第8話 お弁当
「ヤッホー。」
山以外でヤッホーなんて言う人が居るんだなあと思っていると、それは僕にやまびこを求めていた。やはり思ったがやはりだ。黄色の手さげを持った珠理ちゃんが手を振っていた。僕はトイレから教室に帰る途中で、濡れた手をハンカチで拭いていた。
「一緒にご飯食べよ。」
まるでそれが習慣であるかのように言った。
「やめときます。」
はっきり言った。えっみたいな顔をされた。
「昨日のこと怒っているの?ごめんって。」
猫みたいな顔して笑った。どうしてそんな顔ができるのか不思議に思いかつ羨ましく思った。
「そういうことじゃなくて、珠理ちゃんと一緒に居たらまた殺されかける。」
教室に戻ろうとするけど、小さな体で行く手を阻む。
「大丈夫。大丈夫。変なことしなければ何の問題もないよ。へえへえ、怖かったんだ。弱虫だねえ。昨日ことを話してあげてもいいよ。ねえ、どうして私が家が分かったか知りたくないの。」
少し考えた。確かに気になってはいた。午前中の授業は黒板で問題を解かされた時以外はそれを考えていた。僕の中では、結論はパパとぐるで保険に入らすための芝居だということに至ったのだが。
「知りたいかなあ。」
「じゃあ来て。」
彼女が僕の手首を掴んだ。結構力が強い上に、彼女の長い爪が皮膚に突き刺さった。でも、それよりも、
「う。」
腕を大きく振り彼女を睨んだ。今、目の前の見たことない制服の男子生徒にぶつかりそうになった。
「慣れないと大変だよ。」
キャキャ笑いながら言った。彼女に見えているからもちろんわざと僕に見せるためだ。
「早く行くよ。」
「ちょっと待って触らないで。購買行くから。」
彼女を振り払うように早歩きで歩きだしたら、また彼女が僕の肩に手を置いてきたので幽霊とキスしそうになった。子ザルのように笑う彼女をもう一度睨んだ。
「大丈夫よ。達也君の分も作ってきたから。」
はいと言って手さげからアニメのキャラクターが書かれた袋に包まれた四角いものを出してきた。
「まあ、それはどうも。」
「嬉しくないの。」
本当に不満な顔をして言ってきた。感情の起伏が激しい。誰もそんな山には登れないだろう。
苦笑いするしかなかった。
「嬉しいかなあ。ていうか、弁当持ってきていたらどうするの。」
「そんなこと、絶対ありえないから。」
とても強く言った。目玉焼きには醤油みたいに。
「絶対?どうして。」
とても不思議だった。もちろん彼女と一度食事ことはないし、同じクラスだったことはない。だから、僕がいつも購買で買っていることを知らないはずだ。それにどうしてそんなに自信満々なんだ。例えいつものことであったとしても、今日は弁当を持ってきているかもしれないと考えないのか。まるで、あのことを知っているみたいだ。
「だって、あれでしょう。」
「あれって?」
「まあ、どうでもいいでしょう。早く行くよ。綾香が待っているから。」
上手くあしらわれた感じだが、深く聞くのはやめた。墓穴を掘りそうな気がしたからだ。
「どこに行くの?」
「部室。当たり前でしょう。」
当たり前なのかと疑問に思ったが付いて行くしかなかった。
幽霊保険 kaito @kaito-matuyama
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