第6話 鉄巨人は動かない
攻撃は最大の防御なり。限られた私財で武器と防具どちらを重視するか? 先手必勝で致命傷を与えられる自信があるならば、迷わず武器を取るべきだろう。
優れた武器は装甲を貫き、相手に反撃の機会も与えないまま蹂躙を許してしまう。「処刑人」の両手持ち大斧。「太鼓叩き」の二つ棍棒。一度打ち込まれたら最後、この防戦から抜け出せる選手はそう多くはない。
攻略法はある。打たれる前に打って出れば良い。だが攻撃に長けた者は攻撃の手を緩めない覚悟と強さもある。「処刑人」に先手を取るのは簡単だが、その反撃に耐えて追撃に出られる選手もそう多くはない。
ゆえに、彼らを真正面で打ち倒す事は困難とされていた。
「何だあ?」
場内がざわめき、ダロスも兜の奥で戸惑ったことだろう。現れたのは何重もの盾を紐でくくり付け、繋ぎ合わせ、隙間という隙間が鉄で埋められた巨人だった。そいつは肥大化した体をゆっくりと動かし前進する。
「武器はどうした武器は! やっちまえ【処刑人】!」
観客の野次に半ば押されるように、ダロスもまた迷いを振り切るように、自分を超える巨人に向かって斧を振り下ろす。
鉄の巨人は少し揺らいだ。その一撃でいくつかの装甲が剥がれ落ち、両膝が地面に付く。中の人間はまだ無傷だろうが、すかさずダロスは追い打ちをかけるべく斧を振り下ろす。
何度も打ち付けられる鉄と鉄。攻撃しているはずなのに手応えがなく、むしろ斧を振り下ろす度に脂汗が吹き出す。かつてなかった打ち応えにダロスは疲労感を覚え始める。
動かない鉄の塊を前にダロスは斧を振る手を止める。一息吐いたその時、微動だにしなかった鉄の巨人、その最深部から人が飛び出してきた。
「っ!」
慌てて斧を構えるダロスより先に、男の全体重が飛び掛かる。姿勢を崩して馬乗りにされたダロスには、振りほどく体力が戻っていなかった。
「【処刑人】さんよ。あんたを倒す為だけに考えたんだ。盾も鎧も買い集めて、少しでも動けるように訓練してさ…」
無邪気に笑う男に、ダロスは呆気に取られる。
「ありがとう。でも二回目はないよ」
「良いさ。この一勝を俺は忘れない」
男は手にした短剣をダロスの首元、兜の隙間へとねじ込む。
【不動の巨人】ことアップ。全く動かない事から多くの攻略法が編み出され、連敗により闘技場から早々に消えた選手だが、数少ない【処刑人】を倒した者として、彼を評価する者は少なくない。
とどめに使った武器は、道具屋の隅で埃を被っていた二束三文の短剣だった。
闘技場の死なない面々 ジストリアス @zisutoriasu
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