強面騎士に二言はない

葉月透李

強面騎士に二言はない

 人は見た目じゃない。中身が一番だ。と、よく言われる。


 もちろんそれは否定しない。

 確かに一番は中身だろう。


 ……だが、人と接する時に一番見られるところはどこだ?







「あーあー。今日の仕事かったるいよな。ただの見張りだろ?」

「つまんねぇよなぁ。ただ突っ立ってるだけじゃん」


 城の内部を歩いていると、そんな声が聞こえてくる。


 見れば年下の騎士達だ。新人騎士も入隊して半年は経つ。仕事に慣れたが故に、ただの見張りはつまらないのだろう。思わずふっと笑ってしまう。俺も同じ頃に似たようなことを思ったものだ。


「お前達」


 背後から声をかける。

 労いの一言でも伝えようとした。


 が、こちらを振り返った騎士二人はぎょっとした顔をする。


「ヴォ、ヴォルフ殿!?」

「失礼致しましたっ。騎士たるもの、どんな仕事も全力で行うべきですよねっ!」


 こちらはまだ何も言っていないというのに、慌てた様子でそんなことを言ってくる。もう一人も「失言でしたっ!」と思い切り頭を下げてくる。そして声を揃えて「それではこれで!」とそそくさとその場から走り去ってしまった。


「…………」


 俺はただ、そんな時もあるよな、って言いたかっただけなんだが。


「あーあ。まーたヴォルフが後輩を泣かせた」


 咎めるというよりは楽し気な言い方をしながらある騎士がやってくる。金髪碧眼という、いかにも女性達にきゃあきゃあ言われそうな容姿を持つ男、クリスト。何かと突っかかってくる言い方をしてくるのは日常茶飯事。だが事実無根のことを言われる筋合いはない。


「泣かせてない。俺はただ声をかけただけだ」

「顔を見た途端、怯えられてたけどな」

「…………顔のことは言うな」


 そう、俺の顔は怖い。


 つり目なので睨んでいるように見えると言われる。

 しかも普段は口を結んでいるのであまり笑わない。まさに「強面」。


「お前の場合は顔だけじゃないだろ。真面目だし、厳しいし、騎士としての実力もあるし。色々重なって『怖く』見えるんだよ」

「だが一番の原因は顔だろう」


 結局いきつくところは顔だ。

 一番見られるところじゃないか。


「ま、それなんだよなぁ。中身は割と優男なんだけどなぁ」


 おかしそうにけらけら笑われる。

 全然配慮がない。いい加減傷つくぞ。


「いい。お前からそんなフォローをもらっても嬉しくない」


 クリストは俺にないものを全て持っている。家柄、器量、周りからの信頼。正直性格は少し難癖あるが、一般的に見ても優良物件だ。城下を歩いていればきゃあきゃあ騒ぐ女性陣の多いこと多いこと。俺なんか目が合うだけでさっと目線を逸らされると言うのに。


「まぁいいや。そういえばさ、剣術大会があるらしいぞ」

「剣術大会?」


 騎士団ではよく、実力を見るための大会が開催される。

 だがこの時期に剣術大会を行う意味が分からない。


「いきなり開催だってさ。しかも今回はなんと景品付き」

「!」


 大会が開催されることはあっても、それはただ実力を見るだけ。だからもちろん景品なんてものは存在しない。しかも実力を見るのは今行っている仕事を任せても大丈夫か、という確認の意味もあるので、出世云々も関係ない(俺からすればそれも関係してほしいと思うのだが)。


 だから元々貴族生まれでもない俺からすれば、「景品」という言葉はとても魅力に感じる。遠くで暮らす家族は元気にしているだろうか。毎月給料を送っているものの、美味しいご飯は食べているだろうか。それとも弟や妹は、俺に遠慮してお金を貯めているんじゃないだろうか。


「おーい思考をこっちに戻せ。で、だ。今回の景品はかなり良いものだそうだ。陛下直々に下さるらしくてな、本当は渡したくないほど大切な宝なんだと」

「なに!? 陛下の宝……つまり、国宝か!?」

「まぁ、そうだな」

「それさえあれば……」


 まるで掘立小屋のような場所で寝泊りしている家族も、少しは良い場所で暮らす事ができるかもしれない。するとクリストからぼそっと「さすがに掘立小屋はないだろ」とツッコまれる。うるさいな。俺だってそこまで思ってない。けど実家の話をした時に家のことを馬鹿にしてきたのはそっちだろうが。


 だがここで俺ははっとする。


 いや待て。国宝だぞ? もしかしたら栄誉あるものかもしれない。自分の手元に置いておくべきものなのかもしれない。だが……だがそれで少しでも家族が幸せになれるなら……俺はその宝を売る!


 俺の様子を見ていたクリストは、半眼になる。


「お前、ほんと現金な奴だよなぁ」

「こちとら生きるのに必死だ。お前とは違う」


 騎士になったのも家族を養うため。

 それ以外の理由はない。


「はいはい。ま、お前の実力ならいけるだろ。ちなみに参加者はかなり多いらしいからな、頑張れよ」


 う、そうか。そうだよな。国宝をもらえるなら欲しがる奴はたくさんいる。自分の功績にもなるわけだし。だが俺は自分のために欲しいわけじゃない。家族のためにその宝が欲しい。


 聞けばその大会は一週間後に開催される事になっていた。

 俺はその一週間、今まで以上に入念に鍛錬を続けた。




 当日。


 どうやら勝ち抜き戦で行うようだ。

 やはり見知った顔は大勢いた。


 だが、そんなものは関係ない。

 俺はただ宝が欲しい。それだけだ。




 一戦目。


「ヴォ、ヴォルフ殿! たとえヴォルフ殿が相手でも、俺は負けませんっ!」


 まだ新人のようだ。そうか、新人でもやはり宝を欲しがる奴はいるか。いいな、そういう野心的な奴は嫌いじゃない。だが……今この場でどちらが野心家と聞かれれば……どう考えても俺の方だ!


 素早く剣を動かし、相手の剣を吹き飛ばす。

 彼は勢い余ってか、思わずしりもちをついてしまっていた。


 っふ、背中から転ぶなど騎士からすれば格好悪いぞ。

 せめてかっこよく前から倒れる練習をしておけ。




 二戦目。


「ヴォルフ。ここで会ったが百年目!!」


 すでに剣を抜いて俺に向けてくる。

 同期のコナーだ。こいつはなぜか俺に突っかかってくる。


 毎回何かと勝負をつけたがるのだ。

 俺からすれば全くコナーに興味はないのだが。


 だが丁度いいので聞いてみた。


「コナー。お前、なぜそこまで俺を敵対視する」

「……貴様、忘れたとは言わせないぞ」


 何のことだ?


「入隊して初めて剣の試合を俺としただろ」


 そうだったか。覚えてない。


「その時お前は俺のベルトを真っ二つにした!」


 ベルトというのはおそらく腰につけている黒のベルトのことだ。ああ、そういえばしてしまった気がする。剣の切れ味がいいと事前に聞いていたので、ベルトも切れるのかと思わず狙いを定めた。すると本当に綺麗に真っ二つに切れてしまった。いきなりは危ないだろうと教官から拳骨を食らったが、自分でも綺麗に狙えたなと思った。


「……それが何だ?」


 まさか、そのベルトが気に入っていたとでも言うのか?

 すると分かってないことが伝わったのか、コナーは叫ぶ。


「俺の軍服が脱げたんだっ! 入隊して間もないのにあんなに大勢の前で恥をかかせやがって……!!」


 まさかそれだけで?

 だから今の今までずっと恨んでいたのか?


「貴様だけは絶対に許さん……!!」


 コナーは走って剣を動かす。

 話しながら来るとはいい度胸だな。


 俺も同じように剣を抜き、狙いを定める。


 コナーは最初、片手で剣を握っていた。

 それを両手に持ち変える瞬間、俺は相手の利き手じゃない腕を掴んだ。


「!?」


 思い切り捻る。

 すると痛かったのか、相手は顔を歪めた。


 その少し動きが止まったところで足を動かす。

 すると相手は綺麗に足に引っかかって転んでくれる。


 すぐに顔の前で剣を向けた。


「っ……!」

「いつまでも過去のことを気にする男は上にはいけないぞ」


 コナーは悔しそうに顔を向ける。

 実際俺に剣の試合で勝ったことは一度もない。


 せっかくなのであの時と同じことをこの大会でもしてやろうかと思ったのだが、それはやめておく。さすがにあいつの面子が丸潰れになるのは避けなければ。剣術大会というのだから騎士の誇りは持っておかないとな。




 準決勝。


 相手は先輩騎士であるユリウス殿。強面と言われる俺にも屈せず、丁寧に優しく仕事を教えてくれた先輩だ。まさかこの人と準決勝を戦うとは。……いや、こういういい人こそ上にいるものだ。


「相手はヴォルフか。嬉しいな」


 優しく微笑んで言ってくれる。


 さらさらの髪に、柔らかいタレ目の持ち主。

 優しい雰囲気もあってか、眩しい。さすが爽やかイケメン。


「……俺で相手が務まりますか?」


 思わずそんなことを聞いてしまう。

 ユリウス殿は優しいだけでなく実力もある。


 この人は本当に顔だけじゃないんだなと何度思ったことか。

 実際対戦して負けたことの方が多い。むしろ勝ったのもまぐれな気がする。


 すると満面の笑みを向けてくれる。


「もちろん! 自分が指導した後輩だからな。素直に嬉しいよ」


 さらに眩しい。この純粋さは眩しすぎる。

 思わず目を覆い隠したくなる程だ。


「ユリウス殿はなぜ、この大会に?」


 このままでは俺の目が潰れてしまう。

 話題を変えることにした。


 するとユリウス殿の顔色が変わる。


「……欲しいんだ。宝が」

「!」

「俺には不釣り合いと分かっているけど……でも、このチャンスは絶対に逃したくなくて」


 不釣り合いだなんて、それほどまでに価値のある宝なのか。いや、国宝だ。価値はあるだろう。つまり、その宝に見合うだけの価値のある騎士でなければならないということか。ユリウス殿がそう言うのなら、俺なんてもっと価値がない気がする。それでも俺は……。


「俺もです」

「え?」

「俺も宝が欲しくて参加しました」


 するとなぜか目を見開くほど驚かれる。


「ヴォルフも?」

「はい」

「……意外だ。ヴォルフは興味がないかと」

「そんなことありません」

「……そうか、そうだよね。憧れる人は多いはずだ」


 憧れる? 宝にか。

 少し疑問に思ったが、宝が欲しいのは二人とも同じ。


 だったら真っ向勝負するのみ!


 ユリウス殿との戦いは接戦だった。当たり前だ。先輩騎士で俺よりも実力はある。経験の差だってある。だが、それでも、負けたくなかった。全ては自分の為じゃない。家族のため。人は誰かのために強くなれるのだと、聞いたことがある。俺のはまさにそれだ。家族のためなら何があっても頑張れる。


「そこまで!」


 審判の声が上がる。


 まだ決着はついていなかった。

 お互いに審判の顔を見る。


「……勝者、ヴォルフ!」


 周りで見ていた観客達がおおっ、と声を上げる。

 だが俺は納得できなかった。


「待って下さい、決着はついてません。それなのになぜ、」


 だが審判は平然とした顔をする。


「陛下が判断されたのだ」

「……陛下が?」


 開催主である陛下も見ているのは知っていた。

 だが、それでもなぜ、俺を選んだのか。


「はは、当然の結果かな」


 ゆっくりと剣を鞘に戻しながらユリウス殿が近付いてくる。


「俺よりヴォルフの方が優れていた。それだけだよ」

「しかし、」

「いや、宝が欲しい気持ちは、君の方が勝っていたんだろうね」

「…………」


 俺はそれ以上何も言えなかった。

 陛下が決めたのなら、俺達は何も言えないのだ。


 俺は無言で手を差し出す。

 するとユリウス殿は朗らかな笑みで握り返してくれる。


 ここでユリウス殿と戦えたことは、本当に光栄だと思った。




 決勝戦。


 さて相手は誰だと思えば、図体のでかい人物が歩いてくる。

 そして見た瞬間、思わず顔が険しくなった。


 現騎士団の団長、ラインホルト殿。

 まさかこの大会に騎士団長が出てくるなんて。


 ラインホルト殿はにかっと豪快に笑う。


「ヴォルフか」

「はい」

「よくここまで来たな」

「……はい」

「聞きてぇんだが、お前さんはなぜこの大会に出た?」


 いきなりだ。俺はすぐに答える。


「宝が欲しいからです」

「ほぉ。お前さんは興味ねぇと思ってが」

「あります。俺は宝が欲しい」

「……その気持ちに偽りはないか?」


 急に声のトーンを下げられる。

 なぜか真面目な顔になっていた。


「ありません」

「本当に欲しいのか?」

「欲しいです」

「二言はないな?」

「ありません」

「ふうん……」


 するとじろじろと頭の先から爪の先まで見られる。

 なんだか品定めをされている気分だ。


「うん、良し。じゃあいいぞ」

「…………は?」

「だから、合格。優勝はお前だ、ヴォルフ」

「は!?」


 すると審判が手を挙げる。

 勝者は俺になっていた。


 すると会場一体が熱気に包まれる。

 俺の勝利を称えてくれている様子だった。


「ま、待って下さい。戦わずして、」

「俺はただの判断役だ。普通騎士団長が大会なんて出るか?」

「それは、確かに」

「それに俺、宝いらないしな。奥さんいるし」


 なぜか照れた様子で頭を掻く。

 そこで奥さんが出てくるのがよく分からないのだが。


「ま、とにかく優勝はお前だ。早く陛下の元へ行け」


 そう言って先を見れば、祭壇らしき場所がいつの間にか用意されていた。そして、その上には陛下が立っている。よく分からないが、俺は優勝したらしい。ならば待たせるわけにはいかない。小走りで近付く。


 陛下は威厳ある顔のまま、少し笑った。


「剣を振るう姿を見た。まさに騎士だな。実に男らしかった」

「もったいないお言葉にございます」


 俺は足をつき、頭を下げる。


「渡すのは惜しいが、約束だから仕方ない。そなたに世の宝を授けよう」

「はっ」


 遂に、遂にこの時が来た。さぁ、宝とは何だ。一体何なんだ。

 俺はどきどきしながら待つ。一体陛下が手放す程に惜しい国宝とは……。


 するとどこからか高い音が響いてくる。

 俺は思わず顔を上げた。


 そこには綺麗な顔をした女性が立っている。


「我が娘、ナターリエだ」

「…………え」

「どうした。そんなに見惚れるか?」


 陛下は嬉しそうに声を上げる。

 いや待て。うっかり見とれたがそうじゃない。


 なぜここに第一王女がいる?


「陛下、なぜここに姫が」

「なに馬鹿なことを言っている。この国の宝と言えばナターリエに決まっているだろう」


 それを聞いた途端、俺ははめられたと思った。

 ……クリストめ、わざと宝が何なのか教えなかったな!?


 思わず客席を見れば、奴はふっと鼻で笑っている。

 その顔は明らかに面白がっていた。くそ…!!


 だが同時に、やっと理解した。

 対戦相手達が言っていた意味が。


 何か話がかみ合わないと思っていれば、宝は姫自身・・・だったのだ。だから皆、こぞって参加したがった。姫を手に入れられるなら何がなんでも勝ちたいと思うだろう。考えれば簡単な話だ。陛下が一番大切にしているものなど娘以外にない。どうしてこんな簡単なことを俺は気付かなかったのだろう。


 するといつまでもうじうじしていたからだろう。

 陛下は訝しげに見てくる。


「……なんだヴォルフ。もしかしてナターリエに不服があるのか?」

「まさか、滅相もございません。しかし陛下、もう一度お考え下さい。姫の相手が俺だなんて、どう考えても不釣り合いです!」

「何を言う。愛は障害を越えられるというだろう」


 飛躍しすぎだろその表現。


「ですが俺は貴族でもなければ地位もありません。そんな男に嫁がせるなど」

「心配せずともお前には地位を与える。この大会で優勝したのだからな。もちろんだ」


 それはありがたい。これで給料も増えるだろうか。

 そして家族にも良い家を……って今はそれどころじゃない。


「何より姫の気持ちが大切ですし」

「ナターリエ自身が望んだのだ。この大会で優勝した騎士と結婚したいと」

「でしたら俺ではなく、ユリウス殿の方がもっと相応しいかと」

「――あなた、私と結婚したくないの?」


 急に凛とした声が聞こえた。


 見ればナターリエ姫だ。美しい金髪の長い髪に、サファイア色の瞳。まつ毛は長く、瞳は大きくてくりくりしている。肌は一度も日に当たったことがないほどに白い。本当に穢れのない女神のような姿。だがその

綺麗な顔が微妙に歪んでいる。怒っているのは一目瞭然だった。


「あなたは何のためにこの大会に出たの。宝が分かった上で参加したのではないの?」


 いや、むしろ書いてたのかよ。と心の中でツッコミをする。


 情報をくれたのはクリストだ。だからうっかりその情報を鵜呑みにした。クリストの発言では、宝が何なのかまでは知らない様子だったというのに……。いや待て、そういえば今まで対戦してきた騎士は、みな知っている風だった。知らなかったのは俺だけだったのか……!?


「優勝して嬉しそうにしていたのに、私が景品と分かってそんなにがっかりされるとは思わなかったわ」

「いえ、がっかりというわけではなく」


 がっかりしたのはしたが、結果的に出世に関係はあるらしい。だったら家族も嬉しいだろう。だから俺も嬉しい。ただ、姫が景品なのは嬉しくないというよりは申し訳ないのだ。


「俺はこの通り、強面と言われます。周りから怖がられているんです。ですから」

「だから?」

「……は?」

「だから何? 私はちっとも怖いと思わないわ」

「え、いや……」


 これは意外な反応だ。まさか姫が怖いと言わないだなんて。むしろ言われたことないのに。地味に感動をするが、すぐにはっとする。


 そういう問題じゃない。

 姫が良いからっていい問題じゃない!


「ですが、周りからなんて言われるか」

「お父様は賛成してるけど」


 確 か に。


「それでも他の方は納得されないはずです。俺なんかと」

「私とお父様が賛成している時点で周りが何か言うとは思わないけど」


 確 か に。


 むしろ言った側が咎められるかもしれない。


「お、俺は何も持ってないですし」

「持ってるじゃない。地位はもらえるし、実力はあるし」

「…………」


 駄目だ。完全に塞がれた気がする。

 他に何か言えることはないだろうか。うんうん唸って考える。


 するとすっと姫の手が伸び、頬に触れている。

 手はひんやりしていて柔らかい。


「ねぇ」

「は、はい」

「男に二言はないわよね?」


 にっこりと笑われる。極上の笑顔。

 向けられた者は天国に行けるだろう。


 だが俺は顔を青くする。

 その笑顔の裏に冷ややかなものを感じたのだ。


「…………はい」


 俺は答えてしまった。いや、答えざるを得なかった。

 このまま拒み続けるとやばい、と、頭の中で危険信号が鳴ったのだ。


「そう」


 そのまま顔を近付けてきて、え、と言う前に唇が塞がれる。

 柔らかいそれが何なのか気付く前に、姫は離れた。


 彼女がふっと微笑む。

 美しく妖艶な笑みに、俺は顔を真っ赤にする。


 国王は豪快に「はっはっは!」と高笑いをする。

 こうして俺は、姫の護衛兼旦那様になってしまった。

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