廃村に喚ばれる
県内でも有数の豪雪地に、仕事で3年赴任したことがあります。山間に点在する集落、平地の真ん中には大きな川が流れ、熊が出没しても不思議ではない山奥の町。
初めての一人暮らしでしたが、テレビもオーディオも設置せず、電話も引かないという、極めて静かな生活を選びました。当時はとある採用試験の勉強をしていたので、勉強に集中出来る環境にした訳です。
周囲は山ばかり。コンビニもなく、遊べる場所もありません。まだ車の免許取得の為に教習所に通っている最中だったので、行動範囲も限られていました。
そんな不便極まりない生活をしたせいか、感覚が鋭敏になったのかもしれません。
夢を見始めたのです。
それは1本の時代劇映画を細切れにして、ランダムに再生しているような奇妙な夢でした。まるで誰かの記憶を辿っているかのように、生々しくリアルな夢。
毎晩毎晩、夢は続きます。だんだん夢と現実が混濁していくような、底知れない不安を感じ始めた頃。
地元の方の案内で、山葡萄を採りに出掛けました。
突き当たりの集落から更に山奥へと続く砂利道をジープで進んで行くと、ぽっかりと拓けた場所に出ました。
一面雑木林と化してはいるものの、かなり広い平地です。その場所で停車しジープから降りると、雑木林の一角のこんもりとした叢に向かって、地元の方が手を合わせました。
「十人塚とか、二十人塚と呼ばれる墓ですわ」
天明の大飢饉の折、遺体を纏めて埋葬したのだという説明を、私は上の空で聞いていました。
雑木が生い茂っていて気付けなかったのですが、この場所を私は知っていたのです。
十人塚の位置、その左奥にある朽ちかけた鳥居と小さな祠。
ここにあった小さな村を、夢で見続けていたのだと気づいた瞬間、涙が溢れました。
あの廃村と、どんな繋がりがあったのか。何故、喚ばれたのか。未だ謎のままの体験です。
不可思議な事象 涼月 @ryougethu-yoruno
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