ハロウィン1ヶ月前なのでロッカーを仮装しよう

ちびまるフォイ

化け物じみた仮装は内側から

閉じ込められた部屋には教室にありそうなロッカーが並ぶ。

離れた位置にあるテーブルには、ハロウィンの仮装のような装飾が置かれていた。


「なにここ……」


「ちょっとコレ開かないよ!」


部屋から出ることはできない。

飾り付け用においてある釘やらハンマーやらテープやらを

壁に投げつけてもびくともしなかった。


ロッカーの上にはアナログ時計がカチカチと時間を刻んでいる。


「あの時計、なんかおかしくない?」


誰かが言いだしたのか、時計の違和感に気がついた。

時計の針は進むのではなく戻っている。


この時計が制限時間を示していることはすぐに察した。


「なによこれ!? どうしろっていうの!?」


閉じ込められた人たちはなにもない部屋で右往左往する。

ロッカーを開けると不気味なほど可愛らしい字で書かれていた。


『 ぼくを飾り付けてね! 』


「……は?」

「ロッカーを飾り付けるの?」

「なんでそんなこと……」


テーブルに置かれていたハロウィン装飾や道具の利用先はわかったものの

それがなんになるのかは誰もわからなかった。


ただ、制限時間が設定されていることで、もはや誰にも正常な判断はできない。


「どいてよ! 私が先に持った飾りよ!」

「独り占めしないでよ! 私が先だった!」


閉じ込められた人たちは一斉に装飾品の取り合いを始めた。

デパートのタイムセールのような様相に尻込みしてしまい、

残った残骸のような装飾品で自分のロッカーを飾り立てることにした。


ほかの人は装飾品を取られないように釘で打ち付けたりした。


種々さまざまな不気味ロッカーが完成すると、

部屋には先ほどまでの熱気が冷めてしんと静かになった。


「一番うまく飾れた人が出れるってわけじゃないのね」

「結局、あの時間はなんなのよぉ! もうすぐ時間じゃない!」


「ど、どうしよう……」


余った装飾品しか使えなかった私のロッカーは最もみすぼらしかった。

仮装というには程遠く、普通のロッカーに申し訳程度の装飾がつけられている。


そうこうしているうちに、ついに制限時間が迫ってきた。


制限時間が爆弾を連想させるのか、

せめて直撃は避けたいとみんなが自分の飾り付けたロッカーに飛び込んでいく。


「あ、待って!」


出遅れた私は道具を使って、飾り付けられたロッカーに入った。

別のロッカーには別の人を入れた。


私と最後の人がロッカーに入ったときに、ちょうど制限時間が来た。



完全に封鎖されていた扉が外側から開いた。


ロッカーの隙間家から薄く見ると、

扉を開けて入ってきたのは体中に装飾を施した男だった。


目には造花が突き刺さり、ぼたぼたとよだれを落としながらロッカーに近づいていく。


(なにこれ……こんなの知らない……!)


隙間越しに化物と目があうのが怖くなり、ロッカーの内側にしゃがみこんだ。

ロッカーのドア越しに男の独り言が聞こえてくる。


「オイラのトモダチじゃないのはぁ~~どれだぁ~~?」


ロッカーを値踏みするように順に見て回っているらしい。

たしか端のロッカーはそこそこに装飾がされていて――


バン。


ロッカーが強引に開けられる音とともに、

中に隠れていた人のつんざく悲鳴が聞こえた。そしてすぐに静かになった。


「おめぇ、ロッカー仮装してながっだなぁ? トモダチじゃねぇ」


鉄っぽい匂いがこっちまで香ってくる。

男はまた次のロッカーの前にスライドした。


「んん~~? これはトモダチだぁな」


たしか2番めのロッカーは早めに装飾品を集めていたので、

2番めに凝った仮装をしていたはず。仮装していれば見逃されるんだ。


そして、男はついに私の隠れるロッカーへ。


「これはぁ~~……」


心臓がドッドッと激しく収縮を繰り返している。

体全体から汗が吹き出して、必死に荒くなる呼吸を抑えた。


「トモダチだぁな」


男は私のロッカーを素通りし、次のロッカーへと移動した。

全身の力が抜けてしまった。


「トモダチでねぇな!!」


次のロッカーは即開けられて、中の人は引きずり出された。


「おど? なんだもうトモダチでねぇか」


男はまた次のロッカーの品定めに移った。


 ・

 ・

 ・


男の足音が遠ざかり、部屋に誰もいなくなったのを確認すると

私はキレイに仮装されたロッカーから出てきた。


「はぁ……はぁ……怖かった……」


ロッカーを仮装しそこねた人は引きずり出されて、

化物のような男にカボチャのように頭をかち割られてロッカーに詰め込まれていた。


結局、生き残ったのは私と2番めの仮装をした人だけだった。


私は隣のロッカーをノックした。


「もう大丈夫。誰もいないよ。部屋も開いているし出られるわ」


「ほ、本当?」


2番めの人もおそるおそるロッカーから出てきた。

私の顔を見るなり、仲間がいたと安心した。


「ああ、本当に怖かった。ロッカーの前に立たれたときはどうしようかと」


「今のうちに逃げましょう。また来るかもしれないし」


「ねぇ、その前にちょっといい?」


2番めの人は私の隠れていたロッカーを指さした。


「あなたが飾り付けていたのって、そのロッカーじゃない……。

 隣のロッカーだったはずよね? どうして他人のロッカーから……!」


「ゆずってもらったの。こうしてお願いして、ね」





部屋から脱出した私は唯一の生存者として保護された。


その後、見つかった死体はどれも共通して鈍器で頭をかち割られていた。

うち2人だけにあった違和感も私の証言の前に吹っ飛んだ。



「本当に恐ろしい怪物が……みんなを襲ったんです」

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