第十二段

むかし、男がいた。

人様の娘を盗み出して、武蔵野方面に連れて行くところ、盗人だということで、当地のボスに捕らえられた。

すると男は、ひとまず女を草むらのなかに隠しておいて、逃げて行った。追っ手は、この野には盗人がいる、ということで火をつけようとする。女は困り果てて歌う。


この武蔵野に

きょうだけは

火をつけないでください

見えるでしょう

萌え出でる若草が

それを燃やしてしまうのですか

わかるでしょう

萌え出でる

わたしたちの仲らいが

それを消し炭にしてしまうのですか


これを聞いた追っ手は、女をも捕まえて、男とともに連行した。

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