最終話 偶然か、必然か――
予定より2時間ばかり遅れての到着。辺りはすっかり夕暮れになっていた。ひとりまたひとりとバスを降りていき、全員がバスから降りたあと、改めて会社側から謝罪があり、その場で解散となった。
最初に大河さんが軽く挨拶して去って行く。そのあとは瓜生夫妻。そして、真理絵ちゃんがお兄ちゃんと呼んだチャラチャラした感じの男性が迎えに来てねねちゃんと3人で帰っていった。
わたしと明里、それから二階堂さんと鳥海さんがその場に残った。
「いやぁ、それにしても災難でしたな。まさか殺人事件が起こるなんて思ってませんでしたよ」
鳥海さんが話し出す。
「それでは私も帰らせてもらいます。あなたとは是非またどこかでお会いしたいです」
自分のズボンで右手を拭いて明里に向かって握手を求める。
明里はその手を握らず、彼にこんな質問をした。
「ところで、ずっと気になっていたことがあるんです」
「やや! 私に興味をいだいていただけるとは光栄です。何でも聞いてください!」
明里に話しかけてもらえるのが嬉しいのか、かなり興奮している。
明里は、ではと前置きして、
「うさぎのペンについてです。私は少なくともあのペンをディバインキャッスル内では使っていません。大事な物なのでずっとカバンにしまっていたはずなのに、どうしてあなたはあれが私のものだと思ったんですか?」
ニコニコと期待に満ちた表情で明里の質問を聞いていた鳥海さんの表情が少しづつ固まっていく。
――あ、それ聞いちゃうんだ……明里。
「それは……あれですよ、うさぎの絵が描いてあったでしょ? だから、明里さんの物だと思ったんですよ」
はははと、明らかにぎこちない笑い。
「でも、あのタイミングではあなたは私の名前はどういう字を書くか知らなかったはずですよね? それにうさみという名を耳にすれば、一般的には『卯さぎの卯』ではなく『宇宙の宇』を思い浮かべるはずです。なのにどうして……」
明里のためを思ってずっと黙っておくつもりだった。
でもこれは、ちゃんと教えておくべきかもしれない……
「あのね明里、怒らないで聞いてね」
これから話すことを聞いて明里がどう言う行動に出るか、あとはもう野となれ山となれ……
「はっきり言うね。明里の下着を盗んだ犯人のひとりは鳥海さんだからだよ。おそらくそのときに見たんだろうね。うさぎのペンを……だから彼はそれを明里のものだと勘違いしたんだよ」
これが、明里の下着が『2着も』なくなっていた理由だ。
鳥海さんの顔から笑顔が消える。そして、明里は静かな怒りをたたえていた。
「いや違うぞ! おい君っ! でたらめを――」
その瞬間鈍い音が辺りに響いた。
明里が鳥海さんの頬をおもいっきり殴ったのだ。グーで。
鳥海さんは体を捻りながら地面に倒れた。
「八重様は私に対して絶対に嘘はつきません」
地面に手をつき立ち上がろうとする鳥海さんに吐き捨てるように言う。
明里の表情はいつもと変わらない。だけどかなり怒ってる。わたしにはわかる。それと、わたしだって人間だからたまに嘘を言うときもある。もしそれを明里に言ったらわたしも殴られちゃうのだろうか……
「……美人に、殴られるのも、また、いい……」
立ち上がろうと体を浮かせていた鳥海さんはガクッと力なく地面に伏した。
「どうやら、僕の知らないところで別の何かがあったみたいだね」
黙って事の成り行きを見ていた二階堂さんが言った。
「それにしても、亡くなってしまった2人には悪いが、なかなかに有意義な4日間だったよ。自分以外の探偵の推理を見る機会なんてそうそうないからね」
「わたしもです」
わたしを見る二階堂さんの目が鋭くなる。
「ディバインキャッスルで話した事……忘れることを勧めるよ。でなければ君も僕と同じ思いをすることになる」
そう言いながら、二階堂さんは手を上げわたしたちのもとを去って行った。
「八重様、何の話でしょうか?」
「ん? ちょっとね……」
――必然か……
もしこれが何者かに仕組まれたことなのだとしたら、その何者かは一体何が目的だったのだろうか……
でもそれは今考えることじゃない。
「そんじゃ、わたしたちも行こっか」
明里に声を掛ける。
「はい。八重様」
明里と一緒に帰途についた。
地に伏す鳥海さんをその場に残して……
アセンブル ー double detective 桜木樹 @blossoms
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