「為」がいけずでふりまわされた話
はい。どうも。こんにちはー。
久しぶりに四角號碼界隈からたかぱしです。
お察しの通り、今日も四角號碼の話じゃないですが、これは話さずにいられないので書いちゃいます。
今現在、たかぱしの膝の上には開いた漢和辞典が7冊乗ってます。重いです。でも机が狭くて他に置くとこがないです。ヘルプ!
あ、8冊になった。石抱き刑みたいなんですけど。
く、崩れる! 早く書かねば!
「為」という漢字の話です。ちなみにこれは常用字体で、本来は「爲」って書きます。
常用字体だと9画。旧字体だと12画ですかね。
ついさっき漢和辞典を読んでて何気なくこの「為」を見たわけです。もとの象形はゾウと手の形の会意文字らしく、その絵が可愛らしかったんでほのぼのしていました。
どんな象形か気になる方はこちらをどうぞ。ツイッターに画像あげました。
https://twitter.com/17HfG3eqQn3tfGg/status/1279219114158915584
それはさておき(っていうか、辞書は床に置き直した。9冊になって、しかも一番下の辞書が取りたくなった。もう無理)。
このとき見ていたのは角川『新字源』で、ゾウさんと手(見た感じ左手だよな、これ)に見えるわけですが、この「為」の字は部首が「爪」でした。旧字の「爲」のアタマに乗ってるやつですね、つまり。
ここで終わりにしておけばよかったものを。なんの気まぐれか、なんとなく漢字源でも「為」を見てみよう、という気になりまして。いや、ほら、「ゾウさんと手」以外の成り立ち説明があるかもしれないし、それならまずは学研『漢字源』でしょ、と。
(辞書に関して詳しくは「春だ! 春と言えば、辞書の季節だ!」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887256976/episodes/1177354054889177253
をご覧ください笑)
というわけで爪部首ページを開いて見るわけですが、ページ番号がページ下部中央についてる辞書って本当開きにくいよね! 隅に書いてくれよ、隅に。この辺りが一番親切なのは、三省堂『漢辞海』ですよ。『漢辞海』はページが探しやすくてオススメです!
そうして開いた爪部首には「爲」がいて、「為」を見よ、となっている。……おやおや? 爪部首なんて漢字が5個ぐらいしかないんですけど。「為」は近くにいないのかな……?
ともかく「為」を案内してくれているんだからと、そっちを開いて見ます。
余談だけども、この案内の仕方が。ページ番号じゃなくて親字番号なんですよねー。確実に漢字にたどり着ける方法ではあります。が、親字番号って探しにくいから嫌い……。漢字が探しにくい漢和辞典はストレスだよ……。
そうして開いて見た「為」は……火部首にいました。お、おやまぁ。下のてんてんが「烈火(灬)」だということですね。お、おおー。火とはなんの関係もないだろうけど。火と無関係でもてんてんがあれば烈火なのか……。
そして。こういう漢字の扱いに、辞書の性格がもろで出ているわけです。
角川新字源は「本来の字である「爲」は爪部なんだから、常用字体も爪部に配置!」というある意味保守派(?)。とにかく本来の形や意味を重視しているわけですね。
学研漢字源は「本来が爪部でも、常用字「為」に爪要素はなく、ならば常用字として烈火を部首と見立てて火部首に配置!」という、現代漢字基準を採用しているんでしょう(正直「為」を引こうと思って一発で火部首見るやつはいないと思うが)。
こういう、旧字と新字で部首が違っちゃう漢字、というのはそこそこありまして、中文生を悩ませるわけですが。自分の使っている辞書の性格を一度押さえてしまえば、まあまあ問題ないです。
(漢文を読むために漢和辞典を引くときは、大抵旧字で探すので新字源はありがたいんですが、通常使うとなると旧字なんて存在すら気づいていない場合も多いので、部首引きは使いづらくなってしまいますね。悩ましい)
……え、これで結論だと思った? 違うよ。でなきゃ、たかぱしは膝の上に9冊も辞書を乗せないよ。
ええ、もちろん。他の辞書はどうなってるか、片っ端から開きましたとも(馬鹿)。
たかぱしの感覚としては、「為」は烈火というよりは、爪であってほしい。というわけで、爪仲間捜しの始まりです。
はい、まず旺文社『漢字典』。爪部に「為」は……いない。というわけで火部を探せば。やっぱり「為」は火部にいた! ううむ。
お次は大修館「漢語林」。大漢和辞典を彷彿とさせる字体にほっこりするこの辞書! お前なら……爪部派だよな……?
と思いつつも爪部首を確認しても「為」はいない。こいつも駄目か……念のため火部を開いて「為」がいるか確認を……と思ったところで気づきました。「漢語林」、火と烈火を別部首に立ててやがる……。他にもさんずいと水も別部首だし。大漢和ってそうでしたっけ??
「漢語林」こいつは細かい性格だ。が、「為」は烈火部首だ。くそう。
次は三省堂『漢辞海』はどうだ。
爪部に「為」は、いない……。火部首にいた。そうか、やっぱり「為」は火部首派が主流なのか。と思いつつつらつら読んでいると、別の新発見が襲いかかってくる。
漢辞海の「為」漢字なりたち説明は、なんとサル! ……ゾウどこいった??
だって、今までの全部ゾウだったじゃん。なんで突然サルになるんだよう。
ならば、同じ三省堂『新明解』はどうなんだろう。
わずかな希望でまずは爪部を探す(いいかげん火部首から探せ)。いない。まぁそうだろうな。新明解ってご家庭活躍辞書だから。当然、常用字の形で引けなきゃ意味がない。
やっぱり火部首か。火部首を探そうとすると、新明解も火部首と烈火部首は別立て。……ええ。同じ三省堂なのに。そこは漢辞海と変えてくるのかよ。
というわけで烈火部首を捜索。……あれ。……いない……? そんな馬鹿な。しかし、何度見てもいないものは、いない。えええ???
ということは。爪でも火(烈火)でもない、第三勢力の予感……?
仕方なく音訓索引にご登場いただく。「為」は「なす」「ため」「イ」あたりで引けるぞ。
そうして見つけた「為」のページは、想像以上に前の方。さて、部首なんだったと思います?
正解は「八」。……分かんないから、なにも聞くな!
ちなみに「もと火5」と書いてあるから、通常は火部首配置(の5画の)漢字だというのはご存じらしい。あえて「八」にしたようだ。理由を知りたい人は三省堂さんに電話して!
まぁ、深読みすればですけれども。新明解の序を読むに、使いやすいようあくまで字形で漢字を並べるというスタンスの辞書なんです、やっぱり。ですから、「為」が烈火のわけがないというポリシーを貫かれたんでしょうね。
てんてんあるから火部首だよね、みたいなスタンスよりは……いいかもしれないですね……知らんけど。
ちなみに字源解説はサル派です。このサル説は『説文解字』に依るらしいですよ。……じゃあ、後で説文解字の部首がなにになってるかも見てやろうじゃないか。
その前に寄り道して。白川先生開きますかね。
平凡社『常用字解』は部首で並んでいる辞書ではなく、解説の中には部首のぶの字も出てきません。部首?ナニソレおいしいの?が白川さんです(ごめん、適当に言っただけ)。
字の成り立ちの説明が見たいわけですが、この字書は音読み順に並んでますので、「為」はイですね。こういう音訓配列の辞書っていうのは、音が複数あったりする場合が面倒(案内を増やさないといけない)なわけで、それで部首配列の辞書が主流です。いっそ総画数配列でもいいんじゃない?と思いますが、総画数のうち同じ画数の漢字をどう並べるかというと、結局「形」「部首」での配列になるわけで、だったら部首引きの使える部首配列がもっとも索引が豊富になって使い勝手のよい辞書になる、というわけです。
で、白川先生の字説。引用させていただきます。「会意。象と手(又。爪)とを組み合わせた形。象の鼻先に手を加えて、象を使役するの意味となる。(以下省略)」
ゾウ説だぁ。っていう意味で引用したんじゃないんです。手。手が
新字源で象形文字(甲骨文字かな)を見たときは、たかぱしは左手の形だな~と思ったけどね!? 右手! あえての右手チョイスですか。うーん、意味が分からん。
はい、いま「右手でも左手でもいいだろ」って思った君。グラウンド3周走ってきなさい。
ところで、漢字の本場では部首はどうなってるんだろう。
というわけで、寄り道パート2。そう、たかぱしは1冊だけ台湾の辞書(中学生向け)を持ってるんですよ。
台湾と言えば、そう繁体字の国。中国簡体字や日本常用漢字よりも旧字に近い字を使っているお国です。ということは、さすがに爪部首なんじゃないの??
意気揚々と爪部を開いて見た。けれども、なんとこれがいないんだ。あれ?
え、もしや火部? 「爲」ですら火部なの? と内心焦って火部を探すが、……見つけられない。「爲」がいない。そんな、馬鹿な……。音訓索引を使いたいけれど、台湾なので注音字母(注音符号って呼ぶのかな。ひらがなみたいなもんだよ)。たかぱし読めないんだ、これ。
しょうがないのでネットで検索。「爲」は中国音ピンインが「Wei」でして、これを注音字母にすると……なんか「メヘ」みたいな、なんかそういうのだった。(正確には「ㄨㄟ」)
覚えるとキーボードなんかにも使われてるんで便利なんだけど。そこまで中国語打たないからね。
というわけで、メヘで引いてみると。なんと「爲」ではなく「為」でいらっしゃった。……えええ。そこは旧字使ってないんかーい。画数を「爲」で探してしまったんで見つけられなかったと言うだけで、ちゃんと火部にいらっしゃいました「為」。こういうこともあるんですねぇ(疲れてきた)。
さて最後に。サル説の源泉、『説文解字』を見てみますかね。良くも悪くも漢字辞典の大元。説文解字の部首立てってのは現代とは大きく違いますし、字源説明もいまでは誤りとされている部分も多いですが、それでもやっぱり漢字辞書の権威です。
といいつつ、最後まで開かなかったのには浅いわけが。
説文解字、漢字を見つけるのがめちゃくちゃ面倒なんだよねぇ。
正直、部首は頼りにならないので(失礼)、中華書局が後付けした総画索引をえっちらおっちら探すしかないんです。「爲」12画。ひたすら12画のなかから「爲」を探すが、見 づ ら い !
12画の漢字、945個あるからな? ちっさい潰れた漢字が1ページ200個並んでるのを地道に探すんだからな? 心折れるわ。……と、いま12画の漢字を数えるのに夢中になって、一度開けた「爲」のページ閉じちゃったわ。あ、あああ。
爲を探せゲーム
https://twitter.com/17HfG3eqQn3tfGg/status/1279246285975896064
この写真の見開きページのどこかに「爲」がいるよ!
という苦労を経て探し当てた「爲」は。さすが、爪部首にいました! まぁ、だからどうしたって話なんですけど。で、確かにサル(毋猴)て書いてあるわー。
とりあえず、部首は爪で、この部首については現代にも継承されたけど、字源説明については主流派ではなくなったってとこですかね。
というわけで、漢和辞典でもこれだけいろいろ個性があります。つまりなにを言いたいかというと「為」ひとつで午前いっぱい楽しんじゃったわー。思わず書いちゃったわー。読んでくれてありがとう。
是非とも君もお好みの漢和辞典を見つけてね☆
新字源はオススメ辞書だけど、こうして比べてみると結構異形なんですね。もちろん改訂新版では変わってる可能性もあるわけで。むむむ、給付金は漢和辞典購入に使おうか……。
さてと。広げた辞書をお片付けしないと。
カクヨムの片隅で四角號碼を呻る たかぱし かげる @takapashied
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