アスロ初登場作品の冒頭部 あるいは没稿
「ねえアスロ、やっぱり戦争が始まるのかな?」
猛烈に魚臭い木箱を運びながら、ヘルが聞いた。
薄茶色の髪をした細身の少女は、それでも大きな木箱を抱えている。
アスロと呼ばれた少年は反対側で同じ木箱を支え、チラリと監督官を見た。
さぼっていると判断されると、手にした鉄棒で容赦なく殴ってくるのだ。
しかし、幸いにも今はこちらに注意を払っていていないことを確認して言葉を返した。
「始まるんじゃないかな。だってこれ、軍用の食糧でしょ?」
大勢の少年少女が木板を上り、艀から積み荷を降ろしている。
そのまま砂浜を渡り、道路上に停めてある馬車の荷台に積み込むのだ。
馬車の御者たちは運搬量が稼ぎに直結するとあって、忙しなく子供たちに怒鳴りつけていた。
「おいガキ、急げよ!」
ようやく自分の番が来たので張り切っているのだろう。手招きする先頭の馬車に木箱を乗せると、髭面の御者は硬貨を一枚手渡してきた。
一シール硬貨だ。
作業に参加するには五シールを監督官に支払わねばならず、また求童院という孤児施設も日当たり五シールを様々な名目で徴収する。
アスロとヘルは二人で二十シールを稼がねばならず、また、まともな食事にありつこうとすればもう三シールは最低でも欲しいところだ。
しかし、これが難しい。
アスロは鼠色に汚れたシャツの袖で汗をぬぐった。
強い海風は冷たくて急速に体温を奪っていくので、心地いいのはほんの一瞬で終わる。
「戦争があっても僕たちはなにも変わりゃしないよ」
分厚い雲が垂れ込める薄暗い空を見ながらアスロは呟いた。
それも猛烈な風音に遮られ、ヘルの耳には届かなかったらしい。
「なんてぇ?」
ヘルは耳に手を当てて問い返した。
改めて言うのも面倒で、アスロは「何でもない!」と怒鳴る。
空の色さえいつも薄暗いこの港町で、そのことをことさらに受け止めるのは苦痛だ。
アスロは大勢の同類たちに紛れ込もうと、艀に向かって駆け出した。
「あ、待ってよアスロ!」
背後からヘルが叫びながら着いてくる。
二人は次の木箱を運ぶために木板に飛び乗るのだった。
※
風に吹かれてカタカタとなる扉が眠りを遠ざける。
アスロは空腹にさいなまれる腹を抑えて藁を体に掛けた。
同じ作業をして、同じものを食べたはずのヘルは隣で熟睡しており、生命力の強さに感心させられる。
家畜小屋はベッドの使用代金を職員に払えない者の寝床であり、今晩も八名ほどが寝息を立てていた。
家畜小屋にもともといた鳥や羊は随分と前にいなくなったきり戻ってこない。
腹を空かした悪ガキが潰して食ったか、舎監が盗み出して肉屋に売り払ったかしたのだろう。
アスロはたまらなくなって自分の掌を見つめた。
痩せすぎな腕と不似合いに、掌はごつごつと節くれだっており木の棘がいくつも刺さったまま色素として沈着している。
と、扉が開けられ誰かが入って来た。
盗まれるものなど何もないが、この家畜小屋では度々侵入者による暴行被害が発生しており、ひどいときには子供が縊り殺されていた時もある。
アスロは緊張し、傍らの木切れに手を伸ばした。
「待てよ、俺だ!」
侵入者は声を上げ、アスロを止めた。
その声量は眠りこけていた子供たちも目覚めさせるに十分で、半数ほどが目をこすりながら起き上がった。
「バフッド様の行商店だ。おら、腹は減ってねえかい?」
月明かりに照らされ、禿頭の怪人が浮かび上がる。
真っ白い顔に粉が吹いたような小皺で年齢が読みづらいが、二十代半ばにはいかないだろう。
『行商人』のバフッドだった。
彼がどこに住んでいるのか、求童院の子供たちは誰も知らないが、彼のことを知らない子供はいない。
時々、どこかの店で売れ残りの料理などを仕入れて求童院の家畜小屋に出没するのだ。
いってみれば残飯を売りに来る煮売り屋である。
「今日はほら、瓶詰だ。一本一シールでどうだ?」
そうやって取り出した商品を見て子供たちは息をのんだ。
それは誰もが知っている、というよりもここにいる子供たちが一日中格闘して運搬した木箱の中身だった。
艀の向こうに浮いていた巨大な工場船で作られる食品で、小さなイワシのような魚を原料にしている。
蒸したイワシから絞られた油に蒸したイワシを漬けたものらしいのだけど、当然アスロたちの口に入ることはない。
監督官や作業場へ子供を出す救童院の職員たちはそれぞれ、工場船から二十本入りの箱を一つずつ受け取るのだけど、美味いものではないらしく工場船の船員が見えなくなると皆、一様に悪態をつく。
それでも、彼らはそれを必ず持って帰り、子供たちに分けることなんてありはしないのだ。
その瓶詰を買い取ったのか、それとも他の手段で入手したものか。
一文無しのアスロにはどちらにせよ関係がなかった。
「アスロ、お金持ってる?」
いつの間にか目を覚ましたヘルが哀れな表情で瓶詰を見つめていた。
アスロが黙っていると、理解したらしくヘルも続く言葉を飲み込む。
ポケットに一シールの余裕がある連中は小銭と瓶詰を交換し、手づかみで食べ始めた。
「おい、貧乏人ども、物欲しそうな目で見てるんじゃねえよ。金がねえならやらねえぞ」
白い顔のバフットが唸るように凄んだ。
明らかに皮膚病を発症した男の顔に勢いはなく、恐ろしさはかけらもない。
それでも、ぶん殴って所持品を奪うことも困難であるので、黙って地面を見る。
生臭いが、汁気たっぷりの瓶詰を魚油ごと飲み干す子供たちのそばにいるのは耐え難い。
アスロは藁を抜け出て家畜小屋を出た。
「待ってよ、アスロ!」
ヘルもあとから着いてくる。
冷たい夜風が無理やりに意識を覚醒させ、いくらか空腹も紛れた。
「とりあえず水でも飲もうか」
アスロとヘルは身を寄せ合って敷地の水栓まで向かう。
水で腹を満たしたら、朝までまだ少し時間がある。
礼拝堂にでも潜り込み、椅子に横になり朝を待とう。
入り口の戸も、窓の鎧戸もない礼拝堂は凍死者も出すほど寒いのだけど、隣にヘルがいることで寒さもはっきりと紛れて感じた。
※
翌朝は早朝から緊急招集の鐘が鳴り響いた。
これが鳴ったら即時、全員集合せよという命令で、背けばみんなの前で棒打ちを食らう。
アスロはウトウトしていたヘルをゆすり起して園庭に走った。
園庭には院長と他の職員が数名、前に立っていて、その前には数十人の子供たちがすでに並んでいた。アスロとヘルも適当な子供の後ろにつくと、そののちも続々と子供たちがやってくるので真ん中あたりに陣取ることになった。
何が始まるのかドキドキしていると、やがて一人の男が前に出てきた。
軍人。それ以外にその男を表現する言葉がなかった。
いや、例えば小ぶりな背格好や口ひげ、つまらなそうな表情など特徴はあったのだけど、濃紺色の軍服と腰に下げた細剣や拳銃、胸に飾られた階級章、長靴などあまりにも軍人であるなとアスロは思った。
軍人の絵を描けと言われればこの男の絵を書いていれば大過はあるまい。
その軍人は皆の前で咳ばらいを一つし、朗々と話し始めた。
「諸君、おはよう。今朝は非常にいい朝である。私は陸軍大尉のロンバルドというが、別に忘れてくれていい。さて、いい朝に一つ、残念な話をしよう。昨晩、軍用食の瓶詰がひと箱盗まれた。犯人は既に抑えているのだが、これは由々しき問題でね、あれはわが軍の軍事資材でもある。つまり、形の上では機密扱いとなり、中身を知った者には相応の処分が必要になる」
バフッドが持ってきた瓶詰。
アスロとヘルは目を見合わせた。
バフッドが捕まったとして、彼はなんと白状したのだろうか。
アスロの背中にうっすらと冷や汗が流れていく。
「そうはいってもたかが瓶詰だ。受け取った者は素直に申し出てくれたまえ。そうすればささやかな罰で済ませるつもりだ」
瞬間、轟音が響いた。
ギョッとしてみればロンバルドの手には拳銃が握られていて、銃口からは煙が立ち上っている。
一呼吸遅れて悲鳴が響き、そちらを見れば頭を弾き飛ばされた少年が手を挙げたまま倒れていた。
「ほんのささやかな鉛玉にまけておこう。さて、他の者も潔く名乗り出なさい。言っておくがね、バフッドという男はその場にいた連中の名前を吐いているんだ」
悲鳴の中でもロンバルドの声はよく通る。
冷や汗が額に浮き、水玉が鼻の横を通って流れ落ちた。
院長やほかの職員も黙って下を向いている。
「ほら、思い出しなさい。誰かこの男から瓶詰を買っていないかね?」
ロンバルドは後ろ手で何かを取り出し掲げた。
皮膚病がかった特徴的な禿頭。それはバフッドの頭皮だった。
裏面には肉と血がついており、雑に剥いたのがわかる。
大勢の子供たちがおびえ、中には腰を抜かす子もいた。
「どうかね、君たちは夜中に瓶詰を盗み喰うとき、食器を用意するかい。私の推理では犯人は素手で食っていると思うんだ。そうなれば、指の匂いを嗅ぐことで犯人の特定が……」
再び轟音がして、少年が倒れた。
昨夜、隣で寝ていた少年は指の臭いを確認しようとしたのだろう。手を口元まで挙げていた。
「紛らわしい行為は生命を縮めることにつながる。これは人生訓の一つとして胸に刻んでおきなさい」
ロンバルドは口ひげを器用に曲げてみせると拳銃を腰のホルスターへ納める。
淡々としゃべる殺戮者に怯えながら、子供たちは凍り付いた。
これで終わりではないだろう。
しかし、この詰問は素直に申し出ても鉛玉なのである。
答えない方が絶対に得である。まして、アスロとヘルは食べていないのだから、指の臭いなんて染みついていないはずだ。
隣にいるヘルの手をそっと握って、アスロは静かに深呼吸をした。
目立つのはまずい。極力動揺を隠せ!
自分に言い聞かせて、ロンバルドの視線から逃れる。
「ところで、アスロ君というのはどこにいるのかな?」
アスロの努力むなしく、ロンバルドの声で周囲の子供たちが一斉にアスロの方を向いた。
アスロはすぐに手を離すと、ヘルをそっと突き放す。
一緒にいればヘルも危ない。
しかし、ロンバルドは拳銃を抜かず、死もなかなか訪れない。
「君は食べていないね。バフッドが証言をしたよ」
思い返すと確かに、瓶詰めを買えずに家畜小屋を出るときにヘルから名前を呼ばれた。
バフッドがそれを覚えていても不思議ではない。
「こちらへ来なさい」
むしろ親しげなロンバルドの声に否も応もなく、アスロは前へ進み出た。
周囲の子供たちはアスロに関わるのを避けるように道を空け、そこをゆっくり歩く道のりが、ひどく喉の渇きを加速させる。
が、持ち上げられたロンバルドの手には拳銃が握られておらず、そのままアスロの肩に置かれた。
「君は怒りもあらわに、不正の場を去ったそうだね」
ロンバルトの表情は相変わらずつまらなそうで、それでいて口調には妙な色を帯びてくる。
金がなくて、やり切れなくてその場を去っただけで、決して正義感から出た行動ではない。
だけど、わざわざ否定をすることはない。アスロは鳴りやまぬ鼓動を必死に抑える。
次の瞬間、アスロは自分のお目出度さを呪いたくなった。
「さて、正義の徒であるアスロ君。君にはぜひ、他の不誠実と戦ってもらいたい。なに、その場にいたほかの子供を指で示してくれればいい。引き金は私が引こう」
言葉の最後にはアスロにだけ聞こえる小声で「そうすれば君の命だけは保証しよう」と付け加えられた。
「言っておくが、躊躇うのなら君の頭にもささやかな鉛が食い込むことになる」
獲物をもてあそぶ猛獣の爪に似て、ロンバルドの声はネバついてアスロにまとわりつく。
「さらにいえば、すでに全員の顔と名前を抑えているのだ。その証拠に、間違った子は撃っていないだろう」
「なら、なんで……こんなことをするんですか?」
一刻も早くこの怪物から逃れたい。その思いはありつつ、アスロはロンバルドに質問した。
あまりにも不条理であるし、ロンバルドの言が真実であるならば、アスロにわざわざこんなことをさせなくてもいい。
「理由があれば満足かい?」
ロンバルドは笑い、銃を子供の群れに向けた。
「いかなる理由でも、この引き金を引いた結果は変わらない。さてアスロ君の相棒については聞いているよ。クセのある赤茶色の毛。身長は君と同じくらい。顔にはソバカスの女の子。君の隣にいた子がその特徴に沿うが、あの子だね?」
ロンバルドは銃の照星をアスロと一緒にのぞき込む。
銃身をまっすぐ伸ばした先にヘルがいた。
こちらを心配そうに見ているヘルと、照準越しに目が合った。
「お願いですからやめてください……」
緊張と混乱がアスロにのしかかり、空っぽのはずの胃から中身が飛び出しそうだった。
「君が私の言うことを従順に聞き、部下になるというのなら許してあげよう」
ロンバルドは尊大な口調で囁き、その手を払いのけることはアスロには不可能だった。
「お願いします。なんでもやりますから……」
「ふむ、そうか。では君は英雄になるのだ」
瞬間、アスロの目は衝撃とともに真っ白になった。
殴られたと気づく前に、腹に膝蹴りが突き刺さる。
胸を踏まれ、顔に銃口が向けれらた。
今度は照準を通してロンバルドと目が合う。
アスロはようやく、この男の表情を見た気がした。
轟音、衝撃、激痛。
思わず左耳を抑えた手が、ヌルリとした感触をつかむ。
そこにあったはずの左耳が上から三分の一ほど消失していた。
ロンバルドの目元がわずかに歪み、それが禍々しい笑みだとアスロは知る。
「これだけやっても吐かないか。それならもういい。君の耳に免じてここは引き下がるさ」
一方的に宣言したロンバルドはアスロの胸から足を退けると、どこかへ行ってしまった。
そちらを見るのもかなわず、アスロの意識は途絶えてしまった。
※
目が覚めるとアスロはベッドに寝ていた。
清潔な寝具と薬の匂い。そこは『上等な方』の医務室だった。
主に具合の悪い職員が利用する部屋である。孤児たちは掃除のとき以外は一切の立ち入りを許されていない。たとえ、病で動けない時でも。
逆に『身近な方』の医務室にはいつだって大勢の子供が寝かされている。
そちらでは寝具なんて気の利いたものはない。
木の板に鋸屑が敷いてあり、その上に寝かされるだけだ。
医務室とはいうものの一切の医療行為は行われず、死にかけて動けなくなった子供を連れて行くときにしか大人は立ち入らない。
鋸屑の上に投げ捨てられた子供が時間の経過とともに回復することはない。
その先は大人も関わらず、死んでしまえば、仲のいい子供たちが連れ出して裏庭に埋葬するだけである。
ちなみに、そちらでは薬なんて存在しないのだから、薬の匂いがするわけもなく、漂っているのは垂れ流しの糞尿と嘔吐の悪臭だ。
『身近な方』ならアスロも馴染み深く、仲が良かった仲間たちの死体を何度も取りに行った。
しかし、ここは『上等な方』だ。なぜ自分はこんなところへ。
身を起そうとしてアスロは激痛に顔を歪める。
左手で痛みの元に触れようとすると、妙な手触りがそれを阻む。
それでもズキズキとした鈍痛は耳で高鳴っており、アスロはロンバルドに撃たれたことをようやく思い出した。
あの一連の凶行が何だったのか、全くわからない。
記憶に強く残るのは二人の撃たれた子供とバフッドの白い皮、そうして銃身越しに見たロンバルドの目つきだった。
「起きたか?」
声がしてそちらを向く。
いや、何かが突っ張って首は動かない。
「ああ、いい。動くな」
ゴト、と音がしてアスロの視界にガッチリとした男が入ってきた。
年の頃なら三十代の半ばだろうか。
日に焼けた肌と無精髭が特徴的な黒髪の男だった。
港湾労働者がよく着る安物の作業服と帽子をかぶっている。
「眩暈はないか。気分が悪かったら言え」
それに応えようとしたアスロの喉は干からびていて、上手く声が出せなかった。
動くなとは言われたが、それを真に受けて無礼をそしられてはたまらない。
アスロはどうにか身を起こし、男に向き直った。
これで、突発的に襲われても逃げやすくなった。
目の前の男が変質者でない保証はないのだ。
「血を流したんだ。まあ、飲めよ」
男は気にするそぶりもなく、液体の入ったコップを差し出した。
陶器のコップを受け取り、口をつけると中に入っていたのは柑橘の匂いがする水だった。わずかに砂糖が混ぜてあり、アスロはそれをこの上なく美味いと思った。
一息に飲み干し、荒い息を吐く。
「あ……りがとうございます」
アスロは思わず空にしてしまった器をオズオズと差し出した。
人心地が着くと同時に警戒心も戻ってくる。もしかして、一口だけをくれるつもりだったんじゃなかろうか。
「おう、もう一杯飲むか?」
男はそう言って傍らのガラス瓶を差し出した。
軍事物資!
見覚えのある瓶を見てアスロの背筋に汗が流れた。
以前に艀から馬車まで運んだことがあったので知っている。職員たちは配布された分を「薄い」と不満並べながら飲んでいた。
そうして、要らないのなら分けて貰えないかと遠巻きに見る子供たちに投げつけられたあの、空の瓶である。
軍事物資の魚に関わって、怖い思いをしたばかりである。
倒れた孤児の死体を思い出して胃が痛くなる。
アスロが腕を伸ばさないので、男は瓶を傍らに下した。
「おまえ、今日の晩から元のねぐらに戻れ。ただし、余計なことは言うなよ。何か聞かれたらよくわからないと答えろ。それがテストだ。わかったな?」
アスロは一体、男が何者なのか、何を言っているのかさっぱりわからなかった。
しかし、なぜだか急激に瞼が重くなってくる。
「わかったな。これはテストだ」
男の声をかすかに拾いながらアスロの意識は途絶えていった。
※
覚醒と同時に、アスロは痛いほどの空腹を感じた。昨晩から口に入れたものは先ほどの飲料と水だけだ。
すでに部屋の中は真っ暗になっており、窓から差し込むわずかな明かりでどうにか闇と自分の境界を確認できる。
ここにいても仕方がない。アスロは重たい体を動かしてベッドから這い出ると、医務室から出た。
救童院の夕食時間は夕方時なので、もはや食事にありつくのは無理だろう。
間に合ったとしても職員に支払う金がない。と、アスロはポケットの重さに気づいた。
シャツのポケットにシール硬貨が十九枚、ズボンのポケットには七枚が入っていた。
触ったこともない大金にアスロの胸は高鳴る。
周囲に人がいないことを確認すると、それを床に置いて端から数えた。
三度数えて総数が二六枚であることを知る。
これだけあればヘルとともにしばらくはおなか一杯食べられるし、家畜小屋以外で眠ることもできる。
何をしようかと考えて頭がこんがらがり、とりあえずヘルを探さねばと思い至った。
ふらつく足で礼拝堂を覗くと、そこには誰もいなかった。
次いで家畜小屋を覗き込むと
短編集(イワトオ) イワトオ @doboku
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