俺が選んだ! 俺のハーレム娘達が!! 俺の命を狙ってる!!!

如月 仁成

俺の日常は大体こんな感じ


 ここは俺の夢が叶った世界。美女ばかりがかしずくハーレム。

 宵闇のベッドに三人の美姫。まったく、困ったやつらだぜ。


「こらこらお前ら、先を争ってベッドに潜りこんでくるんじゃねえよ」


 金髪を靡かせる美女。元王女のアイシャ。

 褐色の肌に妖艶な唇。魔族のジルコニア。

 女神も羨むプロポーション。メルクハート。


 足元から潜り込んできた三人は、その手を俺の足に這わせ、腹に這わせ、胸に這わせ。

 そして美しい顔を目の前に並べると、甘い声でおねだりを始めやがった。


「死ね! ガルフ! 今すぐ死ね!」

「私の王子様でも、稀に魂を抜きたくなることあるのよね」

「うう、四人分のござを独り占めしちゃ困るのです~」


 俺が二枚重ねに敷いていたござを引き抜くメルクハート。

 同じく二枚重ねにかぶっていたござを奪って体に巻くジルコニア。

 そして、俺の顔をブーツで踏みつけて、グリグリとにじるアイシャ。


 こらアイシャ。何度も言ってるだろうが。

 目の所を踏みつけるんじゃねえ。それじゃパンツが見えねえだろうが。



 ――ここは、とある山中。その岩肌をくりぬいただけの、やたらとつめてえ風がひっきりなしに吹き込む牢獄。

 赤茶に錆びた鉄格子の外に見えるのは、まばらな針葉樹とバカみてえに赤く陰った月。

 そして暖かそうな獣皮のコートを着て、焚火で手を温めてやがる王国騎士ども。


 てめえらばっか温まりやがって、覚えとけよ? 俺はこう見えて、ムカついた相手の顔を一生忘れねえ、ねちっこい男だぜ?


「まったく! なんであたし達まで牢獄に入れられなきゃなんないのよ! あんたといると、いっつもこんな目に遭う!」

「うるせえぞ粗忽そこつ女。どう考えてもてめえのせいだ」


 バカじゃねえの? なーにが伝説の剣抜けたーだよ。その昔、勇者が地精を鎮めるために刺した封印だって説明したじゃねえか。なあ、アイシャさんよ。


「あら、王子様はアイシャにブーツで踏まれてご満悦? 殺したいほど嫉妬しちゃうわ」


 なに無関係装ってんだよジルコニア。てめえがアイシャとガチバトル始めなきゃこの粗忽も剣を抜いたりしなかったっての。


「うう、ようやく暖かくなりました……。でもこの冷え様、寝たら死んじゃいますよね」


 そしててめえな。ブルムの村が地盤ごと崩壊し始めたってのに、二人の服の破れ方がエロいとかよだれ垂らして惚けてるんじゃねえ。誰が助けてやったと思ってんだよメルク。



 こんなバカトリオだが、俺の大切なハーレムっ達だ。捨てる訳にゃいかねえ。

 くそっ。てめえらのせいで、なんで俺がいつもこんな目に遭う。


 ブーツが頭からどいて、ようやくアイシャ自慢の引き締まった足が視界に入る。

 ゆっくり堪能してえとこだが、寝転がってる場合じゃねえぞこれ。地面がまじで冷てえ。すぐに起き上がらねえと。


「よっこらせ。……おい、俺の分のござ寄こせよ」


 そう言って振り向いた先。三人はそれぞれござを肩から巻いて、一枚のござを仲良くシェアして尻に敷いてやがる。


「こら、てめえら」

「うるさいわね。あたしのエストニアス様ならともかく、なんであんたに恵んでやんなきゃなんねーのよ」

「ふざけんな。そんじゃ、誰かが俺を抱きしめて暖めろ」

「あらダイタン。なら私が遠慮なく……」

「お前は却下だ近寄んな」


 ジルコニアのことだ。どうせナイフでも隠し持ってんだろ? 寝首掻こうったってそうはいかねえ。


「やだ! あの冷たさ、ぞくぞくしない?」

「しねーわよ。それよりジル、あたしに抱き着いてよ。あんた肌の色も濃いし、なんだかあったかそう」

「ひいっ!? 触らないでよ!」

「え? なに?」


 ジルコニアが慌てて飛び退きやがったが、当然だ。

 聖者の血統、アイシャの力は本物だからな。


 ……触っただけで、魔族のジルコニアが消滅しちゃうから。


 やめたげて。


 狭い岩牢の中。キャッキャウフフに対してガチ悲鳴。ああうるせえ。

 それをお前は……。


「メルク。よだれ垂れてるぞ?」

「あ、拙者のごときぶひぃ勢の事などどうかお気になさらず。こうして配信即停止必須の映像を生で堪能できるだけで幸せですので……。あ、パンツ見えた」


 ほんと役に立たねえなおめえさんは。

 ……しょうがねえ。


「やめろ粗忽女。ひがみ根性でジルコニアいじめるんじゃねえ」

「ひがみ? なんで?」

「こいつ殺して世界のバストサイズの平均値を下げようったって無駄だっての」


 俺が諭すと、ようやくアイシャは足を止めてくれた。

 そしてジルコニアの黒革インナーから零れる物体を見た後、自分の皺ひとつねえインナーを見つめる。


「……無駄ってどういう事よ、ガルフ」

「気に入らねえ胸を持った女を殺して殺して、ようやく平均値に達したその日、お前は気付くことになるのさ。……世界にあれだけいた女が、自分ひとりになっちまっていることに」

「死ね!」

「ぐほお!」


 横向きに、腰が直角に曲がるほどの衝撃。鈍器によるフルスイング。

 それに吹っ飛ばされた俺は、なんかめちゃくちゃ狭い隙間を無理やり通り抜けたような激痛を感じながら岩肌を転がった。


「超痛え! 何すんだこのそこ……つ……ウソだろ?」


 牢屋の格子、一本抜けてる! てめえ、どんだけバカ力なんだよ!

 呆れる俺の目に映るのは、鼻息荒くひしゃげた鉄格子を握るアイシャ。



 ……が。



 その鉄格子の中にいる。



「あれ? なんだ? どうなってる?」


 あまりの勢いで吹き飛ばされたから、あそこを抜けちゃったのか。

 ははっ、なーんだ。それじゃただの……。



『脱獄だー!』



 月明りの山肌に響き渡る笛の音。無数に寄って来る全身鎧。


「違う! 見ろアレ! 鉄格子に掴まってるふりして口笛吹いてる粗忽女を見ろっての! あいつのせいだって!」


 どれだけ俺が喚いても無視とか。あいつらに甘いとか。

 ほんと美人って得な。



 ……気付けばこんな四人でいるのが当然になっちまっているが、半年前まではアイシャと二人旅だったんだよな。

 いつからこんなことになったのか考えてみるか。



 あれは確か……。



 …………いや、思い出してるだけだって。現実逃避なんかじゃねえよ。ほんとにこんなの怖くもなんともねえんだからな?



 俺は手足に鉄球をはめられて、極悪囚人と同じ牢の隅っこで、昔のことだけを必死に思い出すことにした。



  あれは確か、暑い季節が始まった頃だったな……。


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