第1話

 ――また夢を見ているのか。


 不思議な夢を見ていた。

 小虎は、いつも同じ人の人生を夢見るのだ。




 子供だった彼は、無事に家督かとくを継いで成人したようだ。

 しかし、それが理由で母との仲が悪くなっってしまった。

 それでも彼は、自分についてきてくれた者たちのためにその責任を果たす。




 ――ざざぁ。


 百人もの人が小川に集まっている。


 しかし。


 聞こえてくるのは、流れる川のせせらぎのみ。


 不気味な光景。


 片方の岸には、鉄砲を構える百人余りの人たち。

 そして対岸には、九人ばかりの人影。


 だが。


 八人は普通に立っているのにもかかわらず、

 残り一人は、その中の一人から首元に刃物を突きつけられている。


 その場を支配するは、

 静寂せいじゃくのみ。


 彼らの運命を決められるのは、

 たった一人。


「こいつがどうなってもいいのか!」


 一人の男がそう叫んでいる。


「かまわん。わしもろともやれ!」


 人質としてとらわれている男が呼応するようにそう叫ぶ。


 何度も、

 何度も、

 何度でも、

 その男はそう叫ぶ。


 彼らに殴られようとも、られようとも、どんなことをされようとも、

 その声は止むことはなかった。



 ――ぎりっ。



 訪れるのは葛藤かっとう

 彼のすべてはそれに飲み込まれ、支配される。


 視線を、

 意識を、

 心を、



 ――その身一つで受け止める。



「務めを果たせ――‼」

「撃うて――――――!」


 彼の下した決断は、

 一番最善さいぜんで、

 一番残酷ざんこくな、



 ――命令だった。



 対岸にいる九人が地にちる。

 全員だ。


 そこに沈む人質にされていた男の最後の顔は、

 笑顔だった。


 彼は失意に暮れ、項垂うなだれる。


 後悔も、

 責任も、

 彼が背負う。


 それが彼の義務。

 決意を固め、彼は顔を上げる。


 顔を上げた彼の、

 目は、

 顔は、

 姿は、



 ――まさしく竜であった。





 だが。

 小虎の目には、項垂れた彼の口の形がかぶとの飾りと一緒の形に見えた。

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