最終話

『おめでとうございます!戦争に勝利なさいました。これからの青春は一生保証されると共に、ひとつの願いが叶います。どんな願いを叶えたいのですか?』

 それはもちろん―――。答えようとして、喉を押さえた。

 そうだ、私に言葉を吐くことはできない。音にすらできない声しか出せないのだ。どうやって相手に伝えればいいのだろう。

『そうでした、すっかり忘れていました。リュックの中に紙切れとペンが入っていますので、それをお使いください』

 リュックを下ろして、あさる。確かに紙とペンがある。願い事を書き連ねる。

「…………」

 久しぶりに書いた文字はとんでもなく汚かった。どこにあるかわからないスピーカーからは、困ったようなうなり声がしている。そりゃそうだ、これはちょっと自分でも読めない。

『…………、ああ。その願いは叶えられません。』

 ようやく解読したのかと思ったら、そんな言葉が降り注いだ。叶えられない?どういうことだ。

『藤城沙希様はすでに死亡しているからです。この場からお帰りになられても会うことはできません。ですので、他の願いを』

 あなたが?死んだ?

「…………」

 うそ、うそだ、嘘だ。死ぬわけない、だってあなたは言ったじゃないか。帰ってきてね、って。待っててくれるからそう言ったんじゃないのか。あなたが嘘をつくはずがないのに。

『他に願いがないのですか?』

 急かすように、声は続けた。震える手で私は紙切れにもうひとつの願いを書く。さきほどよりもより複雑になったその文字に、声はまた困ったうなり声をあげた。

『………うーん?本当にこの願いでよろしいので?』

 私は深く頷いた。正直、願いなんてどうだっていい。あなたがどこにもいないなら、青春なんてないようなものだ。その矛盾を正してやるのだ。きっと、自暴自棄ともいうのだろう。それでも、あなたのいない世界で生きるなんてまっぴらごめんだ。


『藤原茜様の願い、受理されました。』

 声が遠退いていく。黒く染まった刀が、私に深く深く突き刺さる。


「あいしてる」


 最後に響いたのは誰の声だったのか。私には知る由もないのだ。

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星屑のエトランゼ 武田修一 @syu00123

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