あの娘をパーティに入れたい!!
くりふぉと
第1話 あの娘をパーティに入れたい!!
「叩いて〜被って〜ジャンケンポン!」
午後の晴れた空に声が響く。
イスペランセ王国の首都マジョリードの街の中。真剣勝負の最中である。
パーティー:
中央に立つのは、立会人。
黒の外套に、高級シルクの白い布を纏い、眼鏡を掛けた長身の男がこの勝負を取り仕切る。
この闘いの勝者が、有名冒険者の某少女剣士を自パーティーへの移籍という取引を実現させる権利を得る。
有名なA級パーティーである「
そのパーティーは解散する方向で話が進み、結果ひとまずパーティの形を残しつつ、どこかのパーティーに移籍を希望する者は、その旨を冒険者ギルドの掲示板に出すことにしたのだった。
そのうちの1人が、件の少女剣士。
移籍金額は5万レアル。
さすがに、A級のパーティメンバーをオファーする条件を満たせるパーティは少ない。結果、東洋の錬士と西の牙の2つのパーティが獲得に名乗りを上げ、一騎打ちとなったのだ。
パーティ間での取引は自体よくあることだが、今回は有名冒険者の移籍。その冒険者のランクが高いほど大きな額が動く。
そのため、こういう取引に関しては間違いがないように、ギルド直属の立会人を要請することが多い。
ちなみに、「叩いて被ってジャンケンポン!」とは互いが椅子に座った状態で互いの中間にあるテーブルの上にあるハンマーとたらいを利用して、片方がハンマーでもう一方の頭を叩くことができるかの成功を争う、この国ではれっきとした由緒ある競技だ。
ジャンケンに勝ったらハンマーで叩く側に、負けたらたらいでハンマーを防ぐルールである。
ちなみに、ハンマーは安全性を考慮され、木の枝と羊の毛で作られた柔らかいものだ。それなりに衝撃は受けるが、たらいでガードすれば怪我をするレベルのものではない。
もしたらいで防衛が成功したら、またジャンケンからやり直しになる。
「よし勝ったぁ!」
少年らしさがまだ残った声が響く。
「まさか……? アヴィケブロンがやられた!」
「あの伝説のゴーレム遣いも、叩いて被ってジャンケンポン! では機敏さは奴に劣るか……」
3対3の勝負。
西の牙の2番手に引きずりだされ、劣勢だった
中央のテーブルを囲む中、簡易的に設けられたVIP席には、その両陣営の目当てである少女剣士が見守っていた。
そのいで立ちは。
銀のローブ、淡い青の戦闘服。それを対比するかのような赤色のロングヘアーはツインテール。それを揺らしながら、ただその持ち前の静謐さを保ちながら————への字の口で、しかしどこか女神のように見守る態度を貫く。
これは勝ち抜き戦。
次が東洋の錬士にとっての最後の敵。
Bランクパーティー:
あの豪傑を纏めるパーティーのリーダーである。
別名、「光の魔術士」である彼のいで立ちは、体躯はそれほど大きくない。線の細い、かつ物腰柔らかそうな表情を携えている。
暗いワインレッド色のローブを纏ってはいるが、フードは被らずに堂々と————髪の毛一つない、光るスキンヘッドを晒している男だった。
彼は冒険者としての腕だけではなく、自らのパーティをブランドにしたワイン事業まで立ち上げ、たくさんの
そんな彼ががテーブルに向かい、途中で立ち止まる。
「解せませんね」
そう言った。
「やはり我々は冒険者。
ここは正々堂々と力で決着を付けませんか?」
取引に於いて、2つ以上の人・パーティーがブッキングした際に、戦闘での勝敗で取引することはままある。
しかし立会人はそれを望まない。
なぜなら、それが後々の禍根を残しトラブルに発展する可能性があるからだ。
立会人は元々冒険者ギルド運営の所属であり、その冒険者ギルドはここ、イスペランセ王国の所属である。王国側は治安の乱れは当然好まない。
高ランクでかつ有名ギルド同士の抗争となれば、無視はできないのだ。
それ故に立会人は平和的でかつスリリングな「叩いて被ってジャンケンポン!」を選択した。
「負けて、それを恨んだりすることは決してありません。もちろん負ける気はないですがね」
「そうだな! 勝負を決める手段といやあ、それだけだどやっぱり刺激、足りないしな」
「絶対勝ってくれよ、ツネナガ! あのA級剣士が加われば多分俺らもB級から昇格だ! 買ったら
「凄い……まさかこんなところで最高級の闘いが見られるなんて……」
観客はもり上がる。
昼間から
立会人は群衆たちの歓声を聞き、目を瞑り、呆れたように吐息をつく。
そして、カッと目を見開く。
「皆さん静粛に!!!!……いいでしょう。バトルによる取引権を賭けた勝負を認めます。それでは——」
立会人の言葉に黙った群衆たちは、その言葉を聞き息を飲む。
立会人は右手を青空に向かって振り上げ————
「開始!」
合図の声が響いたと同時に先手を打ったのは西の牙代表、エニエスタだった。
「
男声の甲高い声が轟く。
前面の空間から、触れたものを侵食するかのような、悍ましい渦が顕現する——
闇属性魔法。
神の祝福を受けた者固有のスキル。エニエスタがBランクパーティーのリーダーたらしめんとしている理由。その1つが彼の唯一無二の神より授けられた
「おいおい——」
ツネナガが恐ろしい闇を目の前にしてか顔が引きつる。
「光の魔術士って二つ名からは随分とかけ離れているんじゃねーの……」
「で、出た! あれがエニエスタさんの必殺技、まさか……!」
「いきなり殺る気だーッ!!」
群衆が興奮する。
「この技は高難易度の討伐系クエスト時に使うものでしたが……長引かせるわけにはいきません。本気でいかせてもらいます。それにパーティーのリーダーである貴方がこれで死ぬ……なんてことはないですよね?」
髪の無い魔術士はニヤつく。
「へっ当たり前だ」
ツネナガは一瞬怯んだ様子を見せるも、抜刀する。
その刀はサーベルやレイピアとも違う。
丹念に手入れを施されたであろう、鋭い刀。
東洋の剣。
「貴方の噂は聞いていますよ。ハポンの剣士。
「まさか、俺もこんな場所で魅せるつもりは無かったが……仕方ねぇ……」
——と。
先ほどまでの、型に忠実な動きから、どう猛な獣のような。
つい先刻まで型に沿った動きを相手にしていたエニエスタからしてみたら、それは唐突で不規則な動きに見えただろう。
速さに任せて、かと思えば緩急をつけた足運びで、クイックモーションで襲うかと思えば、遠心力を利用したかのように思えるその攻撃。
彼の無頼斬りは、斬撃そのものを指すのではなく、そこに至るまでの接近、虚のつき方。それを全て含めその技と成すのである。
「
「くぉっ……!」
あの、西の牙のリーダーが情けない声を漏らす。
「このまま決着がつくのか!?」
しかし、群衆の予想を裏切り、両者動かずに静寂が残る。
「何で——?」
そう。
剣士が魔術士を相手にする場合、相手がよほどの足の機敏さがなければそのまま斬り付けられ敗北するのだ。しかし、その東洋の剣士は絶対の勝機を手放したことに等しい。ゆえに観衆は疑問を持ったのだ。
その答えは、技を放った本人が言う。
「仕方ねぇ。この技には絶対の接近を許される代わりに、そのまま畳み掛けることが出来ない制約があるからな」
「な……なるほど。制約があるということは、あの斬撃もギフトの力なのか……!」
「まだまだですねッ」
ニヤつくエニエスタ。
「聖なる黒渦は闇属性と水属性魔術との混合魔術! 故に水の性質を引き継ぐ。水に対し、斬るという行為は意味を成さないッ!!」
「なっ……!」
自身のピンチに気付く、ツネナガ=ヘーゼ。
自身の後方を振り向くと、そこには消滅させたはずの黒渦が。
「敵を襲うまで、その渦は消えないィ!」
そんな中、彼は何かを呟いた。
そして。
その黒い渦はそれ自体の中央に向かてっ————収束していった。
「なっ————」
何が起きたのか?
ツネナガは自らに宿る祝福とを引き換えに、黒渦を消した。
それは、自分の冒険者としての強さを半減したことに等しい。
しかし、この闘いに勝利するという結果を願うことはしなかった。
その結果自体は、自分の力でもぎ取るべきものだ、という彼の信念に由来するからである。
「何故、だッ」
「どうしても、手に入れたかったからだ」
迷いのない答え。
そう。
彼、ツネナガにとってはどうしても勝利しなくてはならなかったのだ。
ツネナガは、VIP席にいる彼女を見やる。
そして、歩き出し、立ち止まる。
彼女は彼の瞳を見て。
「! もしかして君はどこかで話したことがある……?」
「……ああ。俺は昔、駆け出しの冒険者の頃、深い森の中で死にかけた。人通りの少ない森だった。誰も助けにはこない、と死を覚悟した……というか死ぬしかなかった」
引き続きツネナガは語る。
「そんな中だ。手を差し伸べてくれた人がいた。俺を魔獣と飢餓から助けた後、そっけなく去ったその人が——」
「……わたし、というワケね」
こくん、とツネナガは静かに頷く。
「俺は強くなって、その人と近付きたいと思った。どんな手を使っても。それがギフトを手放した理由だ」
そう告白して。
二人はただ、見つめ合う。
周囲の群衆の視線や冷やかし声なんて、さも存在しないかのように。
あの娘をパーティに入れたい!! くりふぉと @qliphoth109
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