寝取られ男の惨劇

青山 忠義

寝取られ男の惨劇

 木の重いドアを押して、薄暗いバーの中に入っていくと、馴染みのバーテンが私の指定席のようになっているカウンターの真ん中の席を指し示した。

 席に着くと、私の前におしぼりとアーモンドやクルミなど数種類のナッツが入ったガラスの器が出てくる。

 おしぼりで手を拭きナッツを食べていると、バーボンのロックが前に置かれた。

 この店に通ってもう一年になる。週末に来ては同じ物ばかりを注文する客にバーテンもすっかり心得たもの。

 バーテンは元々無口なのかそれとも私が話しかけられない雰囲気を作り出しているのかわからないが、私が話しかけない限り一切話しかけてこない。

 時おり、囁き声は聞こえるぐらいで、騒ぐ客や大声で喋る客はこの店にはいない。

 たまには、こうして独り静かに飲むのもいい。このバーみたいにカウンターの席のみで、10人も座れば満席になるようなこじんまりとした店は静かなほうがあっている。

 私はバーボンを一口飲むとナッツにを口に入れた。

 こうして一人で静かに飲んでいると、苦しかった日々のことが思い出されてくる。


 早くに父を亡くして母が働いて育ててくれたが、貧しい少年時代だった。

 奨学金をもらってなんとか高校は卒業することはできた。だが、三流高校出で何の特技も資格もない私にはろくな就職口もなく、学校から小さな工場の工員の仕事を紹介してもらった。

 給料は安く奨学金を毎月返したら、ほとんど手元に残らない。爪に灯をともす思いでお金を貯め、同じ職場の女性と結婚した。

 一男一女をもうけたが、給料はほとんど上がらず、妻と私の給料を合わせてやっと食べていけるという程度だった。

 このままではいつまでも貧乏のままで、子供を学校に行かせてやることもできない。私はなんとかもっといい給料のところで働きたいと考えた。

 そんなときに同じ工場で働いていた友人が工場を辞めて、もっと給料のいい不動産屋に転職するという話を聞いた。

私はその友人に頼んで一緒にその不動産屋で働くことにした。

 世の中はバブル景気が始まる前で、給料は工員の時よりも少しいいぐらいという程度だった。

 しかし、バブル景気が始まると、給料はどんどん上がっていく。

 死に物狂いで5年働き、仕事を覚えて宅地建物取引主任の資格を取って、独立して自分で賃貸専門の不動産屋を始めた。

 バブルが崩壊すると持ち家を持っていた人たちがローンを支払えなくなり、持ち家を手放して賃貸に移る人が出てくるようになった。お陰で仕事が増え、徐々に儲かるようになった。

 そして、儲けたお金で底値になった土地を買い、少し上がったところで売るということを繰り返したり、買った土地を貸し駐車場にしたりして儲けを大きくしていった。

 その儲けで建設業にも手を広げ、様々なツテを使って公共事業に食い込んだ。

最初はわずか数人の従業員で始めた小さな不動産屋が、今では1000人を超える会社に成長した。

 今は、息子や娘も結婚して独立している。

 会社は息子が継いで社長となり、私は会長兼相談役をしている。


 現役時代は遊びもせず、家族も顧みず仕事に没頭していたが、いざ一線を退いてみると、時間を持て余すようになる。

 息子は私にもかなりの給料を払ってくれているので金銭的にも余裕があった。

 そうなると若い時できなかった遊びをしたくなってきた。

 これといった趣味もないが、お酒は好きだった。

私は夜になると、あちらこちら飲み歩くようになり馴染みの店も何軒かできた。

 女の子がいるようなところにも行くようにもなり、自分の娘のような年頃のホステスにちやほやされ、すっかり舞い上がってしまった。

 その中でも特に恵子という30歳ぐらいのホステスが気に入って毎日のように通いつめた。

 恵子は色が白く、Dカップはある豊満な胸で、ヒップや太股もほどよく肉が付いているが、腰の括れはしっかりあった。顔も瓜ざね顔で切れ長の目をしている。少々気の強いところがあるが、私好みの日本美人だった。

 私は恵子にのめり込んだ。店の外で食事をご馳走したり、せがまれて同伴出勤をしたりするようになって、だんだんと深い仲になっていった。

 妻を愛していないわけでも不満があるわけでもない。それどころか今も心から愛している。

しかし、妻と恵子は全く異質な存在だ。

 妻は口数の少ない女で、大人しい。だが、芯はしっかりしていて、私が間違っていると思えばハッキリ意見をしてくる。

 私が仕事、仕事と言って家のことを任せきりだった時も文句も言わず、家を守って子どもも一人前に育ててくれた。

申し分のない妻であり母である。

決して美人ではないが、笑った顔はとても愛くるしい。年を取って多少シワなども増えたが妻の笑顔が大好きだ。

 恵子は妻とは全く対照的な女だった。商売柄かも知れないが恵子は明るくよく喋り、男に媚びるのもうまい。

 大きな胸を体に密着させ潤んだ瞳でブランド物の服やバッグをおねだりされたら大抵の男はイチコロだ。

 私もかなり恵子に貢いだ。

 ベッドの中でも大きな声で悦びを表し、男を誘うような痴態を示す。

妻はベッドの中でもそんな反応を示したこともないし、口をグッと噛み締めて声も出さない。

妻にはない反応にますます恵子にのめり込んでいった。

 恵子と体の関係ができてしまうと自分のモノにしたくなってきた。

 マンションを買ってあげるし、お手当もあげるから私の愛人になってくれないかと恵子を口説いた。

「ホステスを続けていいならいいわよ」

と、恵子は返事をした。

私も歳だし、妻もいるので恵子のマンションにそう頻繁に通うわけにはいかない。

恵子がホステスを続けても別に問題はない。私がそう答えると、恵子はOKしてくれた。

 それからは少々後ろめたい気持ちはあるが、妻には友達や取引先と旅行に行くと言ったり、飲み歩いていて帰るのが遅くなったからホテルに泊まったと言っては恵子のマンションに泊まって過ごした。


 ただ、恵子という女は生まれつきの男好きらしく私が行かない時は、隠れて他の男をマンションに連れ込んで楽しんでるようだった。

 そのことを教えてくれたのは恵子と同じクラブに勤めるホステスだった。

その日は行く予定ではなかったのだが、時間が空いたので、恵子を驚かそうと思ってクラブに行くと店にはいなかった。

そのまま帰るのもなんとなく店に悪いと思って飲んでいると、私と恵子のことを知らない新人のホステスが付いてくれて、恵子が客を誘っているのを聞いたと教えてくれた。

 まあ恵子のことだからそういうこともあるだろうと思っていたが、いざ現実になると嫉妬心がムクムクと起こってくる。

 動かぬ証拠を掴んでやろうと思い、探偵を雇って恵子の身辺調査をしてもらい、週末は知らんふりをして恵子のマンションに通った。




 調査を依頼してから二ヶ月たった頃、探偵事務所から調査結果が出たという連絡が入った。結果はやはり恵子は男を連れ込んでいるということだった。

それも毎回違う男を。

 その報告を受けた日の夜に恵子を問い詰めようと思い、マンションへ向かった。恵子の部屋に向かって歩いていると、部屋から男が出てくるのが見えた。背が高く、身長は190センチ近くあり、服の上からもわかるほどの筋肉隆々の男だ。

 探偵の報告書にあった写真の男たちはほとんど背が高く、筋骨隆々の男ばっかりだった。恵子は本当はそういう男が好みなのではないだろうか。私は165センチしかないし、お世辞にも筋肉質とはいえない。私は恵子の好みではないらしい。嫉妬と怒りでもう訳が分からなくなり、ものすごい勢いで何度も恵子の部屋のチャイムを鳴らす。

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。

「もう、なーにー。忘れ物? 鍵開いてるから入って」

 恵子の気怠そうな声がインターホンから聞こえてくる。先ほど出ていった男だと思っているらしい。私は怒りに任せて勢いよくドアを開けて入った。

「なにか忘れ物……」

 素っ裸で玄関に出てきた恵子は私の顔を見たとたん固まった。

「どういうことだ? 恵子」

 怒りを抑えた低い声を絞り出して恵子を睨みつける。

「あなた……」

「さっきの男は誰だ? これは何だ?」

 恵子に考える隙を与えないように矢継ぎ早に喋ると、封筒に入った調査報告書を突きつけた。最初は唖然として話を聞いていた恵子だが、私の興奮している顔を見てフッと笑った。

「バレちゃった? そうよ。男と寝てたの。悪い? あなたの愛人だけど、別にあなたのものだけになると言った記憶はないわ。あなたがいない時は私が何をしようと勝手でしょう? それとも別れる? 私は別に構わないわよ」

 私が惚れていることを知っていての余裕の笑み。

謝ってきたら怒りも少しは治っただろうが、嘲笑されて怒りが頂点に達した。

「生意気なこと言いやがって」

 私は恵子の腰まである黒髪をを掴んで寝室へ引っ張っていった。

「やめて。乱暴しないで。放して」

 私は嫌がって頭をふる恵子を引きずるようにして寝室に連れて行く。




 寝室のドアを開けて、恵子を投げ飛ばすようにベッドの上に投げると、その上に覆いかぶさった。

「こんな乱暴するなら、もう別れる。いや、出てっ」

 私は必死に抵抗する恵子を押さえ込んで体を貪っていく。

 恵子のこの白い肌を先ほどまで他の男が自由にしていたかと思うと、嫉妬と怒りで異常なまでの興奮状態になり、いつもよりも激しく何度も恵子の体に挑んでいく。恵子もいつもより大きい声で叫んでいた。私はかなりの時間をかけて恵子を貪った後、恵子から体を離した。

「今日はすごかったわ」

 恵子は満足したような声を出す。

「ちょっとな」

 私は気恥ずかしさから不貞腐れたように言った。

「私もすごく気持ち良かった。また今度しない? 他の男を抱かれた私を抱くの。私どんなふうに抱かれたか言ってあげる。そしたら、もっと燃え上がるんじゃない?」

 恵子の目は異様に輝いている。確かに恵子の言うように味わったことのない高揚感に取り憑かれた。今まで数えられないくらい恵子と寝たが、こんなに興奮したことはなかった。

「そうだな。だが、あの男はもうダメだ。私が見つけてくる」

「あなたが?」

 恵子は驚いたように私の顔を見つめる。

「ああ。私が連れてきた男と寝るんだ。そのあと私が恵子みたいな売女をたっぷりいじめてやる」

 恵子の客や私の知っている男に恵子が抱かれるのは取られるようで嫌だった。

「分かったわ。その代わり私好みの男を連れてきてよ」

「分かっている」

 それから私は街で見かけた背の高い筋骨隆々の男をマンションに連れて行き、一夜限りという約束で恵子を抱かせて、男が帰った後に私は恵子を抱くという異常な行為に熱中した。

 私はその行為に異常に興奮し、今までにない高揚感に酔いしれ、いつのまにか病みつきになっていった。




 私がこのバーに来るようになったのももちろん落ち着いて飲めるということもあったが、近くにトレーニングジムがあり、トレーニング帰りの体格のいい男たちがよく飲みにくるということもあった。

 飲みに来た体格のいい男を見つけると、声をかけ、恵子のことを話して、相手にその気があれば、マンションに連れて行き、恵子を抱かせ、そのあと嫉妬心で狂いながら恵子を抱いた。

 今日も恵子好みの男が来ていないかと店の中を見渡す。

 私の両隣は空いていて、少し離れて20代ぐらいのカップルが2組と二人連れの50代のサラリーマンそして、カウンターの一番隅に髪の長い妖艶な20代ぐらいの女が独りで飲んでいた。その女は一瞬、視線を私に送ってきたが興味がなかったのか視線をすぐにそらした。私はグラスを傾けながら、入り口の方を見ていたが、今日はジムが休みなのか一向に客は入ってこなかった。

 私は諦めて帰ろうかと思ったとき、入り口のドアが開いて、身長が2メートル近くあり、服の上からでも逞しい筋肉の盛り上がりがはっきりとわかる男が入ってきた。年齢は30歳ぐらいだろか。

 バーテンが私の横の席を男に示すと、男は無言で座った。

「ご注文は?」

 どうも男は常連ではないようで辺りをキョロキョロして私のグラスを指差した。

「バーボンですね。ロックでいいですか?」

 男が頷く。人のグラスを指すとは失礼な男だ。だが、体格は間違いなく恵子好みだ。男の顔を横目で盗み見る。

 男の額は狭く、眼は猫のようでランランと異様な輝きをしている。鼻は低く、口は少し突き出ている。顔を見ていると猫とか虎を思い出させる。恵子はこういう野性味のある顔を好む。

「どうぞ」

 男はバーテンが置いたグラスの中味を興味深そうに眺めると、一口ゴクッと飲んだ。男の顔が不味そうというか苦そうというかなんともいえない複雑な顔になる。バーボンを初めて飲んだのだろうか。

「誰かと待ち合わせですか?」

 私は男に声をかけた。態度は気に入らないが、恵子好みであることは間違いない。男は返事をせず、周りを見渡している。この男は海外からの旅行客で日本語が解らないのかもしれない。

「日本語は解りますか?」

 男はようやく自分に話しかけていることがわかったようで、私を見て頷いた。

「一人ですか?」

 男は黙って頷く。

「誰かと待ち合わせですか?」

 男はまた何も言わずに首を横に振る。日本語は解るが喋れないのかもしれないと私は思った。

「女性は好きですか?」

 一度、声をかけた男が同性愛者だったことがあり、念のために聞くことにしている。いつもはこんなに単刀直入には聞かないが、相手があまり日本語が解らないのではないかと思い、回りくどい聞き方はやめた。

「旨いのか?」

 旨い? まあいい体をしている女のことをそう表現する男もいるので、それをどこかで聞いて覚えたのだろう。

「まあ、そういう表現をするなら、そうですね……」

「そうか」

 男は頷いた。この奇妙な男を恵子のところへ連れて行くべきかどうか一瞬迷ったが、一番隅の妖艶な女が興味深々に男を見ている。どうやらあの女もこの男を狙っているようだ。

 私は取られまいと思い、男を誘った。

「私の知っている女に会ってみませんか?きっと気に入ると思いますよ」

 男は私の顔をじっと見ていたが、また頷いた。

 私は一旦店の外に出て、恵子に電話をする。

「君好みの男がいたよ。今から連れていくから」

「そう。楽しみにしているわ」

 恵子の弾んだ声が聞こえた。嫉妬心が沸々と湧いてくる。

「いい体格しているからきっと気に入ると思うよ。楽しみにしていてくれ」

 私は電話を切ると、店の中に戻った。男は所在なげな顔をしてグラスを口に運んでいる。

「行きましょうか? 支払いは私がします」

 自分と男の分の飲み代を払い、店を出た。



 タクシーを捕まえて男と一緒に乗り込み、恵子のマンションに向かった。

 やはり、この男は変わっている。普通ならこれからどこに連れていかれるのかと聞いたりしてくるのに何も聞いてこない。ただ、黙って窓から外の景色を見ているだけだ。何か不気味な雰囲気がある。

 この男を選んだことを少しずつ後悔し始めた。

 タクシーが恵子のマンションに着いた。とりあえず、恵子の判断に任せようと思い、部屋へ男を連れて行った。

 ピンポーン

 チャイムを鳴らすと待ちかねたように恵子が出てきた。

 恵子はもうすでにシャワーを浴びて、薄化粧をし、バスローブを羽織っている。

「いらっしゃい」

 恵子は男を見て、満面の笑みを浮かべた。これは恵子が男を気に入っている証拠だ。気に入らなければ、仏頂面をする。

「まずはシャワーを浴びてきて」

 恵子は男をバスルームに案内していく。私はリビングのソファーに座り、恵子が戻ってくるのを待った。恵子はなかなか戻ってこない。

「なにあの男?シャワーの浴びかたも知らないのよ。説明するのに苦労したわ。どこで拾ってきたの?」

 恵子が口を尖らす。

「いつものバーだ。気に入らないなら帰えしてもいいぞ」

 私も連れてはきたがあの男はどうも気乗りがしない。

「ううん。あの男でいいわ。いい体してるもん。すごく楽しませてくれそうだわ」

 恵子は今にも舌舐めずリしかねないような顔をした。

「まったく。お前は本当に淫乱だよ」

「あら、その淫乱が好きなんでしょう」

 恵子が微笑んだ。男がシャワーを浴びて戻ってきた。恵子とお揃いのバスローブを着ている。筋肉の盛り上がりは服の上から見て想像した以上にすごい。だが、体を拭くことを知らないのか頭から体までびしょ濡れのままだ。

「体を拭かなかったの?」

 恵子がバスタオルを取ってきて男の体を拭いてやる。男は体を拭いてもらっている間じゅう恵子の体の匂いを鼻を鳴らしながら嗅いでいた。

「嫌なことする人ね。匂いを嗅ぐなんて」

 恵子が顔をしかめた。

「旨そうな匂いだ」

 男は満足そうに言った。

「そう」

 恵子は褒め言葉と思ったようだ。

「ベッドに行きましょう」

 恵子が機嫌を直して、男の手を取ってベッドルームの方へ引っ張っていく。



 恵子と男が寝室に消えてから私はリビングのサイドボードからスコッチとグラスを出すとキッチンに行って氷を取り、リビングのソファーに座り直すと、寝室での二人の恥態を想像しながら、それを酒の肴にして、チビチビと飲み始めた。

 恵子はあの男にどうやって責められているのだろう。あの豊満な乳房を揉みしだかれて男を蕩けさすようなとろけた目を男に向け、喘ぎ声を出しているのだろうか。嫉妬心で体がどうしようもなく熱くなってくる。

「痛い。やめて。痛い。噛まないで」

 寝室から恵子の泣き叫ぶ声をが聞こえてきた。いつもとは違う悲痛な声だ。私は少し心配になったが、男のモノがそれだけ大きいということかもしれない。それにしても噛まないでというのはどういうことだろう。それも愛情表現の一つなのだろうか。私は様子をみることにした。

 しばらくすると恵子の声が聞こえなくなり、なんの音もしなくなった。それにしても静かになるのが早すぎるような気がする。恵子の艶かしい声も全然聞こえない。何か嫌な予感がする。

 今までそんな無粋な真似をしたことがないが、今回ばかりはどうしても気になり、寝室に声を掛けようかと思った。

 寝室に近づくと突然ドアが開き、男が舌舐めずりをしながら出てきた。

「あんたの言う通りだ。女は旨かったよ。」

 男は満足そうに言うと、何事もなかったように平然として玄関に行き、靴を履いて出ていった。心配のし過ぎだったのだろうか。

 ただ、男が横を通ったとき、血のような匂いがしたような気がした。私は不安になりドアをノックした。

「恵子、大丈夫か?」

 中から返事が返ってこない。

「開けるぞ」

 私は返事を待たずにドアを開けた。

 中の光景に私は言葉を失った。

 壁のあちらこちらに赤い血が飛び散っていた。ベッドは血の海で。恵子はベッドの上にいた。

首だけになって……恨めしそうな目をして私を睨んでいた。

 

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