月に溶ける

消えた?

青葉が?


はあ。

あっちに聞かれんしても何も。

伊勢屋さまは何と?

そうでありんすか。

でも何やらすとんと落ちるような気がいたしんす。


青葉は不思議な子でありんした。

色の所為でありんしょうか。

なんぞ頼り無気で朧気な。

まるで人ではないような。

ぬしさまは思うたことがありんせんか?

あっちはたまに怖くなりんした。

青葉はこのまま

月に溶けてはしまわぬかと。


夕べは朔でありんした。

月の消えた暗い夜。


青葉はさて。

月と共に溶けてしもうたか。

それとも闇に流れてしもうたか。


戯れごとと言いんすか?

ほんに?

ほんに、ぬしさま。そう思う?

手引きした男でも居たのだと?


あっちはそうは思いんせん。

伊勢屋さまは、襖にも格子の窓にも、しっかりと錠をかけていたのでありんしょう?

そんななかをどうやって。


ええ。それは。

あっちとて、青葉を妖しやらとは思うておりませぬ。

でもぬしさま。

青葉はもう居らぬのでありんしょう?

ならば

雪のように闇に溶けたと。

小鳥のように格子を抜けたと。

お思いなんし。

それが似合う娘でありんした。


夢のように儚い歌声は、

現にかえればあぶくのように消えるもの。



ねえ、ぬしさま。

そうでありんしょう?

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舞い散るは誰が涙か 早瀬翠風 @hayase-sui

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