#4 貴方はイベリス
「めっちゃ色んな花があるんだねぇ〜。」
先生が濡れた身体と髪をわしゃわしゃと拭きながら、私の持ってきていた花図鑑を見て言う。
「同じ花でも色によって花言葉が違ったり、本当に面白いんです。」
私は嬉しくなって話した。すると先生がぴたっと止まった。
「渡辺さん…。」
私を見つめる先生の瞳が苦しい。私の心を突き刺すように、私の心を見透かすように。先生はたまにこういう目をする。その度に、自分の中身を見られる気がして目を逸らしたくなる。
「いいよ。その顔。ずっと笑ってなよ。」
「え?」
「渡辺さんいつも真顔だから…。今みたいに楽しそうに話してると凄い良い。」
初めて言われたかもしれない。寧ろこの笑顔が気持ちが悪いと侮辱された事の方が多い。本当にこの顔が良いのだろうか。そう迷っているうちに先生はまた花図鑑に目を戻した。
「これ可愛い。真っ白で丸くて…。イベリスって言うんだね。」
「…イベリスの花言葉は『心を惹きつける』です。」
先生は一瞬びっくりしたような顔をして、くしゃっとした笑顔で
「凄い、全部覚えてるんだ!へぇ〜、私も誰かのイベリスになれたらいいなあ…。…なんてね。」
と言った。
「…先生はもうイベリスですよ。」
「ん?なんて?」
「い、いや…何でもないです。」
「そっか。」
先生はまた髪をわしゃわしゃしながら楽しそうに花図鑑を眺め始めた。
(明日はイベリスの花を描こう。)
グロキシニアの花を貴女に 南萠衣 @Minami-moe
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