小さな花は夢を見せる──after

「……終了いたしました。死亡時刻、13時24分です」

燦々と陽が降り注ぐ夏の日。病院の屋上に、白衣の男の声が響く。屋上の縁のその先を覗き込みながらのその言葉に耐えきれなくなったのだろう。1人の女性がその場に崩れ落ち、すすり泣きは嗚咽に変わった。

視覚は騙せてもそれ以外は騙せない。絶対静粛を命じられたそこでかけられた言葉はこれから先、強く女性を繋ぐだろう。

「あの子……幸せだったって……幸せになってって…………」


緻密な計算がされたVR、病の苦痛を消し去る適正量を超えたモルヒネ。眠りから覚め、自ら終わりに歩み寄り、そして再び眠りに落ちる。最新技術によって生み出された安らかな死が、たった今少女をあの世に送り出した。

彼女は眼前の光景に驚き、心震わせ、幸せな気持ちのまま屋上から身を投げたことだろう。日々痛みに苦しみ衰弱していく彼女をもう楽にしてあげたいという両親の意思だった。



男の視線の先には地面に伏せる少女の姿。

小さな花と夢を渡り、眠りに落ちた彼女の顔をここから見ることはできない。

しかし彼女が咲かせた大輪の花は強い風にもなびくことなく、真っ直ぐ太陽を向いて笑っていた。






《三題噺:ひまわり,レンガ,VR》

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小さな花は夢を見せる 陽乃 雪 @Snow-in-the_sun

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