昭一と、大人になりたいホタルのひと夏

　かつてこの田舎には、夏の蛍とともに現れる『ホタルの子』という存在がいた。
　姿形は人間の子供で、妖怪や妖精の類とされている。
　ひと夏だけの友人として、『ホタルの子』は人間たちに混じっていたという。

　夏休み。坊主頭の小学生昭一は、河原で見知らぬ少年と出会う。
　茶色い髪に深緑の目。どう見ても日本人離れした容姿の少年、ホタル。ホタルは自分のことを『ホタルの子』と称し、小さな蛍たちと夜の闇を照らす。
　自らも、淡い光を発しながら。

「ハルコがね、ぼくを大人にしてくれるんだって！」

ホタルは、中学生の春子と約束をしたという。しかし、風邪を引いたため現れない。

「しゃーねーなあ……。一緒にお見舞い、連れてってやるよ」

　これが、昭一とホタルの夏の始まりだった。


※小説家になろう掲載作を加筆修正したものです。