冒頭の一文について考える。そして反省したり自賛したりしてみる。

 冒頭ってすっごく大切だと思う。特にweb小説界隈では。

 ぶっちゃけ書籍は買っちまった手前、好みじゃないって気付いたとしても何ページかは捲るもんね。その間になんとなく物語が進み始めたら、とりあえずは読んじゃうと思うし。

 しかし、web小説はブラバっていう読者の最強魔法があるんだよね。これを使うと足跡もつけずに逃亡ができて、かつ今後の生活に支障も無いし、金銭的な損もない。


「えええ~? なんで私の小説1話目PV100なのに2話目が10なの~~~!?!?!?」


 という、web小説作家の嘆きは部屋中にこだまするけど。


 なので、僕もそれなりには、というかかなり出だしは悩んで工夫して書いていたりしている。正直最後の一文は、それまでの流れがあるから割とスパッと決まったりするけど、出だしはプロットやキャラクター設定があるにしたって、なにも無い状態からポンと書き出さなければいけないうえ、第一印象になるわけだから、当然難しいけど、ここがしっかりしてないと続きを読んでもらえないから、一生懸命頭をプスプス言わせながらひねり出して書くんだよね。


 で、その集大成と言うか、「実際お前はどんな出だしなんだ?」というのをここに書き連ねて、「これはこういう良い点がある」「でもこういう悪い点もあるぞ」というのを分析していこうというお話。



【死善の杜】


「これでパンを」


〔解説:良〕

・日常のシーンが始まったんだなというのが一発で解る。(因みにこの作品は価値観やら生死観などがめちゃくちゃな世界観を描いているので、この日常シーンを印象付ける必要があったので、この冒頭。その対比の一文)

・セリフというのは読者の耳に訴えかけるので、印象には残りやすいかな……?


〔解説:悪〕

・だからなに。状況が分からない。

・ミステリー要素としては弱い。

・世界観が一発で伝わらない。

・パンの話なの? まあタイトルからしてグルメ系ではないとは思うけどさ。



【クラゲ虫が湧く、十二月】


 その日は冬がバカになっていた。


〔解説:良〕

・どういう意味だろう? と疑問に思い次へと目が行く。

・冬がバカという通常ではありえない比喩表現。好きな人はぐっと入り込める。

・バカという思考が入ることで一人称なのだということが明確になる

・なんだか奇妙な物語が紡がれるのだと世界観が一発で解る。


〔解説:悪〕

・このあとに続く文脈的には関連性があるけど、じゃあ、メインテーマやストーリーになにか関係あるのか?

・捻った比喩が嫌いな人はブラバか。



【本とみみたぶ、あとラブソング】


 あいつが教室で読んでいた本だ。


〔解説:良〕

・あいつ、という誰かが居て、その誰かを主人公が気にかけていると言うのが解る。主人公とあいつとの物語が展開していくのだと言うことが解る。

・あいつ、ということで一人称であることが明確になる。

・あいつ、が読んでいた本を覚えている主人公の心理状態(恋愛フラグ)がなんとなく解る。

・本が近くにあるという状況説明ができている。


〔解説:悪〕

・特別悪い印象はないが、それゆえ印象深さはない。数行後には忘れられているかも知れない。



【ため息代行サービス】


「はあ」


〔解説:良〕

・タイトルとマッチしている。

・短い一文のため、自動的に次へと目が行く。

・なにか思い悩んでいる人がいると言うのが明確。

・セリフは印象に残りやすい。


〔解説:悪〕

・状況(誰がどこでなにをしている)が分からない。



【僕は残す】


 斜陽に照らされた教室の一番隅。教壇から一番遠い窓際に、彼はまだ居た。


(*二文。一行以内に収まっており、連続性があるため。)


〔解説:良〕

・いつ誰がどこに居ると言うのが明確。

・彼、と呼ばれる存在が居て、それが物語の主軸になっていくと予想される。


〔解説:悪〕

・開幕から情景描写は入りづらい。(美文を書ける人ならともかくこのレベルではやる意味がない)

・彼、と入ることで、三人称を想像させてしまう(実際は一人称)

・淡々と状況説明がされているだけで、ここまでに引き付ける要素は皆無。



【ポンと叩けば】


 会社からの帰り道。自宅の惨状さんじょうを思い浮かべて、頭が痛くなった。


(*二文。一行以内に収まっており、連続性があるため。)


〔解説:良〕

・主人公が会社員であることが明確。

・自宅に主人公の悩みの種があると解る。

・悩みに対しての解決を図る物語なのだと想像できる。


〔解説:悪〕

・本作のメインであるSF要素からかなり遠い出だしで、世界観を想像できない。

・主人公の悩みが日常的で(軽そうで)、興味を持てない。



【ボクシング階級分け】


 体格により結果が大きく左右されるスポーツ。そんな不公平を取り除こうと、各競技には体重による階級分けというものが存在する。


(*二文。連続性があるため。)


〔解説:良〕

・タイトルとマッチしている。

・どういう物語が展開されるのか容易に想像できる。

・世界観が概ね掴める。


〔解説:悪〕

・説明臭い(出だしで説明はブラバされるかも)

・二行も使ってストーリーが進行していない。

・キャラクターが出てこない。(物語上仕方ないとはいえ)



【エロ本ライダーと自殺系女子のメランコリア】


「あっ……イクっ!!」


〔解説:良〕

・セリフは印象が残りやすい。(インパクトしかない)

・どういうこと!? と続きが気になる。

・エロいのかな? と(健全エロ少年は)続きが気になる。

・エロ本というタイトルにマッチしている。


〔解説:悪〕

・下ネタかよ。(嫌いな人はブラバ)

・悪ふざけかと思われる。

・この出だしの癖に、最後はなんか良い話みたいになっているので、冒頭で期待した人を存分に裏切る結果になる。



【無限の死のアリス】


「アリスに選ばれました。リーエ様」


〔解説:良〕

・セリフは印象に残りやすい。

・タイトルとマッチしている。

・世界観を一部出せている。

・リーエという人が居るのが解る。

・『様』と言われることで、リーエという人は偉い人だと言うのが解る。

・アリスが人ではなく選ばれるなにか(爵位、職業、概念)であることが解る。

・アリスがなんなのかというミステリー要素。


〔解説:悪〕

・リーエが主人公なのかと思う。


【降る空ノ鼓動】


 音喰おとぐいだ。


〔解説:良〕

・タイトルとマッチしている。

・音喰いという謎の単語がミステリー要素になる。

・世界観を表現している。

・音喰いの『喰い』がなにか凶暴なものを想像させ、このあとの展開を想像させる。

・作品の主軸になってくる敵、病気、解決しなければいけない存在がそれであるため、作品全体と絡んでくる。


〔解説:悪〕

・とてもシリアスな印象を与えるため、ラブコメがこのあとわんさかあるのにラブコメ好きがブラバしてしまう可能性がある。




 以上。


 総括。

 作品によってさまざまだったけれど、個人的にはまだ技量が追い付いていないという部分もあって、情景描写を冒頭に置くのは良くないかなと思う。

 謎単語や捻りを聞かせた比喩が冒頭に来ると、ぐっと引き込むことができるんじゃあないかなあと思う。

 早めにキャラクターを出す、という点ではセリフ始まりは効果的。セリフを言った時点で既に一人出たことになるから。

 個人的には降る空ノ鼓動の『音喰いだ』が一番いいかなあ。地の文ではあるものの、ほぼほぼキャラの独白なのでセリフと同じくらいの即効性と印象付けができているかなとも思うし、「わー音喰いだー」じゃなく「音喰いだ」と言うことで、その場の深刻さを表現できてもいるし。セリフにしないことで、さらに声を出してはいけない状況も説明できているし。自画自賛が凄いな。




 さて、ここまでお付き合い頂いた方にちょっと提案です。

 もしもこれにコメントを残してくれようとしている人が居ましたら、コメントに自作のタイトルと冒頭とURLを貼ってくださいませんか?

 それを見て僕が読みに行くってわけじゃあないんですが、他の方が見たときに「お、これは面白そうだな」と思って行くかもしれないじゃあないですか。そういう導線にもなったらいいなあと思うんですよ。

 これはTwitterでもやろうかなって思っています。

 このエッセイへのURLを貼った後に、皆さんにリプに自作のタイトルと冒頭とURLを貼って頂きたいのです。

 そしたら僕がリプにて「参加くださりありがとうございます」と言って、RTします。良い文面が思いつけば、引用RTします。

 何回も言いますが、僕が読みに行くわけでは無いです。積読つんどくめっちゃあるので(笑)

 ただ、冒頭が人の目に触れる機会が増えれば、読者が増えるかもしれないじゃあないですか。なので、そういう企画とまではいかないですが、皆さんが楽しくなるきっかけみたいなものを作れたらなあと思っていますので、奮ってご参加ください。下にテンプレートを記載しておくので、使用してください。『*』に記入してください。



↓テンプレート↓


【*ここに作品タイトルを入れてください】

*URLをいれてください

〔冒頭の一文〕

*ここに冒頭の一文を入れてください


#冒頭の一文で読者を引き込めるかチャレンジ


↑テンプレート↑




~上で使った作品のご紹介~


【死善の杜】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891141523


【クラゲ虫が湧く、十二月】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892681106


【本とみみたぶ、あとラブソング】https://kakuyomu.jp/works/1177354054892705618


【ため息代行サービス】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890004771


【僕は残す】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889675396


【ポンと叩けば】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893258479


【ボクシング階級分け】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890132953


【エロ本ライダーと自殺系女子のメランコリア】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893294221


【無限の死のアリス】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893141999


【降る空ノ鼓動】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054891793168

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