第18話 残る疑惑

 食堂で未来さんによる昼食が振る舞われている中、わたしは森園さんに鍵を借りて有馬さんの部屋に赴いていた。その目的は盗まれた明里の下着を回収するため――だったんだけど……


「おかしいなぁ」


 腕を組み頭をひねる。


 わたしの考えが正しければ盗まれた2つの下着うちの1つは絶対に有馬さんが持っているはずなんだけど見つからなかった。本人に聞いたところで教えてはくれないだろうし……


 わたしの推理が間違っていたとしても、ものがものだけに誰かに相談することもできない。もし別の場所に隠してあるんだったとしたらわたしにはもうお手上げだ。


「それとも2着とも“あの人”が盗んだってこと?」


 もしそうだとしたら、それはそれで最悪なんだけど……


 そのとき、タイミングよく部屋の扉を叩く音がする。


 どうぞと声を掛けると、大河さんが顔を出し「そろそろ帰りたいって声が上がってるんだが、あんたはどうだ?」と尋ねてくる。


 わたしのわがままでみんなに迷惑をかけるのは憚られたので、「いいですよ」と答えた。その瞬間、わたしのお腹がグゥと悲鳴を上げた。


「あぁ、あはは。その前に……未来さんの昼食余ってます?」

 

 照れながら頭を掻いた。


「ああ」


 大河さんが相好を崩しそう答えた。


 …………


 とりあえず、このままバスの止めてある駐車場へ行ったとしてもそこからどうするかが問題だった。よって、最初に専用回線が通ってるという場所へ行って事前に会社に連絡を入れて、警察を呼んでもらおうという話になり、森園さんの案内で二階堂さんと大河さんがそこへ行った。


 わたしや二階堂さんの考え通り専用回線は切断されてなかったらしくすんなり連絡できたそうだ。


 そして、あとは駐車場まで歩くだけとなった。


「それではみなさん忘れ物はありませんかな?」


 なぜか鳥海さんが仕切る。名簿によれば教師ということだし、引率はお手の物なのだろうか。


「はーい!」


 真理絵ちゃんだけが手を上げ元気よく返事をする。


 他の人たちは、いろいろと言たいことがありそうだったけど表情を曇らせる程度だった。この4日はかなり濃い4日だったためみんな自覚がないだけで肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているのだろう。


 森園さんが城門の鍵を開け扉が開かれる。


 外の熱気が入り込んでくる。


 そして、わたしたちは城の外へ出た……


 …………


 吊橋を渡り終えた辺りで、山を登ってきた数人の警察と会った。随分と早い到着に驚きつつ、わたしたちは手短に事情を説明した。、すると警察一行は捜査のためそのままディバインキャッスルへと向かって行った。

 森園さんと有馬さんはそこでは引き渡さずに、駐車場で待機している警察に引き渡してくれとのことだった。森園さんはわたしたちにちゃんと従ってくれてるし、有馬さんもおとなしくしてくれてる。仮に暴れたとしても、二階堂さんと大河さん、それに明里がいればなんとかなるだろう……


 さらに10分ほど歩くと駐車場に着いた。そこにはさっきすれ違った警察の人が言ったとおり。ほかの警察の人が待機していた。赤色灯を回すパトカーも数台止まっている。それから、ディバインキャッスルを運営している会社の人もいるようだ。


 二階堂さんと大河さんが森園さんと有馬さんを警察に引き渡しに行く。


 残ったわたしたちのもとに運営会社の人が駆け寄ってきて、謝罪の言葉を述べ深く頭を下げる。何度も、何度も――


 それに対して鳥海さんだけがものすごい剣幕で噛み付いて、そんな鳥海さんを辰雄さんがなだめるという不思議な光景。


 たしかに殺人事件に巻き込まれたことを思えば鳥海さんの怒りはもっともだ。二階堂さんに次は自分が殺されてたのかもしれないと聞かされていれば当然の反応か……

 ただ、そういった事情があったとしても、ああはなりたくないなって思った。


 その後、森園さんと有馬さんを引き渡した2人が戻ってきて、わたしたちは先ほど謝罪してくれた社員の人の運転で本社まで送ってもらうこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る