第50話 ブレイズン


「バルルーンはまだ見つからないのか?」


 虎型の魔怪人・ブレイズンは、研究室のような清潔な部屋でひとりつぶやいた。

 実際彼にとって初めて訪れる場所ではあった。

 魔怪人組織———スゴ・クメーワク。

 その魔法技術研究開発部マジカルデベロップメント


 捜索隊からの連絡は、バルルーンと同様にほとんど雑音ノイズばかりだ―――。

 期待するのはよくない、とだけ考えている。

 それよりも今は、ここに呼び出されたことである。 


「ブレイズン……ああ、居た!」


 痛んだ扉が動く、かすれた音が入口から届く。フクロウ型の魔怪人、メエラが安堵の表情を浮かべている。

 今回は彼に呼び出されたのだ。

 サイパン島で行方不明中の同胞、バルルーンの件で話があるということだ。

 だが面識はあまりない―――メエラと頻繁に連絡を取る仲でない。

 オレたち戦闘部隊とは異なって、いつもコソコソと何かやっていることと、スゴ・クメーワクの上と親しい、くらいの印象だけがあった。


 実は、対魔法戦力向けの新兵器が出来ました―——本当はバルルーンを呼ぶはずだったんですがあ―――ブレイズン。キミは彼と親しいのではなかったかな?

 とのことであった。


「あいつのことはそれほどわからないねぇ。気が合わない―――ただ、このままではヤツと最後に話した魔怪人はオレ、ということになるかもしれない―――その辺りは確実かもしれんな」


「確実なのかどうか、はっきりせんなぁ」


 ブレイズンはフン、と黒い鼻を鳴らした。

 最悪の状況としては、今頃二十八対一の戦闘の真っ最中で、孤立無援、四面楚歌であるという様相だ。

 まあさすがにそこまで逃げ足が遅いヤツではないのだが、戻ってこないことは事実、真実である。

 もとより、油断が多そうな性格をしていることを、知っている。

 最悪というのはヤツにとっての話であり―――オレはもう知らん。

 結果としては、(まるでオレが)大ワシ野郎を狙って陥れたみたいになっているが、その点にイラついているのだが、魔法少女たちに向かっていったのはヤツだ。


「———だが待てよ、新兵器だと?」


「ああ」


 そんなものが出来ていたことは知らなかったブレイズンだが、どうもバルルーンがそれを本来は使用する予定だった、らしい。


「例の新兵器は完成――完成……うーん、いや、」


 言いかけた言葉を詰まらせる彼に、ブレイズンは眉をひそめた。


「どうした、メエラ。なにが『うーん』なんだ?」


試作品プロトタイプならできた、出来ましたよ―――でも、完成品はまだ」


「……フン」


 短く応じたものの、彼の声には明らかな不満の色が混じっている。

 事情はだいたい分かった、兵器と言っても確実なものではなさそうだ。

 それならバルルーンが抜け駆けしていても大して苛立ちはしない。


 メエラは、彼をじっと見据えた。

 ずっと丸く開かれたフクロウの目は、そこに関してはポーカーフェイスである。


「それでバルルーンに渡してほしくてね―――出撃をする際は、行くのなら、彼に届けてほしいんですよ」


 ブレイズンはしばらく言葉を失った。

 出撃の命令は出ていないが、総統の意思次第ではいつでもそうなる。


「どうしました? まさかとは思うけど、怖じ気づいたわけじゃありませんよね?」


 ブレイズンの目がギラリと光る。


「なぜそうなる……面倒だと思っただけだ」


 正式な命令は無いながらも、出撃を考えている彼であった。


「途中だったんだよォ、考えている」


 途中までくみ上げていた作戦が、よく知らぬメエラによって大幅変更になるのは、ストレスでしかない。

 今も、気づけば牙をむき出しにしてしまう自分がいた。

 怖気づいているというよりは邪魔をするな、という感情である。


「だが魔法少女達連中に対抗できるのなら―――」


 それならプロトタイプとやらを使わせてもらおう。

 元々のバルルーン使用者がいなくなったとあっては、もう仕方あるまい。


 メエラが小さく笑みを浮かべた。

 作成者から、使用許可は出たのである。


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