魔王を倒した傭兵

「傭兵くずれが。我を誰だと思っている」


「小国を落とした国落としの大罪人、

 金貨300枚の賞金首。

 王を殺した四英雄の一人、烈剣のハザード」



 この男は魔王討伐のために結成された、

 四英雄の一人。

 


(もっとも、コイツらは魔王討伐よりも、

 その後の方に関心があったようだが)



 魔王を倒すために人族の最強戦力、四英雄。

 結論から言おう。

 人魔大戦に四英雄は一切貢献しなかった。


 四英雄は、魔王討伐よりも王位の継承に関心があった。

 俺のような傭兵が魔王軍と戦っている間に、

 守りが薄くなった王城に攻め入り、王を殺し、


 四聖剣を略奪し、人魔大戦で疲弊しきった国々を、

 武力をもって討ち滅ぼした。

 獅子身中の虫。 



「良いだろう。我が相手になろう、傭兵。

 ――魔王殺しと呼んだ方が良かったかな」



 後方に、敵の気配。

 熟練したアサシンの致命の一撃。


 ――かわす。


「アレイシア バスターソード、クレイモア!」



「がってんっ!」



 2本の長大な剣がクルクルと空中で回転しながら。

 俺の手元に向かって飛んでくる。

 手のひらにズシリと重い、確かな鉄の感触。



(――ッ――捉えた!)



 受け取ったクレイモアを力任せに横薙ぎに振るう。

 不可視化インビシブルで近づいていた、

 二人のアサシンがクレイモアによって肉塊となる。



「しゃらくせえ」



「伏兵を殺した程度で調子に乗るな、傭兵。

 よかろう。貴様は我が直接殺してやる」



「やれるもんならやってみやがれ」



の聖剣レーヴァテイン――我が召喚に応じ、その姿をあらわせ」



 ほう。あれが、四聖剣が一つ、

 陽光の剣、レーヴァテイン。


 理屈の上では太陽と同じだけの熱量を出すことが可能なそうだ。

 だが、人間が運用するかぎりは、

 聖剣の潜在能力を使い切ることは不可能。



(とはいえ、当たれば即死か)



 さぁて、どうしたものか。刃渡りは向こうの方が長い。

 だが、剣の打ち合いをすれば、

 聖剣によって剣ごと俺が両断される。



「どうした? さしもの魔王殺しと言えど、

 聖剣には怯えて動けぬか。クックックッ」



 バックステップで距離を取りながら、

 胸元のスローイングナイフを投げつける。

 俺が投擲した4本のダガーは、

 聖剣レーヴァテインによって焼き切られる。



「このような飛び道具に頼るとは――所詮は、傭兵。

 魔王も大したヤツではなかったという証明となるだろう。

 魔王討伐から逃げたという汚名もすすげるというモノよ」



「はんっ。皮算用は敵を倒してからにしやがれ」



「フッ……言われなくと……いや、なんだこの煙、

 ……目が見え……、……貴様ッ何を?!」



「目が痛むか」



 この男の運動神経であれば、

 スローイングナイフを回避することは容易だったはずだ。


 だが、の聖剣レーヴァテイン、

 という強力な武器を持ったことで、

 気が大きくなった。


 結果として、

 ヒュドラの毒薬を染み込ませたダガーの

 表面に付着させた毒が蒸発、

 この男の眼球と気道に入りこんだ。



「――傭兵ッ! 要らぬッ、視界など!

 聖剣レーヴァテインと我の腕があればなぁッ!!」


「そうか。――なら、こいよ」



 左手のバスターソードを力任せに投げつける。



「フン。この程度ッ!」



 男は躱さず、バスターソードを真っ二つに切り落とす。

 焼き切られたバスターソードの剣先が、

 バトルマスターのマントを貫き、壁へと張り付ける。



「――終わりだ」



 虫の標本のように壁に張り付けにされた男の心臓に

 右手に構えたクレイモアを突き刺す。


 右手首にひねりを加え、臓器を完全に破壊する。

 男の口から泡立った血がごぽりと、あふれ出る。


 白光を放っていた、

 レーヴァテインもいまはただの鉄の塊。



「――残すは、あと二人か。帰るぞ、アレイシア」


「がってんっ」



 俺は、アレイシアの頭を撫でる。



 これは魔王を殺した傭兵と、

 魔王が残した一人の娘の物語。

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終わる世界の物語【短編】 くま猫 @lain1998

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