第十三段

昔、武蔵の国に住む男がいた。かつて住んでいたみやこに住む女のもとに、「たよりをお伝えするのはみっともないことだし、かといってお伝えしないのも心苦しい」と書き、その上書きには「武蔵の国の鐙(あぶみ)」とのみあり、送りつけた。その後、音沙汰も無いところに女から。


武蔵国から鐙が来ました

わたしはわたしのおもいでに

鐙をかけて、足をかけ、

夢路をかけて、あなたのもとに

ただあなただけに、

賭けていたのに

武蔵の国から鐙が来ました

いずれ悲しい手紙です

問はぬもつらし

問ふもうるさし


この手紙を受け取った男は、耐え難い心地がして、歌う。


鐙に足をかけたとき

わたしは虚しく落馬した

鐙を放っておいたとき

わたしは恨みの瞳を受けた

いったいわたしは何に賭けた?

欠けた心で、

どうして生きていられましょうか

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