教えてくれ

リエミ

教えてくれ


 ある日私は、通り行く人たちが、私のことをじっと見ていることに気づいた。


 それはまるで、何か得体の知れないものでも見るかのように、恐ろしそうに、脅えていた。


 ふと視線が合うと、すぐに目をそらすのだ。


 子供たちは私を指差して驚き、笑い出す子もいた。


 私は何だか不気味に思った。


 私の顔に何かついているのだろうか、そう思い、不意に取り出した鏡を見てみたが、いつもと変わらない姿がそこにはあった。


 どこへ行っても、人々の寄せる視線。



 私はついに耐えられなくなり、ぞっと青い顔で私を見る、ひとりの青年に尋ねた。


 青年はびくびくしながらも、しっかりと私を見つめた。


「失礼だが、私の顔に何かついているか?」


 しかし青年は、


「いや、僕の口からはとても言えません……」


 と、教えてはくれなかった。



 いったい、どういうことなのだろうか。


 私は不思議でならなかった。


 何人か他の人に尋ねてみたが、皆同じ答えだった。


 中には私が近寄っただけで、逃げていく人もいた。



 誰か、教えてくれ。


 私は気が狂いそうになった。




 ついに私は、どうしても真相が知りたくなり、ビルの屋上へのぼった。


 人々はざわめいた。


 私は人々に向けて叫んだ。


「いったい、私がどうしたというのだ!! 誰か教えてくれ!! でないと私は、ここから飛び降りるぞ!」


「やめろ! そんなことをしても、何にもならないぞ!」


 人々は決して教えようとはしなかった。


 とうとう私は飛び降りた。




 死んでからというもの、生前の人々の様子が、いまだ忘れられなかった。


 私は「教えてくれ……教えてくれ……」と、生きていた頃の自分につきまとい、必死に答えを探した。



「誰か……教えてくれ……」




◆ E N D

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

教えてくれ リエミ @riemi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画