学校で同窓会

陽月

学校で同窓会

『久しぶり。

 3月で靺小まつしょうが閉校になるし、ちょうど卒業10年なんで、同窓会をしようと思ってます。

 会場は、なんと小学校!!

 3月最後の日曜に、お菓子パーティーくらいですが、やりませんか?

 出欠の連絡をお願いします』


 小学校の友人からの久しぶりのメールは、同窓会のお知らせだった。

 大学進学で地元を離れ、地元の友人とは疎遠になっていたが、懐かしいし、いい機会だから参加しよう。

 友人には、「参加します。何か手伝うことある?」と返事をし、ついでに両親にも帰る旨の連絡をした。


 そして、当日。私は朝から生クリームと格闘していた。

 同窓会のコンセプトはお楽しみ会だそうで、何か思いつくものを用意して、とのことだった。

 ちょうど創立記念日が3月末だということを思い出し、小学校の誕生日、ということでケーキを準備することにした。

 お菓子作りは好きだし、他に何も思いつかなかったのだ。


 昨夜焼いたスポンジケーキは、すっかり冷めていて、いい状態だ。

 スポンジケーキを半分に切り、切り口にシロップを塗って、生クリームを塗る。イチゴを並べて、スポンジケーキで挟む。

 そこまでは良かった。側面も生クリームを塗ろうとしたのが間違いだった。

 塗ろうとしているのに、生クリームはヘラにばかりついてきて、塗れない。いつもは面倒だからと側面はサボるのに、せっかくだからきっちりと、などと思ったのが間違いだった。

 やり始めてしまえば、やりきるしかないわけで、四苦八苦しつつも、なんとか完成させた。


 5分前に着けるようにと、家を出る。

 頑張って作ったケーキは、箱に入れて、助手席に。ケーキにもしっかりシートベルトをする。

 小学校まで6年間歩いて通った道を、今日は自動車で走る。

 3kmちょっと。信号なんてものはなく、車なら5分くらいで着いてしまう。けれど、当時は30分以上かけて、歩いて通っていた。道草をして、2時間以上かけて帰ったこともあった。

 今後はスクールバスになるそうで、この道を子供達がランドセルを背負しょって歩く姿は見られなくなる。


 会場である6年生の教室に入ると、既に女性が二人来ていて、折紙で作った鎖を飾り付けているところだった。一人は私にメールをくれた子で今回の幹事だ。

「久しぶり、手伝おうか?」

由美ゆみ、久しぶり。じゃあ、置いてある飾り渡してくれる?」

 私が飾りを渡し、それを二人が取り付けていく。

 作業をしながら、話をする。

 みんな靺山まつやま時間だから、始まるのは30分後ぐらいだとか、私がケーキを持ってきたとか。


 飾り付けが終わったのが、本来の開始時刻。そこでようやく、人が来たかと思ったら、男性側の幹事で、買い出しをしてきてくれたのだった。

 スーパーの袋から出てくるのは、スナック菓子類に紙皿と紙コップ、そしてジュース。子供の集まりって感じだ。

「あのさ、私らって一応成人してるよね」

 ジュースばかりの理由は、まあ分かるけれども、それでも確認をしてみる。

「どうせみんな車で来るからね」

 仰るとおり、私も車で来た一人です。


 時間は来ているものの、さすがにこの人数では始めるわけにもいかず、適当に話をする。というか、私が地元の情報を尋ねる。

「靺小って、合併?」

「ううん、単なる廃校。小学生は転校って形だって」

 もともと町内にあった4つの小学校のうち、一番人数の多いところと、一番少ないところが既に合併していて、その学校に転校するのだという。

「この校舎どうするの?」

「さあ?」

「さあって。新しいのに」

 そう、確か私が入学する何年か前に、100周年記念で建て替えてたはずだ。

「人が少ないし、どうしようもないと思う」


 田舎で、子供が少なくなることは目に見えていた。こんなに早くというべきか、今まで持ちこたえていたというべきか。

 私の頃はどうにか2クラスあった中学校も、今では1クラスらしい。私の何代か上は3クラスあったというのに。

 中学校は9クラス分の教室があるのだし、町内集めても学年1クラスなら、全部まとめて中学校でいいんじゃないかと思う。


 予定通りというか、30分遅れで同窓会はスタートした。最初の乾杯は、もちろんジュースだ。

 みんな変わっているけど、変わっていない。

 呼び方が当時の呼び捨てやニックネームで、懐かしい。

 大半が高卒で働いていて、既に結婚して子供がいる人もいる。

「由美は4月からどうするの」

 聞きたかったのは、どういう仕事をするのかということだろうけれど、私はまだ仕事なんて答えられない。

「院に行く」

「インって?」

「大学院。もうちょっと、大学で勉強する」

 大学では、大学院に進むのが普通という感じだった。けれども、今日集まった多くは、大学院というものを知らない。それだけの差ができてしまっていることを、改めて実感した。

「そっか、頭いいもんね」

 一方で、ちゃんと仕事をして稼いでるみんなをすごいと思う。


「じゃーん、これなんだ」

 幹事の一人の通る声が響く。手に持っていたのは、卒業文集だ。

 群がり、なんて書いてあるか確認する。自分が何を書いたかなんて、すっかり忘れてしまっている。

 将来の夢、サッカー選手だとか、漫画家だとかみんな好き勝手書いている。

「由美はケーキ屋さんだって」

「作ってきてくれたケーキ美味しかったよね」

 美味しいと言ってもらえたら、何よりです。

 20人しかいないのに、卒業文集で1冊作っているから、いろんな事をみんなが書いている。

 小学校で一番の思い出とか(やっぱり修学旅行は強い)、友達の紹介とか、将来の年表とか。

 ちょっと待って、私24歳で結婚とか書いてるよ。無理だ。


 卒業文集から、話が卒業記念植樹になった。

 何か植えたよね、と。

 先生が選んだの1本を校庭に植えただけだから、何の木を植えたのかも記憶にない。

 植物の記憶なら、毎年冬に育てたパンジーの方がよっぽどある。

 はっきりと何をどこに植えたのかを覚えている人はおらず、実際に探しに行こうという話になった。

 校庭に出て、この辺のはず、という所へ行く。何年か毎年植樹をしていたので、それらの樹が並んでいる。

「○○年度卒業記念」と書かれた杭を頼りに、自分たちの樹を探す。


 薄くなった墨を頑張って読んで、ようやく見つけた樹は桜だった。

 もう少し先なら、桜が咲いていたのだろう。けれど、今はまだ、どうにか蕾が分かる程度だった。

 せっかくなので、集合写真を撮る。杭を中心にしようとして、グラウンドの端から、校舎を見る形になった。

 バイバイ小学校。私は、大学院に進むのが普通の世界に戻るよ。

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