第7話 おっぱい星人とキモ兄貴

 自室に戻ると、既に専属の世話係であるナディアが来ていた。


「ララ様。早朝から何事ですか?」

「スマン。色々あってな」

「親衛隊のお仕事ですか? ララ様は隊長なのですから細かいことは部下に任せられては如何でしょうか」

「いや、これは私の仕事だ。他の者には任せられない」

「はいはい。では、朝食は三名様分のご用意でよろしいでしょうか」

「よろしく頼む」

「はい。ご用意いたします。しばらくお待ちください」


 恭しく礼をしてナディアが部屋の外へ出ていく。

 マユ姉様はまだフェイスの右手を握っていた。


 そこへフェイスがぴょこんと飛び起きた。


「あ。ここは?」

「私の部屋だ」

「えーっと。右手? ボクの右手は?」

「姉様の法術治療が効いたようだ。もう大丈夫だ」

 

 フェイスは自分の右手を握っているマユ姉様を見つめる。


「えっ? 褐色の肌に黒髪、そして黄金の瞳は……マユ皇女殿下!?」

「ええそうですよ。よくご存じでしたね、フェイス君」

「ははは。やましいことを何でも見通すという黄金の瞳で……ボクを見ないで下さい」

「あら、何かやましい事考えてるの?」

「そんな事はありません」

「赤くなっちゃって。お姉さんに話してみたらどうかな?」

「だから、何でもありません」


 フェイスは本当に赤面してモジモジしている。

 まさかこいつは……。


「お前はおっぱい星人か?」

「ララ姫。何の事でしょうか」

「いや、もういい。分かった」

「私も分かっちゃったかな?」


 マユ姉様の言葉に、更に赤面して俯く。

 なるほど。私の着替えに興味がなかったのは本当のようだ。


「おい、フェイス。マユ姉様に惚れるのは構わんが、姉様は聖導師と言って神に仕える役職なのだ。粗相をするとばちが当たるぞ」

ばちってどんなばつですか」

「諦めろと言う事だ。この馬鹿者!」


 ゴチン


 一発拳骨を食らわせてやった。

 おっぱい好きの馬鹿な男にはこの位がちょうどいい。


「ところで姉様。あの宝石の破片、結晶の事ですが」

「ミサキさんの所で事件を起こしたようですね」

「お気づきですか」

「大体は」

「私は異空間へと赴き、あの赤い宝石を心臓に持つ魔物と対峙しました。その時はアルカディアの装備である霊力子砲を使いませんでした」

「クレド様の御心を傷つけないように気を使ったのですね」

「ええ。しかし、あの欠片はこちらの世界へ来ると人に取り付き、人を操りました。そして命を奪いサイズが大きくなったのです。人の生命を吸い取ったと考えられます。これはつまり、アルカディアの霊力子砲で射撃した場合、敵を滅するのではなく逆に力を与えてしまう可能性があると思いました」

「そうかもしれませんね」

「それで、アルカディアに宇宙軍用のビームライフルと光剣レーザーソードを装備できないでしょうか」

「なるほど。それなら総司令のセルデラスさんにご相談なさっては如何でしょうか」

「あの……馬鹿みたいに硬い堅物が……話を聞いてくれるかどうか心配なのですが」

「大丈夫ですよ。あの方はララさんだけには甘々ですから」

「幾ら姉様のお言葉でも信じられません」

「私が付き添いましょう」

「お願いできますか?」

「ええ。それとフェイス君もね」

「ボクもですか?」

「全てお話した方がよろしいでしょうから」

「分かりました」


 その時、ナディアが朝食を乗せたワゴンを押し部屋に入って来た。

 ナディアはテーブルの上に料理を並べる。4人前だった。


「さあ食べましょう。フェイス君、こちらへいらっしゃい」

「はい」


 ベッドからテーブルへと移動したフェイスだったが、またまた顔を赤くして俯いている。まあ、そうだろう。ナディアは背が高く、胸元も豊かな美少女だ。彼女はキツネ耳が気になるようで、チラチラとフェイスの方を見ている。その度にフェイスは赤面して俯くのだ。これではマユ姉様でなくても丸わかりだろう。


 朝食を済ませ身支度を整える。戦闘服から正装の軍服へと着替えた。親衛隊の軍服はえんじ色になる。フェイスにも適当なブレザーを着せる。

 そこへセルデラス司令の使いが来た。

 若い士官だったが私よりは随分と年上だ。


 私たち三人はその士官に連れられセルデラス司令の執務室へと赴く。


 セルデラス・アルマ・ウェーバー。


 皇帝陛下の実子であり、第一皇女のネーゼ姉様の弟になる。

 皇位継承順位は第三位。私とは腹違いの兄という事だ。職務はアルマ帝国軍総司令。陸海空のすべての軍の頂点に立つ男だ。親衛隊だけは別組織になり皇帝陛下直轄となっている。


 使いの士官が部屋をノックし中を確認する。そして、扉を大きく開き中へ招き入れた。そして、彼の案内で執務室脇にあるソファーへと案内される。マユ姉様、私、フェイスの順でソファーに座った。

 

 目の前にセルデラス司令が座る。

 何か小言を言うかと思っていたらいきなり頭を撫でて来た。


「よくやったね、ララちゃん」

「兄様。気色悪いのでやめてください」

「嫌われちゃったかな?」


 苦笑いをしながら手を引っ込めるセルデラス。

 私はこの兄が大の苦手なのだ。私の事を何かと子ども扱いする。

 そして、容姿が似ている所が気に食わない。金髪の直毛で青い瞳をしている。異母兄弟であるというのに。

 更に、融通の利かない唐変木であり朴念仁でもある。


「ララちゃんの即応で一定の効果があったと判断します。あくまでも推測です」

「兄様もご存知なのですか?」

「ええ。クレド様は私の所へも来られましたよ。ララちゃんを助けてやって欲しいと嘆願されました。まさか、朝食前に一仕事を済ませているとは思いませんでしたけれども」


 ニコニコと笑いながら私を見つめるセルデラスである。

 その笑顔が気持ち悪い。


「それで、何の用事かな? ララちゃん」


 私は今朝の経緯を説明した。そこにいるフェイスがクレド様の眷属であること。鋼鉄人形アルカディアでクレド様の御心の中へとテレポートしたこと。そこで雪と氷の魔物と戦ったこと。その魔物の心臓が赤い大きな宝石のようなものであり、宇宙軍の光剣で破壊できたこと。しかし、その欠片であっても人を支配し生命を奪う恐るべき物であること。

「あの程度で駆逐できたとは思えません。繰り返し出撃し、排除していく必要があります。また、アルカディア搭載の霊力子砲では、却って敵の力を増す可能性があります。そこでお願いなのですが、宇宙軍用の装備をアルカディアに搭載していただきたいのです。また、光剣以外の携行火器も持たせて下さい」


 セルデラス司令は何度も頷く。そして私の目をじっと見つめる。


 気色悪い。


「アルカディアの装備は本日正午までに済ませましょう。ビームライフルと光剣ですね」

「はい。お願いします」

「それと、宇宙軍用の短銃身型のビームライフルを用意しましょう。あれは非常にコンパクトなので、ララちゃんにも扱えますよ」

「ありがとうございます」

「それとフェイス君だったかな」

「はい。フェイスです」

「ララちゃんの事、よろしく頼みます。危険であれば即撤退してください」

「兄様、余計なことは言わないでください。フェイス。現場では私の指示に従え」

「ララちゃん。貴方の事を心配しているのですよ」

「大きなお世話です」


 フェイスは私とセルデラス司令を交互に見ながら戸惑っているようだった。


「危険だと判断した場合は撤退してください。お願いしますよ」


「はいわかりました」


 マユ姉様の言いつけには即答する現金な奴。それがフェイスだった。

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