第二節
面会室を出ると、そこには千夜が待っていた。廊下に設置された椅子に座って所在なさげに俯いていた彼女だったが、野々がドアを開ける音に顔を上げて、ものといたげにその顔を見上げた。
「赤羽さん。お父さんは、元気そうでしたよ。色々お話ししましたが……私の下に貴方を置くということを、了承してくれました」
その言葉を聞いた途端、千夜の顔は輝いた。
「野々さん……」
千夜は野々の右腕に両腕を絡めて、甘えるように身体を寄りかからせた。野々はその態度に、彼女がこれまで被ってきた苛酷な仕打ちを思った。恐らく、普通の娘として、普通の父親に対して甘えるような行動を、抑えてきたのだろう。それがどれだけ辛かったか。彼女の生育に、どれだけの歪みを与えてきたことか。そして今回の事件への強制加担。千夜は、死んでしまった後輩たちのことを、本当に愛していたと言った。最後のターゲットだった柚葉だけは守れて本当に良かった、と言った。野々のこれまでの経験から判断するに、その言葉には嘘はない。千夜は「本当に」被害者たちのことを愛していたのだろう。その「愛する」後輩・級友たちを殺すことに協力しなくてはいけなかった彼女の心の痛み具合は、如何程のものだったろうか。今、自分に体重を預けている華奢な身体は、これから先、私が守ってやらなくてはならない。
野々はくすぐったいような感覚に頬を緩めそうになった。が、自分がしっかりとこの少女のことを支えなくてはいけないのだと思いなおし、姿勢を正した。そんな野々の顔を、千夜は頼もしそうに見上げ、目が合うと微笑んだ。
その笑みは、見る者によっては本能的な危機感を覚える笑みだったが、野々にはそうは見えなかった。二人は長い廊下を、連れ立って歩き始めた。
scissor シザー tei @erikusatei
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