第53話 天世ひかり


 光が瞬いた。

 視界が奪われる―――敵がいて、目で追うことを封じられるというのが正確なところか。

 もちろん数秒の間だが、攻撃されている。

 背中側だ―――首を狙ってきた?

 鬱陶しいので反撃に移る。


「———ぬうッ!」


 反撃の剛腕を振りまわす―――空を切り裂き、大気をブルドーザーで押し除けるような音が響く―――その音だけ、だった。

 空振りだ。


「…………!」


 自分の身体は魔怪人の中でも強靭な部類に入る、というよりも巨体である。

  単純に腕の太さだけを見比べても、この少女の五倍から十倍はある。 だからこそ、首を狙った殴打も受け止めることができた。



 ―――殴打なぐってきたか。

 ようやく、距離を置いて、というよりも敵魔法少女がいつの間にか離れて、姿勢をもとに戻したゼレファンダー。

 攻撃を受けた彼は驚いていた。

  魔法少女が、魔力攻撃―――ではなくシンプルな殴打を、魔法戦杖マジカルステッキで仕掛けてきたことに。



 ―――『発動』はしている、したはずだーーー魔法戦杖マジカルステッキは―――それでもなお、コレか?


 ゼレファンダーは島に来る前に、魔法戦力の情報を収集している。

 魔法装衣マジカルドレス魔法装甲マジカルメイル

 魔法少女と少年が纏うそれの性能、全員に差異がないことは確認が取れている。

 同志たちの、多様な魔力攻撃を受け続ける耐久力がある———無論、攻撃を受ければ限界がある。

 戦闘で連中が、かなりの損傷を受けた事例も確認できている。

 それが敵の防御力に関する情報だが、それは今、役に立っていない。

 防御も何も……まず!


 ―――次は、上に身構えて。


 もともとイエロー/ホワイトの装衣ドレスの、魔法少女が白に包まれた―――周囲の森もその白に染まる。

 徹底的な一色で、何も見えず―――。

 発光が起こった。


 ―――喰らえ!


 左半身から背中に向け回転し、地面を擦るように鼻を振り回した。

 前回の攻撃と同じなら、足を浮かし吹っ飛ばされる威力である。

 威力は、大気を裂いた。

 その後に、腹に衝撃を受ける。


 ―――と、いうよりも脇腹……ッ、右からか!


 低い位置を薙ぎ払ったことだけは正解だったはずだ―――なにしろ魔法少女、身長はオレの半分にも満たない。

 カッ、とまた光だ。

 咄嗟に右腕を振り回した―――その光が収まり、森の木々が、黒々とした影を薄めたと思えば、次の衝撃が胸と左脇腹を襲う。


「ぬ、う……っ!」

 

 その攻撃にふらつきはしたものの、それだけだった。


「……それが、お前の強みか?大した威力じゃあないな」


 目を細めたままを保つ。

 詰まらずに言い切って挑発することが出来た。

 やはり喰らっている自分にダメージは少ない。

 付随する、特殊な魔力効果はないと、確信したゼレファンダー。

 だが、息が荒くなる……呼吸に重きを置いているわけではない、我々はそうではないーーー心情、思考の問題だけだ。


 思考だけは高速で回している。

 追いつけない……光があるときに、移動する魔法少女。

 オレは、マッハで反応しているつもりなのだが。

 防御の前に、まず……! 当たっていない。



「ひかりは、叩いただけだよ」


 目を赤く光らせた少女の声は冷たく、どこか無感情だった。

 ……この、赤く目が光る状態の魔法少女というのは、調べた情報にはないものだ。


「……むウ」


 その言葉に心底納得せざるを得なかった―――言い返せない。

 事実だからだ……子供でも出来るような攻撃。

 何らかのテクニックは、それ自体にない。

 まだ、弱点はあるはずだ……!

  彼女が何をでき、何をできないのか——その全容を暴かなければならない。


 確定したのは一つ。 彼女の攻撃は、今のところ子供じみた物理的な殴打であるということだ。

 そのためにまだ自分は戦えているということになる。

 だが、攻撃が通らなくなった―――命中しなくなった。

 奴が、敵が。

 魔法戦杖マジカルステッキを発動してからは。


 ―――ノーマルの魔法戦杖マジカルステッキで、見えにくい死角から殴ってくる―――いや、奴自身が発光する以上、見えにくいなんてもんじゃない。

 発光、点滅……?

 強制的に死角を作ってくるという厄介さ。

 

 気配のみで、ぎりぎり反応しているだけだ。

 まあ、もとよりゾウオレの目は小さい―――視力に頼って狩りをしていた経験はない。

 眼が小さいというよりは、巨大な鼻や耳により、見えない位置が多いのだ。

 バルルーンならば反応できただろうか―――ええい。なぜアイツはまだ見つからない!

 自分は強靱な部類に入る、そして、何ら優位に立てていない。

 攻撃を受け続けている。

 魔怪人オレに奥の手は、まだあるが―――耐えるしかないのか?


 ちらりと、黒々しい毛むくじゃら、ハイエナのような姿の同志を見る―――ジョウゾだ。

 奴との距離は遠い―――戦闘には遠い。

 待てよ、逃走にはまだ早いだろう。

 オレを見ろ、よく見ろ―――魔法少女に攻撃を一度当てた―――よく見れば、奴の装衣には時折り、電流が漏れ走っている。

 そして、オレの負傷ダメージはそれほど無い、よく見ろ。


 アイコンタクトで威嚇———じゃない、共闘を頼もうとする、要請する。

 あいつと挟むように位置どっていれば、何か出来るかもしれない。

 増援、味方、バルルーンがここで来る可能性は―――流石に期待がでかすぎるか。


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