに少し大きなものになったから勘繰かんぐられたりはしたが、何とかそれで通すことができた。


 良かった。あいつが正真正銘しょうしんしょうめい馬鹿ばかで。


 悪友の顔を浮かべながら、人生で初めてあいつに感謝した。

 ではしかし、何が原因だったのか。


 ……。


 やっぱりあれか。


 小虎はその直接的原因を頭に思い浮かべる。

 しかし、竜姫ねえさんがあそこまでデリカシーのない人だとは思わなかった。


 小虎はこの計画の最初にして唯一の失敗を思い返す。




「小十郎、湯浴ゆあみがしたいぞ」

「はあ?」


 政宗がそんなことを小虎に言ってくる。


 湯浴み……風呂か。確かにずっとこんな空間だけで過ごしてるんだし、そういうこともしたくなるか。


 小虎は政宗の意見を真剣に考えた。


「でも、竜姫ねえさんにバレたりしたら困るしな」

「その……竜姫ねえさんとは誰ぞ」

「俺の従姉妹いとこのねえさんだ」

「……従姉妹」


 小虎が『従姉妹』と言った瞬間、政宗の顔が曇る。


「どうしたんだ」

「な、なにがだ。どうもしないぞ」

「そ、そうか」


 なにかあるように感じたんだけど、気のせいだったかもしれない。顔が曇ったのも一瞬だったし、見間違えたのかもしれない。


「その竜姫にバレると何で困るんだ、小十郎」

「政宗を追い出さなきゃいけなくなる」

「……それは困るな」


 小虎がそう言うと、政宗はリスクとリターンを天秤てんびんにかけるような顔をして、どうしようかと考えていた。


「でも、したいのだ!」

「……やっぱり?」

「やっぱりだ!」

「はぁ……」


 小虎はその答えが元から分かっていたような顔になる。


 まあ、その気持ちは分からないでもないが、別に臭くもないしいいんじゃないか。


 小虎は男特有のがさつな考え方をする。すると、ある一つの疑問が浮かんできた。


「政宗」

「ん? なんだ」

「お前、食事とかトイレとかどうしてるんだ」


 当然と言えば、当然の疑問だった。

 生物も生理上、それは必要不可欠だろう。


「食事は必要ないぞ」


 ……とりあえず、こいつは生物ではないと。

 ん? まて、食事は……。じゃあ。


「トイレはどうなんでしょう」

「お、乙女にそんな不埒ふらちな質問をするでない」


 何を言ってるんだ、こいつ。


「お前、男だろ」


 小虎は冷ややかな視線を政宗に向けながらそんなことを言う。


「い、いやな。最近、女のままでもいいのではないかな~と思って」

「おい……」


 それじゃここに来た目的も理由もないじゃないか。


「じょ、冗談だぞ、冗談」

「……ならいいが」


 甘やかしすぎたか。


 小虎は政宗に対する態度を思い返す。……うん。


 政宗の欲しいといったものをあらかた持ってきてしまったことといい、こいつもしかしてニートになりかけてるんじゃないか。


 小虎の頭の中にグルングルンと最悪な状況が思い浮かぶ。


「……小十郎と……その……正式な…………」


 政宗が何か不吉そうな事をぶつぶつと言っている気がするが、声が小さすぎてうまく聞き取れなかった。


「風呂……、風呂か~」


 小虎はこうしている間にも、どうにかしようと考えていた。


 そう言えば、今日竜姫ねえさん遅くなるって言ってたな。


 小虎はそのことを思い出し、すぐ行動に移そうとする。


「よし、政宗! 風呂い――」

「伊達政宗ぇ――――!」


 声をかけようとした瞬間、部屋の窓ガラスが粉々に吹き飛んだ。

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