第51話 ブレイズン 2
「バルルーンのものを持ってこよう」
言って科学者が、部屋の奥に向かっていく―――。
ブレイズンは目を細め、鋭く睨む。
姿が見えなくなって、物音に話しかける。
「一応聞くが……その、兵器ってやつは、ヤツにしか使えない代物なのか?」
バルルーン……元を辿れば、あのバカ野郎向けに作られた兵器らしい。しかし、ブレイズンの問いかけは片手間のような、真剣味に欠ける様子だった。
元より、期待や希望は無い。
我がスゴ・クメーワクの研究機関はどれほどの実力を持っているのだろうか――そんな思いが頭をよぎる。
使いものになる兵器を開発できていたなら、魔法少女たちにここまで戦況が
二十八人という数は、戦争において、決して大群とは言えないだろう。
しかし一人一人が魔力的にも一騎当千、能力が異なる―――。
能力が異なるということは対策も異なる、二十八通り。
そんな連中に、苦戦を強いられつつまだ戦い続ける勇ましき者たち、それがスゴ・クメーワクの魔怪人たちである。
そんな敵に対抗できるような兵器が存在する?
そんな都合のいい話があるわけがない。
そもそも、バルルーンが兵器の開発を依頼したという話だが――。
先を読む能力があるような奴だったか? いや、それ以前に――あいつにそんな権限があるのか?
「試作なので、そういうものだと考えておいてもらいます。使用者の安全も保障できませんが――まあ、ふむ―――」
ぶつくさと、何かつぶやき続けているメエラ。
「む」
リスクの高い兵器ということか―――事情や背景を想像できる。
やはり軍団長経由の、正式なものとして完成してはいない―――バルルーンが言い出した、「可能なら作っておいてくれ」といった程度のものだろう―――。
あいつはそういうところがある、と同胞ながら性質を感じていた大虎である。
「でしょうね」
学者肌のフクロウが思うに、疑い、慎重な性格の者とはもっと話をしたい。していられる。
「メエラ。それはどの程度まで戦える?」
言いながら萎えていく大虎。
もとより、自分の生まれ持った魔力のみで戦ってきた。
実際、相手がただの人間ならば圧勝できる戦力差であるはずだ。
「あいつらに対して―――あのバカみたいな魔法戦力に対して」
「ほぉら!疑ってるし、慎重な性格だ!」
メエラが面白がるように笑いながら、部屋を動き回り続けている。
机のあったあたりから持ってきたものがある。
「
ブレイズンの表情は引き攣った―――目の前の「兵器」の形状に、息を呑む。
「なん……ッてものを見せるんだ」
虎は歯噛みし、梟は本気で困惑した表情を浮かべる。
彼は普段、他者を脅したり挑発したりするタイプではなく、常に慎重だ。
「バルルーンともども、あの島で盛大に暴れてくれれば助かるがね」
メエラの声は軽い。
「……おい!」
虎がフクロウの胸ぐらをつかむ―――戦闘部隊長による、剛力である。
「これは愚弄するつもりだな……!? オレを、オレだけでない……」
「は、はあ……?」
目をまん丸にしながら、首をがくがくとされているフクロウ、メエラ。
彼は動揺している。
恐怖はあった―――それが半分、困惑がもう半分。
そして、ブレイズンに言った。
「馬鹿にする……しない。よくわからんね。理解できません」
「……!」
「馬鹿と、馬鹿でない者はいるのでしょうね―――けど―――そりゃあいるんでしょうけど。私は魔法少女を殺す方法を考えています、いますよ―――その結果がこれ」
その発言にブレイズンは歯を見せ、いや牙を見せ、笑った。
さらに愚弄するか、と息巻く。
「お前もまさか殺されると考えたことは?あるか臆病者!」
「なんなんですか? バルルーンが死にそうなことが、このままではやられそうなことが気に食わないんですか?」
「あいつが何だと?」
好き勝手言いやがる――。
この際アイツも含めて構わんが、これまで魔法少女達と戦い散っていった勇ましい同胞どもを、愚弄する行い。
ブレイズンは心底そう感じている。
口を開きかけたそのとき。
魔導式の自動ドアが音を立てて開いた。
その瞬間、甲高い、鳥類特有の声が響き渡る。
「ちょっとアンタ! バルルーンに何吹き込んだのよ! 戻ってこないじゃないの!」
現れたのはフラミンゴ姿の魔怪人だ。翼を広げてはいないが、その怒りは羽根が散りそうなほど激しい。
面倒な者が来た、と感じた。
バルルーンと親しかった、やかましい女だ。
「また貴様か! ララアイニ!戻って来いと言っただけだ――オレは!」
そこからは、犬も食わぬような言い争いが始まった―――科学者はそれを横目にしつつ、背を向けて歩き出した。
彼は表情変えず、相変わらず思案を続けている。
「これで魔法少女たちに対抗できる、か……?」
成功率は低い。だがバルルーンも含め、この作戦が現状では最善手に限りなく近いのだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
黒い布を纏っただけの少女が、洞窟の岩肌を素足で歩いていた。
暗い足元、音は響かない―――まったくの無音である。
ただ、彼女の心境は沸き立っていた。
「参ったね―――地殻を動かされたか」
騒がしくなったこの島だが、これほどの事態は予想していなかった。
「外部の魔法戦力———賑やかだなと思っていたが、まったくもう、若いねぇ」
視界内の、彼女の真上を眺めた―――そこには彼女の身体よりも大きな、亀裂が生まれていた。
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