怪奇 変態パイルドライバー男

変態パイルドライバー男

　名探偵五百蔵（いおろい）千蔵（せんぞう）は、ついに連続美少女パイルドライバー犯を追い詰めた。

「そこまでだ、パイルドライバー男！」

「うぬぬ、貴様は数々の怪人を逮捕してきた名高き名探偵。なぜ私の居場所が分かったのだ」

　五百蔵は犯人――中肉中背、しかし引き締まった肉体のマスクマンにビシリと指を突きつける。

「名探偵だからだ！」

「く、五百蔵千蔵め」

「逃げ場はないぞ、あたりはもうすでに包囲網が敷かれ始めている」

「もはやここまでか――」

　やや、事ここに至れば名探偵を手にかけて活路を見出さんと、腰を低く落とした開手で間合いを詰め始めてくる。

「やや」

　五百蔵は一歩引きながら表情をゆがめる。

「貴様、なぜ美少女にパイルドライバーを！」

「ふふふ、冥土の土産に教えてやろう」

　戦闘態勢を解かぬまま、パイルドライバー男はフフフと笑う。

「私は女子の股間の匂いを嗅ぐのに一番良い体勢と方法を寝ても覚めても考えておった。その答がパイルドライバーよ。考えてもみよ、投げを仕掛けた私の鼻先で、気を失った女子の股ぐらがパカァとだらしなく開く様を。いやほらいろいろパカァって花開くのを」

「ツームストン式でないのは、足が開く方向だけでなく、女子の鼻先に己が股間を直撃させる事故を防ぐためか」

「名探偵！！　慧眼の極み！！」

　パイルドライバー男は我が意を得たりとばかりに賞賛の叫びを上げる。

「名探偵よひとつ教えてやろう、ツームストン式では閉じゆく足と鼻腔に流れ込む空気の流れが異なるのだ」

「自分の顎の当たり方が邪魔になるからでもあるのだな」

「名探偵！！　慧眼の極み！！」

　賞賛の叫びはしかし、ゴングのかわりであった。

　獲物を狙うネコ科のように力を溜めたパイルドライバー男。弾けたように間合いを詰める彼に、名探偵は懐から素早く抜いた銃を抜き立て続けに三発発砲した。

「ぎゃああああ」

　銃弾は二発が右腿に、一発が左腿に命中した。

　動脈を損壊していなかったのが幸いだった。

「おのれ変態。しかし、気持ちは分かる」

「ぐ……き、きさま……卑怯な……」

「ひとつ、答えて欲しい。こればかりは私にも分からなかった」

　文字通り膝を折ったパイルドライバー男が「なんだ」と顔を上げる。

「なぜ、女子高生ばかりを？」

「……ふ、わからんか。体は大人になっていくのに、その手入れだけは子供のまま。そのアンバランスさが芳醇さを生むのだ。スカートだしな」

「おのれ変態。しかし、気持ちは分かる」

　サイレンの音が近づいてくる。

「そのマスクも、自分の匂いが女子につかぬよう誂えたものだろうさ」

「慧眼……」

　意識を失うマスクマン。

　名探偵五百蔵千蔵は警察に連絡を取る。

　こうしてまたひとつの事件が解決に向かう。

　だがしかし、名探偵が向かうのはまた次の事件なのだ。

　それは、別の事件。また別の話なのだ。

　書きたかっただけシリーズ

　怪奇　変態パイルドライバー男　完