ヒロイック・オムニバス

猫野和史

第1話 プロローグ 始動

 その日、世界は再び変わる時を迎えた。



 狂おしくなるほど長い時を、支配する者として君臨し続けてきた人類は繁栄謳歌の頂点を変え続けているその時に異世界からの干渉を受けた。情報で増え続ける社会の中で数多くの人間のために設定され、蹂躙されてきた魅力あふれる空想の産物が実体を得て豊かな営みの中に溶け込み、人類の様々を侵していったのだ。否、気づけただけでも幸運だったのかもしれない。異世界人への対処の中で人類は知ったのだ。現代に忍び込んだと思われていた異世界人は実際ははるか太古の時代から人類に干渉し続けてきたという事実を。今までの謳歌は異世界人なしでは成し得なかったという現実を。多くの者が嘆いた。多くの者が怒りを抱いた。多くの者が歴史に疑念を抱いた。真実が世界を大いに揺るがすには充分だった。世界を激しく狂わせた。だが。それでも。諦められない者も多くいた。

 人類と異世界人の水面下での戦いは結果としては人類の勝利に終わった。諦めきれなかった者と、それをよしとした異世界人によって世界に留まる術を失った異世界人は駆逐されたのだ。彼らとの間に生まれた友情や、愛を引き裂く残酷で救いようのない悲劇と共に。顔も名前も知られることのなかった英雄二人の淡い恋を引き裂きながら。

 異世界人は世界から去った。だが彼らが残したものは消えない。彼らがいた証明となる道具、技術、思想は人類に大きな進化と、争いを招いた。まず最初に悪を為す者達が現れ、それらの抑止となる形で遅れて善を為す者達が現れた。



 彼らの戦いは続く。混沌と秩序の紙一重の如く。

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