番外編 君こそ我が心のすべて

このスピンオフでも座談会開催です! 主人公二人に質問をするのはあのバレット王宮医師に決定。この座談会は二人の結婚後、三年弱経った頃に行われました。ミラは待望の第一子妊娠中です。



***




― 王国歴1023年 初春


― サンレオナール王宮 王妃の居室




 ここは王宮西宮のミラ王妃の居室である。ミラと国王は長椅子に座り、その向かいには王宮医師のバレットがいた。ミラは自分の大きいお腹を優しく撫でている。


「本日は両陛下のお話をお聞きする為にこのような場を設けさせていただきました。スピンオフ完結記念の座談会でございます。恐れ多くも両陛下に個人的な質問をするのはある程度の地位にある者でないと、ということで私ゲタン・バレットがこの名誉ある役に抜擢されました」


「まあねぇ、俺もバレットに隠し事はできないからね」


「何しろ私も陛下は御誕生の際から存じ上げておりますし、王家にはかれこれ三十年近く仕えさせていただいております。さて、お二人とも簡単な自己紹介をしていただけますか?」


「ガブリエル=アルフォンス・サンレオナール、第37代サンレオナール国王、28歳。こちらのミラと三年前に結婚、即位は二年前。ミラとの間に待望の第一子がもうすぐ生まれ父親になる」


 国王は優しく微笑んで隣のミラの手をしっかり握った。


「ミラ・ルクレール=サンレオナール、22歳です。生まれは王都、子供時代は主に実家の領地で育ちました。何故か三年前に王家に嫁ぐことになって、王太子妃になり今は王妃です」


「何故か、はないだろうミラ!」


「だって今でも不思議なのよね、この私が王妃の座にいるってことが。でもこうしてゲイブのお子をようやく身籠みごもることができて経過も順調で、とても幸せです」


「うん、楽しみだね」


「王妃様ご自身がそうして無駄に気負われず余裕を持って出産に臨まれるのはとても良いことですよ」


「お産が怖くないかって言われたらそりゃあ怖いけれど、多くの女性が通ってきた道ですし。なるようにしかならないわよね。案ずるより産むが易しよ」


「そうだよ大丈夫さ、名医のバレットもついている」


「結婚してからこの子を授かるまで二年と少しの間、周囲の圧力が凄かったのよね。私自身は特に気にしていなかったのです。子は授かりものですしね。それでも王家に嫁いだものだから世継ぎを、王位継承者を、とうるさいのなんのって」


「精神的な重圧、大変だったことでしょう。お気持ち察します」


「貴族院のジジイどもや他の貴族に色々ゲイブも言われていたのですね。王妃は〇女うXXめに違いない、側妃をめとって下さいなんてね。そんな声が私の耳に入らないように大層気を遣って下さいました。感謝しています」


「結局はミラの耳に入っていてさ、しかも全然気にしていないし怒ってもいないから俺の方がかなり落ち込んだよ。それに、例によって結婚前から繰り返している側妃問題が再浮上してきて『ゲイブ、やっぱり側妃のこと考えてみたら』なんてミラが言い出す始末だから喧嘩になった」


「喧嘩って、ゲイブが一人で拗ねていただけじゃない」


「陛下の気苦労お察しいたします……」


「あの貴族院のオッサンたちね、王子の誕生しか認めーん!って顔に書いてあるのよ。この子がもし姫だったら再びゲイブに『側妃めとれ攻撃』が再開するわね。それに『うちの娘を側妃に攻撃』も。王族って大変ね!」


「ミラ、なんでそんな他人事みたいに言うの?」


「陛下の御心労、ご愁傷様です……」


「そんな攻撃を避けたい意味では俺は王子の誕生を願うけど、本当はどっちでもいい。ミラによく似た子ならさぞ可愛いだろうなぁ」


「私はゲイブ似のお子がいいわ」


「ハッハッハ、とにかく御夫婦仲睦まじくて何よりでございます。さて、国王陛下もうすぐ父親になられますが、相変わらず執務で日々お忙しくされておりますね」


「ああ、ミラの出産前後には俺も夫婦でゆっくり過ごしたいしね。今のうちに済ませられることは先にやっておこうと頑張っているのだよ」


「即位されてから行われた改革は賛否両論あり、未だに王宮内では混乱をきたしてもおりますね」


「それも長い目で見れば王宮全体のためになることだ。今までの王は思い切って踏み切れなかっただけだよ。誰かがやらないといけなかったことだ」


「元々身分よりも能力重視の専門職にはそこまで影響しませんな」


「それでもそのうち一般侍臣養成学院にも数々の専科を設ける予定だよ。いずれは平民出身の王宮医師が誕生するかもね」


「その頃には私は退職しておりますなあ。若手の台頭を間近に見られないとは少々残念です。それでは今度は王妃様に。御懐妊の発表以来、公務も減らされておりますね」


「公務もないよりはしていた方があちこち出掛けられるし……だから最近ちょっと退屈気味なの」


「周りが万が一のことを考えて大事をとっているからね」


「それでも運動不足だと難産になるから体は適度に動かせと言われるし……なかなかね」


「さて、陛下は将来の夢、目標、計画等はおありですか?」


「そうだね、執務の面では先程言ったように能力制をもっと定着させたいし、外交の面ではこのまま近隣諸国との平和で良好な関係を維持していきたい。私生活では良い夫、良い父の役割をしっかり果たしたいね」


「子供は親の背中を見て育ちますからね。では王妃様は?」


「とりあえずの目標は無事に出産を乗り切ることね。出来ることならゲイブのお子はもっと欲しいわ。結婚してからなかなか授からなかったけれど、ちゃんと種も畑も機能しているみたいだし……でもこればっかりは希望を言っても分からないわよね」


「お二人共健康であらせられるのでご心配いらないと思いますよ」


「以前は王族の暮らしなんて窮屈なだけだと思っていたのです。それでも公務もつまらないことばかりでもないのよね。政治には私は口を出さないけれど、王国をより良い方向へ導いていこうとするゲイブを側でしっかり支えていきたいです」


「王妃様としての威厳も立派にお持ちです。私が最初お会いした時予想した通りでした」


「まあ……私が仮病を使ってゲイブのお誘いを断った時ね!」


「あれはバレバレでございましたよ。さて陛下の方は初対面でもう既に王妃様のことを大層お気に召されたようでしたね」


「うん、そうだね。あの時から何となくこのひとしかいないって感じていた」


「王妃様の方は陛下への愛に気付かれたのはいつですか?」


「えっと、彼が私に何も告げずに戦地へ行ってしまった時かしら」


「押しても駄目なら引いてみろ作戦だよ」


「まあゲイブ、本当にそれを狙っていたの?」


「いや、何となくムシャクシャして思わず南部に飛び出したっていうのが本当のところ。君があんなに心配してくれていたなんて考えてもいなかった」


 破顔し頷きながら若夫婦の話を聞いていたバレット医師は再び口を開いた。


「この物語は王国シリーズのスピンオフとして書かれました。シリーズ全編を通しその豪快な性格で突っ走り、周りを呆れさせていた王妃様に対し、陛下の出番は少なかったですね」


「ああ。このスピンオフでやっと男主人公の役を射止められたよ。シリーズ本編ではあまり活躍させてもらえなかった分、こちらではカッコ良くきめられたかな?」


「うーん、カッコ悪いことの方が多かったかしら?」


「ミ、ミラ?」


「ゲイブのカッコ良さは私が知っているからいいのよ」


「ハッハッハッ! 陛下も王妃様には敵いませんなあ」


「ゲイブってね、自分では関白宣言したつもりなのよね」


「しかし実際は王妃様のお尻に完全に敷かれているようですな。しかし夫婦の力関係はその方が大概上手くいくものですよ」


「カンパク?」


「関白って言うのはね、この世界で言うと宰相みたいなものね。でも亭主関白って言うとまた意味が違ってね、関白宣言とは『オレより先に寝るな! 飯は美味く作れ! 俺は浮気は……多分しない……と思う!』とか言う横暴な夫の台詞のことよ」


「???」


「ワハハ……それではそろそろ最後の質問をさせて頂きます。お互いどう呼び合っておいでですか?」


「私は家族や親しい人の前ではゲイブ、それ以外では陛下ね。彼が即位前はもちろん殿下とお呼びしていたわ。時々私の王子さま、王さまとか」


「俺はミラ、俺の奥さんだね」


「白いサラブレッドさん、空色の魔獣なんてのもあったわね」


「うん、懐かしいね」


「あ、今赤ちゃんが動いたわ! ヤダそんなに蹴らないでよ、肋骨痛い! お腹が裂けちゃう! ほら、ゲイブここ触ってみて」


「本当だ、今日はまた一段と元気だね。王子様かお姫様、聞こえるかーい?」


「お二人本当に仲が良くていらっしゃる。お子様もきっと御両親に早くお会いになりたいのですよ。では私はそろそろ失礼致します。ありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました、バレット先生」


「御苦労だった、バレット」


 未だミラのお腹に顔を近付けて胎児に話しかけている国王を微笑ましく見つめながらバレット医師は退室した。


「あ、俺の手を押し返した! パパはここにいるよー」




***ひとこと***

この時の胎児ちゃんは本編でお馴染みのあのお子様ですね!


このスピンオフの番外編もこれでおしまいです。最後の最後までお読み下さってありがとうございました。

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王子と私のせめぎ合い 王国物語スピンオフ1 合間 妹子 @oyoyo45

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