愛してくれなかった両親と、破れた夢。複雑なお家事情に傷ついて、荒んだ心のままに家出をした元王子のノアは、逃げ込んだスラム街で死にかけていた青年を拾う。
彼を世話することや、スラムで出会った人々と関わることは、彼自身の中にわだかまっていた感情と向き合う切っ掛けになっていき——。
異なる種族多数、魔族の中でも異なる部族がいろいろ、という世界観を存分に生かし、王家独特の問題をも絡めて描き出される、主人公の悩み。
それは異世界ながら、こちら側で物語を追う私たちにも通じる近さを感じさせてくれます。
どんなに頑張っても愛してもらえず、尖っていく感情、ささくれた心が愛されていた(ように思えた)弟に怒りをぶつけてしまい、それによって加速する自己嫌悪。
自分は孤独だと思いながらも、誰かを愛したい気持ちはどこかに残っていて。
少年が自棄になって逃げ込んだ先はスラムでしたが、そこで彼は人生を変える二つの出逢いを経験することになります。
それだけでなく、思わぬ相手からの「手紙」によって、家を出る前には気づかなかった「自分に向けられていた愛情」に、徐々に気づいていくことになるのです。
読みやすい一人称、丁寧な筆致で、それほど長くもありません。
男性キャラ多めの物語ですが、それぞれが個性的で魅力的。ぜひお読みください。
最新話読了時のレビューです。
この作品を読んで「家族とは何か?」ということを常に考えさせられた気がします。
血統主義の父親、異母間の兄弟、敵であったはずの後見人、家出した主人公、
そして孤独を感じている主人公が、家出先で出逢った人物たちと接していくうちに「家族」を感じていく姿がとても印象深かったです。
主人公が兄弟との過去に負い目を感じ、戻る資格がないと思う一方、
その兄弟の主人公に対する想いを知った時、思わずハッとして、
これは私たちにも当てはまるのかもしれないと思いました。
もし今、あなたが孤独を感じているのなら、ぜひこの作品を手に取ってください。
読み終わった後、ふと自分の身の回りを振り返ると、
それは「自分の思い込み」で気のせいだったと思えるようになるかもしれません。