手の中の音符、耳の奥の文字

@hasegawatomo

手の中の音符、耳の奥の文字

少女の趣味は物語を書くことだった

それは誰にも知られることなく

一冊また一冊とノートが積み上げられる

学校の友達には言えない

両親でさえも知らない彼女の綴る世界

時に賢者の出て来るファンタジー

時に友達から聞いた恋物語

時に怪獣が涙する童話

今日も彼女は次の創作の為に

考え事をしながら歩いていた

渡り廊下から見る空に

何かヒントがあるような気がしていたところに

衝撃

彼女は誰かとぶつかった

目に写ったのは青いイヤホン

そのイヤホンで彼だと分かった

その少年は彼女の目に以前から止まっていた

だから知らない人とは思えなかった

コケた少年の外れたイヤホンから

少しだけ聞こえた音楽

何であるかはわからないままだが

前を見ずに歩いていた自分が悪いと思った彼女は

落ちた私物を拾いながらごめんと謝って去った


少年の趣味はスポーツ観戦だった

スマホにはスポーツナビ、見ない日はない

スポーツ関連の音楽も

全てスマホにダウンロードしていた

聴いてる時は会場に自分がいるようでわくわくした

自分のテーマソングが山ほどあった

両親は呆れてものも言えない

まわりの友達からは

スポーツオタクと呼ばれていた

その通りなので特に反論はしていない

昨日のサッカー中継で流れていた音楽を聴きながら

晴れ空に今夜の野球のナイターゲームに期待する

そうやって渡り廊下を歩いていたところに

衝撃

何が起きたのかわからなかった

ごめんと聞こえた

目の前に教科書とノートを拾う少女

いや、こっちも悪いと言って

去る少女と落ちたスマホを見る

そのスマホの隣に一本のペン

さっきの少女のものだと気づいて追いかける


少女は知らずにいた

拾ったのは教科書とノートだけではない事

少年はわからずにいた

そのペンが実況中継よりも多くを語る事


のちに知る

互いの新たなるウタ

書いては悩め少女よ

聴いては戸惑え少年よ


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