第十四段
昔、男、ふらふらしているうちに、みちのく方面に至った。そこに住む女、みやこびとがかがやいて見えたのか、大層な執心に至って歌う。
恋しくて
死んでしまいます
恋しくて
死ぬくらいなら
かいこになりたい
あなたと邂逅して
短い命
こと切れて
田舎びたものだと厭わしく思うが、この振る舞いに、まあ心が動かぬというわけもない。共寝をし、夜深いうちに退散したところ、女は歌う。
夜明けには
このにわとりを
しめてしまおう
夜明け前に
このにわとりは
鳴いてからに
夜明け前に
いとしい方を
帰してからに
男は「京に帰ります」と言いしな、
この地、栗原の松
うつくしい松
せめてあなたがこの松ほどに
うつくしくもあれば、
わたしは朝を待つものを
みやこへのみやげに
連れ出すものを
と歌う。なんと女、これにすっかりよろこんでしまい、「あの方はあたしをおもっててくれたんだ」と言い募ったとか。
伊勢物語、乱反射 伊藤大河 @taichintei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。伊勢物語、乱反射の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます