第8話
「小十郎……少し時間を稼いでもらえないか」
小虎はいきなりそう言われて呆然としていた。
それはそうだ。刀を振り回すやつに生身で立ち向かえということだからだ。
「お願いだ」
「ッ――――」
断りたかった。
しかし、見た目は可愛らしい少女である政宗に、上目遣いでお願いされたら断ることなんて、男である小虎にできるはずなかった。
「……分かった」
「すまない」
そう言い終えると同時に兼続が公園に到着した。
「追い詰めたぞ、政宗」
どうする。どうすればいいんだ。
小虎はどうすれば時間が稼げるかを考えだすのに必死だった。
兼続が一歩一歩こっちに近づいてくる。
くそ。
「政宗をやりたかったら、まずこの俺を倒してからにしてもらおう」
なんとも典型的なアイデアだった。
「ほう。ではまずあなたから倒そう」
くっ。俺に矛先が向いた。
小虎の身体に緊張が奔る。いや、奔るっているのは緊張だけではない。
――恐怖。
死という恐怖が小虎を襲いかかる。
「終わりだ」
「小十郎!」
気づいたら目の前に刃が迫っていた。
「ひぃ」
尻もちをつきながらもなんとかかわす。政宗の声がなければやられていたかもしれない。しかし、尻もちをついてしまった。
「次はない」
兼続が向かってくる。
どうする。どうすればいいんだ。答えろ、俺。
必死に自分を鼓舞して策を巡らす。
あっ。
小虎の才能か、はたまた死という生存の危機に直面したからなのか、小虎の脳裏に一筋の光が浮かんでくる。
いや、しかし……。
それは賭けだった。
だが、考える暇はない。兼続の足音はどんどん近づいてくる。
くそ。
小虎はそれにかけるしかなかった。
それとは――。
「おい、愛戦士。貴様はこんないたいけな民を殺すことが愛なのか」
兼続が馬鹿なことにかけることだった。
小虎は身体を大の字に広げる。
「ぬぐぅ」
兼続の動きが止まった。小虎は賭けに勝ったのである。
こいつ、正真正銘の馬鹿だ。
小虎はいまだに死の気配が消えないこの状態でも、そんなことを思えるくらいには余裕が出てきた。
「……私が信じたもの。それが愛だ!」
しかし、兼続が馬鹿すぎた。
自己解釈によって自分の行動を正当化することによって、小虎を斬っても大丈夫だと思ったらしい。
小虎に刃が再度迫ってくる。
しかし小虎は慌てていなかった。余裕が出てきて広がった視野の中にそれを捉えていたからだ。
「これだから馬鹿は……」
――ガキィン。
甲高い音が鳴り響く。
刀と刀がぶつかり合った音だ。
「なにぃ!」
兼続が驚きの声を上げる。
その兼続と鍔迫り合いをする政宗の手には、先ほどと違い一振りの刀が握られていた。
よく見てみると服装も違う。
いつもは簡易的なシャツにドロワースみたいなボトムスだったのに、いまは白い大きなベレー帽をかぶり、これまた白い軍服を肩から掛けている。
その姿は初めて政宗にあった時のそれだった。
「すまない、小十郎。助かったぞ」
「……ほんと、政宗が時間を守れる子供でよかったよ」
小虎はニヒルに嫌味を言いながら後ろに下がる。しかし、その足は震えていた。
「足が震えておるぞ」
「……うるさい」
政宗もそれに気づき、お返しとばかりに言ってくる。
漏らさなかっただけ褒めて欲しい。
小虎はそう思いながら受け止める。
「さて、われが相手だ。馬鹿戦士」
「ば、馬鹿戦士」
「おっと、口が滑ったようだ」
絶対わざとだ。
「わ、わたしをよもや愚弄するか」
「真実を言ったまでだ」
わぁお。
政宗って意外と性格悪いよね。
小虎がそう思っていると戦闘が動いた。
「ふん、そんな軟弱な太刀筋など……」
「なっ!」
政宗はそのまま兼続を弾き飛ばしす。
兼続も態勢を整えているが遅い。
「よくもわれの小十郎を殺そうとしたな~!」
「かはっ」
吐血のようなものが兼続の口から漏れ、そのまま鉄棒付近まで吹き飛ばされる。
そしてとどめを刺すかのように政宗が天に左手を掲げる。
政宗はすぐさまに手を兼続が吹き飛ばされたほうに向ける。そこに握られてたものは――。
あのとき見た銃だった。
「われと小十郎を侮辱した罪、万死に値する」
「ぬぐぅ……」
兼続のほうを見ると、とても回避できそうな姿ではなかった。
「政宗!」
さすがに殺すのはと思い、政宗に声をかけるが、
「分かっておる」
それは杞憂だったようだ。
「……いくぞ」
銃口付近に何かしらの模様が描かれていく。まるで力が収束していくみたいだった。
「〈三つ引き両紋〉」
政宗がそうつぶやき引き金を引くと、その模様から三本の線が飛び出していった。
竜?
小虎にはそれが竜の形に見えた。
竜はまっすぐに兼続に迫り、そして――。
「クハァ」
兼続のベースボールキャップ、その愛の字を粉々に砕いた。
ああ。
小虎は直感していた。これは最大の屈辱になるだろうと。
「ああ……」
それを示すかのように兼続はそのことを知ると同時に、
「……ふ」
「ふ?」
「ふえぇぇぇぇん!」
泣き出してしまった。
これはさすがにな~。
小虎はかわいそうになり政宗に非難の目を向けるが、
「ひゅ~、ひゅ~」
吹けもしない口笛を鳴らしながら誤魔化していた。
「うぐっ、武士の真剣勝負に飛び道具を持ち出すとは……この卑怯者~。ふえぇぇぇぇん」
兼続はそんな遠吠えをしつつ、泣きながら逃げていった。
それでいいのか。直江兼続。
「いいのか、政宗」
「いいのだ。いつものことだしな」
いつものことなのか。ほんとに残念だ。
小虎はこの日、政宗と同じような武将に出会った。
しかし。
とても残念という言葉つきで。
現代っ子まさむねちゃんの色恋 天存こ~りんごん @tenson-korin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。現代っ子まさむねちゃんの色恋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます