主人公の高校生、凛はクラスとも家族ともうまくいかず、自分自身にはなにもないと感じている普通の女子高校生。
唯一の仲のいい友達とのライブの帰り道、交通事故に巻き込まれます。
目が覚めるとそこは夢遊界と呼ばれるなんでも夢の叶う世界でした。
冒頭。夢の世界へ入るまでの流れがとても丁寧で、自分の学生生活を思い出しました。
狭い教室の世界。
未来への焦り。
何もない自分への失望。
足元がおぼつかず、不安定。
青春時代の不安や焦りを等身大の主人公を通して、描かれているところがお見事です。
主人公だけでなく、仲のいい友人、苦手なクラスメート、家族、夢の世界の住人、あこがれの男の子。
皆なにか欠けていたり傷のある人たちばかり。
そういう人たちと向かい合い、話し合い、なにもないと思っていた凛の強さが浮き彫りになっていきます。そして、夢遊界の秘密も……
夢と現実が交錯する物語はもともと好きで何作か読んだり見たことがあるのですが、この主人公はある意味でとても今どきかもしれないと思いました。
夢を持っていない。夢を見られない。そこがコンプレックス。
でも、それは逆に言えば……そこは物語本編でぜひ、感じてもらいたいです。
リアルな人間模様。交錯する心。理想と現実。おすすめの物語です!
この物語は、夢と現実のあいだで自らの存在意義を模索する少女・葉月凜の内面に深く切り込んでいる。
彼女の日常は、外見上は平凡な高校生活でありながら、その心の内には深い孤独と疎外感が渦巻いている。
彼女の周囲には、友情や愛情など人との繋がりを求める人々がいるが、それらは彼女にとっては到達不能な夢幻のようなものである。
物語は、このような彼女の心情を繊細に、そして鮮やかに描き出している。
しかし、この物語がただの青春小説に留まらないのは、
葉月凜が自らの内面と向き合い、自己を見つめ直す過程が描かれているからだ。
彼女は、孤独という重荷を抱えながらも、自らの心の声に耳を傾け、夢と現実の狭間で自分自身の場所を見つけようとする。
その過程で、彼女は自己を発見し、成長していく。この葛藤と成長の物語は、読者に深い共感を呼び起こし、心に残る。
また、本作においては、周囲の人物たちもまた、それぞれが自らの夢と現実との間で葛藤している。
それぞれの人物が抱える問題や心情が、葉月凜の物語と交錯しながら、豊かな物語の層を形成している。
このように、夢と現実の狭間で揺れる人々の姿を通して、本質的な人間模様を描き出している点が、本作の大きな魅力である。