改札

 私は北海道の田舎の生まれで、移動はもっぱら車でした。だから電車(汽車と呼んでいるのは北海道民だけだとその時は知らず、東京にきてから大恥をかきました)に乗るということは、ちょっとしたイベントで、子供だけで電車を使って隣町に行く時なんかは、もう大冒険でした。
 受験の為に遠出する時に買ったバカ高い切符は、なにより自分が大人であることを証明してくれている気がしました。そしてそれが最後だったように思います。それから、切符はただの切符になったのかもしれません。
 この物語を読んで、特別だと感じていた自分や場所のことを思い出しました。どうして僕だけが切符が無くても入れてしまうのかと憤慨したあの日を、改めて体験したような気分です。
 街の真ん中で堂々と口を開け閉めする改札。思いは違えど、誰しも少なからず、自分だけの思い出を持っているのではないでしょうか。幼い私がまだかまだかと足をじたばたさせている横で、もしかしたら全く違う時間の流れを楽しむ、一人の女性がそこにいたのかもしれません。満足そうな笑みを浮かべながら。

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