〔犯人はこの中にいる!〕


第16話〔犯人はこの中にいる!〕



特子「ふぁ~あ…、おはようごずあいあす。ガチャ!

あれ?今日はみんな揃っているんですね?妹はどうしたんですか?」



全員「シ~ン…」



特子「え~?ガン無視かよ~!いつものようにツッコんで下さいよ~!!カチョ~…

ほら「なんでドアを開ける音が後なんだよ!そもそもドアは付いてないだろ!」とか「『妹』じゃねえよ!リモートだろ!」とか。」



カチョー「シ~ン…」



コウ「特さん冗談を言ってる場合じゃないんですよ。これを見てください。」



特子「これ?…うわ!どうしたの!この部屋?ムチャクチャじゃない!?」



コウ「それにこれ?特さん何か知りませんか?」



特子「これ?ん?手紙?書き置き?え?でもこのテーブルだけ何ともなってない。回りはメチャクチャなのに…」



カチョー「このテーブルは、地震が起きても倒れないように、ガッチリ固定されてるからな少々の事じゃビクともしない。そんな事よりこの紙に書いてあることだ!」



手紙「犯人はこの中にいる!」



マイ「テーブルより棚を固定してた方がいいと思うんだけどな。全~部倒れちゃってるし。」



ミル「この『犯人』てこの部屋を荒らした人物かしら?それともサイバーテロの犯人?」



ジミー「同一人物とみて間違いないだろう。『海洋』が倒れていたからな。」



カチョー「この手紙を海洋が書いたとしたら…疑いたくはないが犯人は『特課』の人間!つまり『犯人はこの中にいる』!」



全員「じ~…」



特子「ち!ちょっと!なんでみんなで私を見るんですか?!!」






1ヶ月前…



「ガチャ!」



本部長「壮寛いるか?」



カチョー「本部長?どうかしましたか?」



本部長「いやな最近頻繁に起きている警視庁内の『システムエラー』の調査で応援を呼んだんだ。一応紹介しておこうと思ってな。」



海洋「ワタシ伊・海洋(い・かいよう)言います。ヨロシクお願いシマス。」



本部長「海洋君は『サイバーテロ対策』のスペシャリストでもあるんだ。太陽君も名前は知っているんじゃないか?」



コウ「はいもちろん知ってますよ。この界隈かいわいでは有名ですから。」



特子「え!?変態コウちゃんより凄いド変態って事!!?」



コウ「失礼な事言わないで下さいよ。確かに僕は『ネットワーク』の事なら針の穴まで見通す事が出来ますけど海洋さんはその針の穴の内側を見ようとする人なんです。

それゆえついたアダ名が『細かすぎる特番刑事デカ』!」



マイ「何で『特番』?」



コウ「神経質になりすぎてストレスで半年間は入院してるからです…

今回の不具合も僕が調べてはみたんですがどうしても原因が掴めなくて…」



本部長「スペシャリストの太陽君がお手上げって事でな海洋君の貴重な半年間を使わせて貰うって事だ。もしかしたら大規模なサイバーテロの予兆かもしれないからな。

安心しろ今回は顔見せだけだ。特課に要請は出ないだろうから。まあ太陽君だけは借りるかもしれないがな。」



カチョー「まあサイバー犯罪でウチらに出来る事なんてないですから。」






それから1ヶ月後現在…



ジミー「カチョー…やっぱりこの手紙を書いたのは…」



カチョー「ああこのたどたどしい文字『海洋』に間違いないだろうな…

海洋が気を失う前に必死に伝えようとしてたって事だ。」



特子「え?海洋さんこの部屋に居たんですか?」



ミル「ええ。後頭部を殴られて気を失って倒れていたの。昨日の夜の事よ。今朝一番に来たジミーが見つけたの。」



マイ「そういえば特ちゃんここに泊まっているんでしょ?何か気付かなかった?物音とか?」



特子「私一晩中テレビを見てるから…ヘッドフォンして大音量で。

あ!!」



カチョー「な!なんだ特子!何か思い出したか!!?」



特子「そういえば昨日のアニメ『4D』だったんです。」



コウ「はあ?家庭用テレビで『4D』?ありえませんよ。せいぜい『3D』までですよ。」



特子「ううん違うの。戦闘シーンなんか凄かったんだから!爆発に合わせて身体が揺れるの!部屋が揺れてるみたいに何度も。」



ミル「それって海洋さんと犯人が争っていたんじゃない?特ちゃんの後ろで…」



マイ「特ちゃんの部屋にはドアが無いから衝撃もそのまま伝わっちゃうでしょうね。」



カチョー「でもこれでハッキリしたな。海洋は何らかの手掛かりを掴みこの部屋に入った。

そこに犯人が乱入し争った挙げ句海洋の頭を殴り気絶させた。

もしくは探し物をしている海洋に背後から忍び寄り後頭部を殴打した。

つまりはこの部屋に探られたく無い物がある人物!そう!犯人はこの中にいる!」



特子「って!なんで私を指差すんですか!カチョー!!」



カチョー「なんで?ってお前しかこの部屋に居なかったんだからお前しか居ないだろうが!」



コウ「いや!特さんは犯人じゃ無いですね。そもそもこの犯人は僕よりネットワークに詳しいって事じゃないですか。特さんが犯人だったら僕は立ち直れませんよ…」



特子「はい!はい!は~い!私犯人がわかっちゃいました。」



マイ「本当!?特ちゃん?」



ジミー「特子はたまに鋭い所から犯人を見つけ出すからな。」



カチョー「誰なんだ?サイバーテロを計画し海洋を殴ったのは?」



特子「ビシッ!!ジミーさん!あなたが犯人です!!」



ジミー「え?俺?」



カチョー「何?どういう事だ?特子?」



特子「ジミーさんは今までずっとあの窓際で寝泊まりしていたんです。しかし最近は何処からか通っている。不自然とは思いませんか?

きっと秘密基地があって警視庁乗っ取りを計画しているに違いありません!違いますかジミー!!大体第一発見者が犯人ですよね!」



カチョー「どうなんだ?ジミー?」



ジミー「違うよ?俺がこの部屋に寝泊まりしないのは特子の部屋のテレビが眩しくて寝られないだけだ。

それに昨日の夜は茶目の所で一緒にラーメン食っていたぞ。」



特子「そう!ジミーさんは犯人じゃありません!マイ…」



マイ「あたしも昨日は『まい』ちゃんの店に居たわよ。泊めてもらったし。」



特子「フフフ…敵を欺くにはまず味方から…ミ…」



ミル「私は副総監と一晩中…」



特子「だと思いました。カチョー!」



カチョー「俺か?!俺は『ゆうさん』と飲んでいたぞ?」



特子「と、油断させておいて!コウ!」



コウ「……」



特子「え??」



カチョー「え?お…お前…まさか…」



コウ「ち!違います!ぼ僕じゃ無いです!ただ証明する人が居なくて…」



マイ「確かにコウちゃんは独身だし部屋に帰っても街の防犯カメラを見てるぐらいだもんね。」



ミル「あ!でもその防犯カメラの映像を話せばアリバイになるんじゃない?内容によっては昨日の夜にしか起こってない事もあるし。

特に部屋が荒らされた時間の時の事とか。」



コウ「確かに…防犯カメラを見てましたけど……」



ジミー「どうしたコウ?」



特子「ハハァ~、話したくないということは…

やっぱりコウちゃんが犯人なのね!

動機はそうねぇ警視庁を我が物にするには

『海洋さん』が邪魔って訳ね彼さえ居なくなれば…って所かしら。

でも非力なコウちゃんだから、撲殺まで至らず気を失う程度だったって事ね。」



カチョー「コウ…まさかお前がそんな…」



コウ「何を特さんの話を鵜呑みにしてるんですか!カチョー!」



カチョー「だってお前…話したくないって…」



特子「そうだ!そうだ!話せるもんなら話してみやがれ!」



コウ「わかりましたよ。話しますよ。たまたま昨日の夜のその時間は『特さん』を覗いていたんです。本当にたまたまなんですけどね。」



特子「え?イヤだ~!コウちゃんのスケベ!

で?で?可愛い私に釘付け?」



コウ「え~っとですね。釘付けになっちゃいまして…。」



マイ「え!?マジで??!」



コウ「いや!特さんじゃないですよ!?特さんの見ていたアニメに見入ってしまって…」



特子「あ~!確かに昨日は稀に見る『神回』だったから…

なになに?コウちゃんもアニメにハマった?」



コウ「だから言うの嫌だったんですよ!特さんと同じ思考だと思われるのが嫌で…」



特子「まあまあ犯人じゃ無いと証明するためよ。続きを話してごらん?」



コウ「そのままアニメを見ていたんです。そうしたら特さんがイキナリ立ち上がって服を全部脱いだんです。下着も全部。それから素っ裸で『ラジオ体操』……」



特子「ス!ストップ!ストップ!!コウちゃんは犯人じゃありません!この私が保証します!」



カチョー「お前は仮にも警視庁の一室で何をやっているんだ?…」



特子「いや~急に身体を動かしたくなって…」



コウ「ちょうどその時映像が乱れて…しばらくは何も映らなくなったんです。」



カチョー「海洋が襲われた時刻だな…」



ミル「え?じゃあ誰が犯人?みんなアリバイがあるじゃない。」



マイ「第三者の影も出てきたわね。」



カチョー「海洋の意識が戻れば何かわかるかもしれん!幸い命に別状は無いって言ってたからな。」



特子「えっ!えっ!えっ!ヴェクシ!!!」



カチョー「バ!バカ!きったねえな特子!何か飛んできたじゃねえか!

くしゃみエチケットを知らねえのか!」



コウ「カ!カチョー!!」



カチョー「どうした?コウ?そこにも唾が飛んだのか?」



コウ「いや、唾じゃないんですけどね…もしかしたら僕達思い違いをしていたのかも…」



ジミー「どういう事だ?コウ?」



コウ「この手紙を見て下さい。」



マイ「ん?手紙?」



ミル「『犯人、はこの中に居る!』」



カチョー「何にも変わって…え??なんだ?この『、』あったか?」



特子「あ~それたぶん朝御飯に食べたオニギリのゴマですよ…。歯に挟まっていたみたいで…」



コウ「海洋さんて日本語はあまり上手じゃなかったですよね?『はにをて』は殆ど使わずに。」



特子「『はにわおー』?」



マイ「『はにをて』。文章を繋げる時に使う文字の事よ。例えば「特ちゃん『は』ラジオ体操『を』裸でする。とかね。」



特子「それはもういいです!」



カチョー「つまりどういう事だ?」



ジミー「つまり海洋は『犯人がこの中に居る!』じゃなくて『犯人は箱の中に居る!』って言いたかったんだろ?コウ!」



コウ「その通りです!箱の中に犯人が居るんです!」



マイ「でも『箱』って?」



カチョー「そういえば特子!」



特子「は!はひ!」



カチョー「お前の部屋にピンク色の段ボール箱があるが何が入っているんだ?」



特子「ピンク色の箱?はて?なんの事やなら?…」



ミル「ダメよ特ちゃんウソついちゃ。部屋にドアが無いんだから丸見えよ。」



マイ「この箱ね?ヨイショッと。」



箱「パカッ」



カチョー「ん?何か動いてるぞ?」



ネズミ「チュ~。」



カチョー「なんでネズミが箱の中に?…」



ジミー「カチョー!よく見て下さい!箱の隅に糸クズのような物が…」



コウ「こ!これは!配線の回りに巻いてある絶縁体ですよ!」



カチョー「あの赤や緑のあれか?」



特子「ネズ子は凄いでしょ!いろんな色の糸クズを持って来るの。」



マイ「ネズ子?」



特子「ネズミのネズ子。初めて部屋に来た時は緑のクズを咥えていたの。お菓子をあげたらいろんな色のクズを持って来るようになったのよ。」



カチョー「ちゃんとネズミが出入り出来る穴まで開けてある。」



コウ「カチョー…これってもしかして…」



カチョー「ああまず間違いないだろう。」



マイ「カチョー?どういう事?」



コウ「サイバーテロの犯人がこの『ネズ子』って事ですよ。」



特子「そ!そんな!…」



カチョー「ネズミが配線をかじって感電やショートして『停電』もしくは『火事』って事はたまにあるがな。このネズ子は絶縁体だけしかかじらない。したがってショートもしないし感電もしない。

だがむき出しになった銅線は空気や湿気やホコリで不具合を出すようになる。

おそらく海洋は何処かで配線をかじっているネズ子を見つけ追いかけている内にこの部屋に入って行くのを見たんだろう。」



ミル「それでネズ子を捕まえようと部屋のなかで追い駆けっこになったのね。」



マイ「ん?じゃあ頭のキズは?」



ジミー「このテーブルだろうな?ネズ子を追いかけてテーブルの下に潜ったはいいが何かの拍子で頭を上げたんだろう。

見てみろテーブルの裏に髪の毛が付いている。」



コウ「犯人がネズミだとするとネズ子1匹じゃないでしょうね。」



カチョー「ああ不具合が始まって何ヵ月も経っている。放っておくととんでもない事になっていただろうな。

ミル!すぐに害虫駆除の業者に連絡してくれ!俺は本部長に報告に行く。」



ミル「わかったわ!」



カチョー「さて特子。ネズ子を渡して貰おうか!」



特子「来ちゃダメー!何も居ないわ!何も居ないったら!

あ!出てきちゃダメ!」



ジミー「ネズミのネズ子です。」



カチョー「やはりネズミに取りつかれていたか……

渡しなさいトクコ…」



トクコ「いや!!何も悪いことしてないの!!でもないけど…」



カチョー「人とネズミは一緒には居られないんだ。」



トクコ「お願い!殺さないで~!お願い~!」



コウ「特さん。ネズミはいろんな病原菌を持っているんですよ。例えば『サルモネラ菌』とか。」



特子「よし!大至急駆除業者に電話だ!」



カチョー「特子なあ~!もともとお前の部屋が汚いからネズミが寄って来るんだ。お菓子の食べかすもそこらじゅうに散らばってるし…


ちょうどミルがいい物件を見つけたからそこに引っ越せ。」



特子「いい物件?」



ミル「ええ!平屋だけど2LDK。リビングは20畳。」



特子「え?20畳?それってお高いんでしょ?」



ミル「知り合いの社長の持ち物でね…今は誰も住んでいないから住みながら掃除してくれる人が欲しいんですって。もちろんお金は取らないわよ。」



特子「まさかのタダ!!?すぐに引っ越し業者を呼びます!!こんなむさ苦しい部屋ともオサラバだ~い!!」





次の日…



本部長「壮寛。よく犯人を見つけてくれた。礼を言う。」



カチョー「見つけたのは海洋ですよ。アイツのメモでわかったんですから。

海洋の具合はどうですか?」



本部長「ああ!海洋君なら心配いらない。ただの『胃潰瘍いかいよう』だからな。」



コウ「やっぱりそうきたか。」



本部長「ただ頭を打ったせいか記憶がハッキリしないみたいなんだ。

ネズミを追いかけてテーブルの下に潜り込んだらネズミが箱の中に入って行くのが見えたそうなんだ。

と同時に得体の知れない物がうごめいたのに驚いて頭をぶつけたみたいでな。そこから記憶が曖昧らしい。

何だろうな?得体の知れない物って?」



カチョー「さ…さぁ~…?何でしょうね…得体の知れない物って…?」



コウ「マイさん。特さんのラジオ体操ですかね?」ヒソヒソ…



マイ「たぶんそうでしょうね…」ヒソヒソ…



本部長「まあいい。私はお前達に少なからず期待もしているんだぞ!これからも頼んだぞ!」



全員「ハッ!ありがとうございます!」



カチョー「って?特子は?」



ミル「紹介した『犬小屋』が気に入っちゃって興奮して走り回っていたからまだ寝てるのかも?」



カチョー「犬かアイツは…。さて仕事するぞ!」



コウ「まずは部屋の片付けからですね…」



全員「あ…。」



ジミー「フフフ…いい空だ…」




おしまい…






コウ「特さん!『読点』返して下さいよ!」



特子「『読点』?」



コウ「『、』ですよ!『、』ゴマみたいなヤツ!おにぎり作るのにここから取ったでしょ?」



特子「いいじゃん!いっぱいあるんだし。」



カチョー「どうりで息が苦しいと思った。」



特子「それよりうちの犬小屋スゴいんですよ!実家より広いの!

今度パーティーやりましょう!『おにぎりパーティー』!」



コウ「なんで『おにぎり』限定なんですか…」



特子「いや『おむすび』だけに…結びがよろしいようで。」



全員「チャンチャン」




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〔特別課捜査班!特子!〕 じんべい @invoke

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