逆さまになった本の謎 5
いや、実のところそういう兆候を感じなかったわけではない。
いつも彼は私にやさしいし、視線が私の方に釘付けになっていたことも何度かある。
でも、それだけで……
「間違いない。君は神田みのるに好かれている。だから彼はたくさんの本を逆さまにしたんだ」
「……仮に神田くんが私のことを好きだとして」
何故それが本を逆さにすることにつながるのだ。
車六は私をちょっと真剣に見つめた。
「本を逆さになっていたら、君たち図書委員は何をしなければならない?」
「それは……本を元に戻すわ」
「それだよ」
車六は私をびしっと指さした。
「本を元に戻す作業をするために、彼は本を逆さにしたんだ」
「………………!?」
どういうことだ。
まったく意味が分からない。
だが車六は全てを見通したような感じで話す。
「ここに奥手な、ある一人の男子生徒がいるとしよう。彼は好きな女の子に告白することはおろか、学校外で連絡を取ることもできないうぶな男子だ。彼の唯一の憩いの時間は、その女の子と一諸にいる図書委員としての仕事の時間だった。」
彼はよどみなく、まるで何かを見ているように話す。
「その時間をどうにか伸ばしたい。少しでも彼女と一諸にいたい。そのためにはどうすればいいだろうか?
」
車六は顔をしかめてみせる。
それから何かを思いついたふりをしてみせた。
「そうだ!!彼女と過ごす時間を増やせばいいんだ。そのためには、図書委員としての仕事を増やす必要がある。図書委員としての仕事を増やすにはどうすればいいだろう?そうだ!!本を散らかして、それを一諸に片づけることにしよう。たったそれだけの時間でも、彼女と一諸にいられるのなら、悪くない」
車六は意味ありげに私にうなずいてみせた。
「だから、本を逆さにして、それを元に戻す作業を提供しよう。」
「そんな……そんな馬鹿げたこと」
「しかしこれが真相なんだよ」
車六は自分で自分に頷いてみせた。
「一週間欠かさず本が逆さにされたこと。そのたびに神田と一諸に作業したことがその証拠だ。」
「でも……」
「一週間も与えたんだ。もしかしたら男の方もそろそろ勇気を出す頃合いかもしれないな」
車六はそういってくくくと笑う。
法水はそんな車六を憎々し気に、それでもどこか誇り気に見つめていた。
なんて部活だ!!
私は憤慨して、そのまま廊下に飛び出した。
※※※※※※※※※
やがて、私には彼氏が出来、図書室の本が逆さになることもなくなるのだが。
まあ、それはまた別の話。
――了――
図書室奇譚 半社会人 @novelman
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