伝説のバカの世直し旅、……主に壊しているが


 正確には、「伝説のバカ王子の世直し旅」である。だが、王子という単語をいれてしまうと、これから読もうという人にあらぬ誤解を与えてしまう、これはそんな内容の冒険譚である。


 バカ王子で有名なガルフォンスの夢は、ハーレムを作ること。そのハーレム要員でもある美少女たちを引き連れて、世界を巡る旅をしている。

 ……のだが、王子であるはずのガルフォンスの、周囲からの扱いがこれまた酷い。ヒロインである金髪美人のアイシャからは、毎回聖剣で殴り飛ばされて場外ホームラン。お金がなくて、お店でオーダーするのはいつも「塩パスタ」。
 格好良く名乗れば、民衆が声をそろえて、「伝説のバカ王子!」。

 世の中を良くしたい、そういう思いはあるのだが、すべてが裏目に出てしまい、何かやるたびに、「バカ王子」としての名声が上がってゆく。

 だが、実はちゃんと素晴らしい業績も残しているのだ。彼がいなければ、女子の下着がかわいいパンティーになることはなかったろう。他にもある。あとは、そうパンティーの大量生産ラインの構築とか。それから、パンティー製作の利益で、ある家族を救ったりとか。


 というような話なのだが、それは置いておいて。

 本作はコメディーである。いやもしかしたら、ファンタジーとして書かれたのかもしれないが。

 シュールなギャグ、秀逸な言い回し、キャラクターたちのドタバタ。どれもが楽しい。すこし難解なお笑いもあるのだが、そういったギャグは分かったときは突き刺さるほどにおかしいものだ。

 そういったギャグの嵐に紛れて、だがしかし、ちゃんとしたストーリーもきっちり作られている。のだが、たとえ作者が、なんかちょっといい話を書こうとしたとしても、ガルフォンスはじめとするキャラクターたちがよってたかって足を踏み外し、してはならないことをやりまくり、大惨事を引き起こしてしまう。そういうシステムのお話である。それくらい、お笑い偏差値の高いキャラが揃っている。

 また、シュールなギャグやジョークにつなげるための伏線が随所に張り巡らされ、一瞬でも隙あらば、爆笑の刃が突き込まれてくる。というより、これは真摯にギャグに向き合っていると表現すべきできないだろうか。
 すべてがギャグの地雷。ことごとくが、笑撃のブービートラップだ。


 とまあ、長々と書いてしまったが、要点だけ述べさせていただくと、これは面白くて可笑しくて楽しいお話である。そして、ムルカジくんがとても不幸な物語なのである。

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