第52話 タポーチョ山へ
春風若葉は、サイパンの森を進む。
目指すのは島の中心に位置するタポーチョ山。その険しい道を、彼女の若葉色の
「———結局、どうするんだよ!」
似たようなような色合いだった。
緑色の魔法装衣に身を包む少年、狙木が声を張りながら、問う。森の奥へと歩を進めていく。
「なあ!」
なお似たような色合いの魔法少女、少年であっても、共闘経験があるわけではない。
茂ヶ崎実里の洗脳を解除した(出来た)あの一戦が共闘と呼べるかもしれないが。
「仲間を見つけたら、魔法陣のことを話して、一緒に進む―――いいわねッ?」
春風の言葉に狙木は目を細めるのみだった。
ずっと不満気であるが、なんなのだこの男子。
ざわつく彼女の心であるが、遠くからは小川のせせらぎが聞こえていた。
いや、音が大きい、近いかもしれない。
そこでいくらか気分を取り戻した。
訪れた大自然の中、クラスの面倒な男子といつも通りに口論するのは勿体無いというものだ。
いっぽう春風若葉の親友、
青い海の如き魔法装衣だ。
渡良瀬は考える。
可能性を探るためには行動が必要だ―――しかし、親友が先頭に立って進むその姿を見ると、不安が胸をよぎる。
(このままでは罠にかかるのは若葉ちゃんになる……)
春風若葉は、曲がったことが嫌いで、だからこそ先頭に立つ。
立つというか、走っている、矢面に立っている。
しかし、魔法陣があればその影響を真っ先に受けるのも若葉だろう。
木の影にそれがあれば、間に合わず触れてしまうかもしれない。
行動は命知らずに見える。
(誰か他の人がかかってくれれば……!)
そう思わずにいられない渡良瀬。
「誰か、かかってくれないかなあ……! あの
「えっ?———なんだって?」
「うっ!? ううん! な、何でもないッスよ、狙木くん!」
ぼそっと呟いた渡良瀬に、狙木が反応した。
三人の歩く音で、よく聞こえなかったようだが(セーフだ)。
泉は慌てて言葉を飲み込み―――その仕草に、狙木は少し首を傾げる。
慣れない語調……「ッス」をいきなり付備したのは、男子にはその方が良いんじゃないか、等という、とっさの判断だ。
「島の中心に向かうんだよな?」
「ええ、そうよ。魔法陣の中心――そこに、きっと何かがある。」
森が徐々に開け、見えてきたのは、サイパンの美しい丘陵地帯。本来ならば緑の絨毯が広がり、彼方には白い砂浜とエメラルドグリーンの海が光り輝くーーーのだろうが。
夕暮れのように、ひたすら赤い光景だ。
「春風……敵が来る準備はしておけよ」
彼女が周りを見渡したところで、後ろの男子が忠告する。
「まだ、みんなが操られたと決まったわけじゃないわ」
「……いや、みんなじゃなくて魔怪人だよ」
狙木の言葉に若葉は、それはそうだと頷くが、心の中には不安が渦巻いていた。
「ここがラストダンジョンなら、最終戦がすぐに始まるってことだよな……」
「ラスト……? アンタ、そんなこと、まだわからないわよ」
狙木は、空を指さす。そこには巨大な魔法陣が見下ろすように存在していた。
「この空に描かれた魔法陣が証拠だろ。これだけのスケールのもの引っ張り出した魔怪人だ、いや魔怪人ども?その、ここが決戦の場になるって考えるのが自然、だ……ぜ……!」
息巻いているようだ。
今まで日本の平和を脅かして来た魔怪人たち、あの敵戦力のことを考えなかった日はない。
「ラストダンジョン、そしてラスボスーーー」
狙木の声は少しずつ弱まっていく。
「自信ないのね?」
「ある! 可能性は十分にある!」
狙木は強がるように言い切るが、若葉と泉の表情は曇ったままだった。
「そこまで言うなら、ドデカイ魔法陣はよぉ、何なんだ。 飛行機襲ってきた
あからさまに馬鹿する口調だ。
こいつは本当に、ずっとこういう性格なのだろうか。
春風は目を細めた。
変わらない、ブレないところはあるが、それにしたって、心の別のところをもっとしっかり保てなかったのだろうか、この男子は。
春風は、奴のペースには乗りたくないだけ―――そんな、感情で返事をしている。
そんな自分にも腹が立ってきた。
いや、それはいい……どこだ、魔怪人……!
その時狙木は、少しばかり意識をすい寄せられる、そんな景色があった。
見つめる春風の、斜め後方だった。
「なんだ、あの光―――」
一部の、森を見下ろせる位置にまで来たらしいーーーそして、彼方の森が光を放っていた。色合いとしては蛍光灯と大差ない。
魔法陣の赤とは違う、と彼は感じた。
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