砂の中の魔物

第8話 砂漠の大蛇

 目の前に荒野が広がっている。

 乾燥した大地。

 枯れてしまった木々。


 そして砂の海がこの大地を呑み込もうとしている。あからさまに大量の砂が、どこからともなく湧き出てきている。この地は一気に砂漠と化していた。

 

「なあフェイス。ここは何処だ?」

「クレド様の御心の中となります。今朝と同じ場所なんですけど」

「半日でこうなったと言うのか。信じられんな」

「ですね」


 午後になってから、再びクレド様の心の中へとテレポートした。しかし、そこは新緑が生い茂っていた草原ではなく、一面の砂漠と化していた。

 

 午前中にアルカディアの武装は換装させた。現在、宇宙軍用のビームライフルと反重力シールドを装備している。シールドとビームライフルの動力源として、小型の重力子反応炉を背負っている。やや重量がかさんでいるが、この装備は巡洋艦と正面から撃ち合える過剰な火力だ。


「フェイス。索敵しろ」

「わかっています」


 フェイスは操縦席の両脇にある球状のクリスタルに手を乗せて瞑目する。アルカディアに周囲を霊視させているのだ。


「三時の方向に反応。砂埃が上がってます」


 フェイスの報告を受け、私は右側を向きビームライフルを構えた。


 数キロ先で砂が吹き上げていた。その噴水ような砂の中から巨大な蛇が飛び出してきた。


「あれは何だ」

「わかりません。蛇のようですが、頭部や口、目など確認できません。ミミズかも??」

「あんなミミズがいるわけないだろう」


 そう。あんなミミズがいるはずがない。蛇だってあんなサイズには育たない。目測だが、全長は30m以上ありそうだった。


 私はビームライフルを構え、その蛇の頭を狙い撃つ。

 オレンジ色の光線が砂の噴水を叩き、激しく発光した。


「ララ姫、外れました」

「分かっている」


 私は二射、三射と光線を放つものの、その大蛇を捉えられなかった。


「接近戦で片付ける」


 私はアルカディアの両脚に霊力を集め、地面から少しだけ浮き上がる。そして、猛然と砂煙を上げながらその大蛇へと向かってホバー走行した。


「ララ姫。もしかして……射撃は不得手なのですか?」

「だから何なのだ。近寄れば命中するさ」


 私は確かに射撃が不得手だ。こんな遠距離で命中させられる腕などもっていない。フェイスが後席でクスクスと笑っているのが聞こえるが、それを無視して最高速を出す。


「うわ! 後方に大蛇が三匹!」


 砂の中からアルカディアを狙っていたようだ。

 猛ダッシュしなければ捕まっていただろう。


 私はくるりと向きを変えて背走しながらビームライフルを三射する。

 一発は大蛇の頭部を破壊したが、二発は外した。仕留めそこなった二匹の大蛇はまた砂の中へと潜ってしまった。


「姫様。10時の方向」


 フェイスの報告した方角から砂煙が上がり大蛇が飛び出て来た。私は逃げずにその大蛇へと向かって突進した。


 地上に出てきたのは体の半分程度。

 それでも15mほどあり、このアルカディアの全長に匹敵する。私は反重力シールドの出力を全開にし、その盾を構えて突っ込む。


 そいつは口が十字に開き、その口内には何重もの鋭い歯列が並んでいた。その十字の口がアルカディアの頭部を狙って襲い掛かってくるのだが、私のぶちかましの方が一瞬速かった。

 盾が蛇と接触した瞬間に反重力が発生し、大蛇の半身は千切れてすっ飛んでいく。


「ほう。これは使える」

「すげえ強烈な盾ですね」

「ああ、そうだな」


 この盾は宇宙軍の秘匿兵器だと聞いていた。そんな装備をわざわまわしてくれたのだ。あのキモ兄貴に感謝せねばなるまい。


 しかし、道中遊んでいるうちに周囲を囲まれてしまった。

 前後左右、十数匹の大蛇が砂の中より鎌首を突き出していた。私はビームライフルを盾の内側へ収納してから光剣を抜く。


 それはレーザービームの剣だ。宇宙軍用人型機動兵器の正式装備であり、幾条ものレーザーを収束した超高熱の剣。どのような物質も両断する無双の刃だ。

 人の霊力で駆動する鋼鉄人形アルカディアでは使用できない光学兵器なのだが、背に重力子反応炉を装備したおかげで使用可能となった。


 私はその光剣を使い周囲の大蛇を斬り裂いていく。

 絡みついてきた個体は反重力シールドで吹き飛ばす。


 数十秒で片が付いた。

 十数匹いた砂の大蛇は千切れ飛び切断されていたが、それでも尚うねうねと蠢き、また別の物は痙攣していた。


「やったか」

「一応、周囲の個体は撃破していますが……」

「何だ」

「やはり、あの赤い結晶を破壊しないと滅することは不可能なのでは? ほらそこ。千切れた組織が合体し始めてます」


 やはり赤い結晶か。

 外部からではどこにあるのか分からない。やはり心臓なのだろうか。しかし、このような蛇の心臓を正確に把握するのは不可能だ。

 うねうねと蠢く胴体の一部に光剣を突き立ててみるものの、その動きを止めることはできなかった。


「フェイス、結晶の位置を探って表示しろ」

「分かりました」


 フェイスは再び瞑目し、赤い結晶の位置を探る。

 しかし、大蛇の組織は相互に絡みあい別の形状へと変化しつつあった。それは二本足で立ち腕が二本ある人のような形状だった。腕も脚も大蛇が螺旋状に絡まって形成されており、頭部には三つの蛇が鎌首を上げていた。


 全長は40mほど。

 私は光剣を盾に収め、再びビームライフルを取り出す。的がこれだけ大きければ外す事は無いだろう。


 レーザービームを数射放つ。

 超高温のビームは奴の体に穴を空ける。しかしその穴も、周囲の組織が勢いよく再生していきすぐに塞がってしまう。


「フェイス。まだか」

「もう少し……。これは?」

「蛇の頭部です。複数が絡み合っていても、結晶は個々の頭部にあります」

「分かった」


 私はレーザービームの出力を上げ、複数の大蛇が絡み合う頭部を狙撃していく。頭部を撃ち抜かれた大蛇の体は、砂となって崩れていった。私の技術では二射に一射しか命中しなかったが、それでも十数匹の大蛇全ての頭部を破壊することに成功した。


「やったか」

「まだです。小さい人型の個体がいます。それが一番大きな結晶を抱えています」


 まだいたのか。

 そいつは崩れた砂の中から不意に飛び出してきて、アルカディアの胸部に体当たりをしてきた。

 その衝撃は非常に強烈で、アルカディアは姿勢を崩し尻もちをついてしまった。


 空中に浮遊しつつアルカディアを見つめている人型の個体は、胸に大きな、直径が30㎝ほどもある大きな結晶が光っていた。


 これが本命か。

 私は操縦席の扉を開いて外に飛び出した。

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帝国無双 暗黒星雲 @darknebula

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