司書をしている隆文は、ある日、勤務先の図書館で一人の女性と会いました。彼女は万年筆で文字を紡ぎ、とある“言葉”を探していると彼に伝えます。
これが、二人の出会い。そして、『未言』の世界との出会いでした――。
生真面目ながら誠実で優しく、ときおり京言葉が零れる隆文と、
声を出すことはできないが、表情が愛くるしく天真爛漫な妙乃。
手紙を交わしながら、しだいに近づいていく二人の恋の道は、時に和やかで、時にじれったく、時に胸ときめくものです。
特に、明るく茶目っ気のある妙乃が、とても可愛らしく、読み進めるごとに魅力が増していきました。生真面目な隆文が振り回されて困る様子に、クスリと笑いも零れます。
また、この物語の一番の魅力は、美しい『未言』たち。辞書にはない言葉がたくさん登場しますが、言葉のイメージがすっと入ってきて、情景や想いが目に浮かびます。思わず「あぁっ」と感嘆が漏れることも。
さらに、後半は驚きの展開に!?
趣深い言葉たちと織り成される、美しく愛らしく烈しい物語。
『未言』という言葉に惹かれたなら、ぜひ読んでみてください!
美しい風景、不思議な現象、心に引っかかった事柄を的確に表現する言葉を見つけ出すというのは難しくて、どうにか表現したいのに上手くいかなくてもどかしい思いをするというのは、何かしら文章を書こうと試みた方なら経験があると思います。
そんな時の一つの答えが、この作品の中にあると思います。
ないのなら、作ってしまえばいい。
例え、普通の辞典に載るような言葉ではなくても、それを共有できる相手がいるのであれば。
その相手が、生涯を共にできるという相手であるのなら、こんなに幸せなことはないと思います。
微笑ましくも可愛らしい恋愛に添えられる美しい「未言」の数々。
読めば、言葉の大切さを、世界の美しさを、心震わせる言葉に出会えた時の感動を再認識できます。
本当に素敵な作品でした。