メイキング・オブ・茨城坂晋作(仮タイトル)

佐々木匙

南海の茨城坂晋作(初稿)

Re:Re:Re:Re:Re: 進捗いかがですか


割物出版 第二編集部

中園喜助様


いつもお世話になっております。

表題の件、大変お待たせし申し訳ありませんが、無事初稿が完成いたしましたので添付いたします。

ご確認よろしくお願いいたします。


豪徳寺招平


初稿3_修正.txt




◆ ◆ ◆ ◆



『序章 青い海とゴムボート(仮)』



 【グッと来る掴みの文!】


 初めの一文ですっかり心を奪われた読者が見るものは一面の青い海であった。海と空、そして照りつける太陽の他に見えるものは何もなく、ただ静かに波だけがざわつく。


 南国の、どことも知れぬ大海原の果ての——否、何かが波間に微かに揺れ動くのが見えはしないか。


 それは一艘のゴムボート【ゴムボートって一艘二艘でいいのか調べる】であった。明るいオレンジ色のそれはあまりに小さく頼りなげではあったが、確かにそこにある。そして、やや、なんとその上には人影がふたつ、確かに生きて動いているのだ。


 なぜこのようなことになったのか? 読者は当然疑問に思うのであるが、それはこれから書く。締切は一週間後である。がんばろう。





『一章 探偵・茨城坂晋作』



【前作の序盤をコピペして直す】


「なるほど、よくわかりました」


 大きくうなずくのは、おなじみ伊達男の探偵でありこの事務所の所長・茨城坂晋作である。五巻続いてるし、表紙には毎回超いい感じのイラストもあるからそろそろ容姿の描写とかしなくていいんじゃないかな。


「つまり南国で行方を絶ったあなたのご主人を捜索してほしいということですね、三枝山さん」


「そうなんです。南国で行方を絶った主人を捜索してほしいんです。主人とは言っても政略結婚で愛はなく寂しい日々を送っていましたけれど、だからと言って急に別の男性になびくような節操のないところを見せると好感度が下がるし、ちゃんと主人の最期を知った時には一筋涙をこぼします」【情のある魅力的なヒロイン造形として描く】


 目を潤ませ切々と訴えるのは黒髪の美女であった。美女であるのでまあ大抵のことをしても読者は許してくれる。何させようかな。


「お気持ちお察しいたします。すぐに現地へ向かいましょう。花川原くん!」


「はい! お呼びですか先生!」


 ドアを開けて現れたのは、まだ二十歳ほどの若さ溢れる女子であった。花川原純子。溌剌と短く切った髪に大きな瞳、あどけない頬から顎にかけての線が印象的な可愛らしい顔立ち。やや男装めいた白いシャツとグレンチェックの膝丈パンツ姿は、いかにも探偵助手といった風情。きびきびと動く様は見るからに頼り甲斐があるが、時折勢い余って無茶をする年齢相応の愛嬌もある、老成した印象の茨城坂とは好一対の存在であった。【どうせここはもうちょっと削れって言われる】


「しばらく事務所を空けるから、また留守番を頼むよ」


 茨城坂はトレードマークであるトレンチコートを羽織り、常日頃から用意してある出張用スーツケースを手に取る。


「また事件ですか? この間バミューダトライアングル蒸発事件から帰ってきたばっかりなのに」


「当然だろう。依頼あればどこへでも飛んで行くのが探偵さ。さ、行きましょう」


「ええ」


 目の前で閉ざされた事務所の扉を前に、うら若き純子は朝露に濡れる白百合のごとく憂いに眉をひそめた。


「先生ったら、また綺麗な女の人と……。少しはあたしの気持ちに気づいてくれてもいいのに」


 読者は出番が少ないながらも一際輝く純子の純情に絆されるのであった。俺は早く純子メインの話を書きたいので絆されてください。




『四章 現れた影(仮)』



【経緯は後で書く】


「三枝山さん、こちらへ!」


「ええ」


 薄暗き石畳の道を、ふたりの足音が響く。そして、それを追うさらなる足音がふたつ!


 緊迫感!!


「あっ」


 そしてなんということか、三枝山千秋夫人は小石を踏み転倒。美女であるがゆえに許される失態であった。茨城坂は駆け寄り助け起こす。


「大丈夫ですか」


「ええ」


 不安げな瞳が後方を見やる。追っ手はその影を明らかに——いや。


「待ちたまえ、諸君」


 さらなる足音がひとつ、ゆっくりと近づいてくる。そして路地裏からマントを纏った影が現れた瞬間、追っ手はぴたりとその足を止めた。


「君は……怪人五条川原!」


「そう僕は怪人五条川原。毎回出したらどうにかなるだろうと思って出しその場では間を保たせるが、いまいち設定の安定しない男……」


 【この辺そろそろ決めないといけないので中園さんと相談したい。案:誰かの兄とかにすればいいかな。勢いで川原かぶりになってしまった純子が適役かもしれない。テコ入れになるし】


「その怪人五条川原がなぜここに……まさか!」


 茨城坂にはハッと頭に閃くものがあった。それは、これまでに各地を探し集めてきた証拠の数々【後で考える】から導き出される、鋭い推理であった。


「まさか、君はこの件に関係が!」


「そう僕はこの件に関係があるのさフフフ……また会おう茨城坂君、アデュー!」


 一陣の風。高笑いとともに、怪人はまさに影のごとく消え去っていくのであった。先ほどまで彼らを追っていた人影もいつの間にか消える……。静まり返る南国の街並み……。


「何者なんだ、奴らは」


 こっちが聞きたい。


「三枝山さん……ややっ」


 おお、何たることか。依頼人・三枝山千秋夫人は怪人の声を聞き、何やら驚愕と恐怖にその美しき顔を青ざめさせているではないか。


 果たして彼女とかの怪人との関係はいかに? だからこっちが聞きたい。




『六章 明かされた真実(仮)』



【三枝山の夫は南国の貴金属発掘に関わっており、その利権のために殺害されたのだということを明らかにする。三章に水差しの伏線を張っておくこと。一筋の涙回収】




『七章 脱出』



 物凄い轟音が響き、海底鉱山は大地震もかくやという具合に揺れ動いた。崩落——謎解きからのアクションに次ぐアクションに興奮のるつぼとなっていた読者も大満足の超スペクタクルである。


「三枝山さん、ここはもう駄目だ。脱出をするんです」


「ええ」


 茨城坂の大きな手が三枝山夫人のか細い手を取り、駆け出す。次々に剥がれ落ちていく岩また岩。


「あっ」


 つまづく三枝山夫人!


「どうしました……あれは、あの時の!」


【六章で脚に怪我をさせておくこと】


「私はもう駄目です。どうか置いていって……」


【地の文】


「そうはいきません」


「きゃっ!」


【地の文】


「探偵は、依頼人を決して見捨てたりはしませんよ」【四章リフレイン】


「茨城坂さん……」


「さあ、行きましょう、三枝山さん。出口はすぐそこです」


【地】


「……千秋と、下の名前で呼んでもらえないでしょうか」【盛り上がる】


【地】


「……千秋さん」【盛り上がる】


 やがて彼らを乗せたエレベーター【乗せる描写】は地上へと到達した。光!それは彼らが切り開いた運命そのもののごとく明るくまぶしかった。


 やがて、海に沈みゆく基地から、一艘【調べる】のオレンジ色のゴムボートが滑るように漕ぎ出していった。それは波間に揺れながら、ぷかぷかと漂っていった。




『終章 【未定】』



 さて、再び読者は青い南国の海に浮かぶゴムボートに戻ってきたわけであるが、乗っているのは当然茨城坂と三枝山夫人であることは明らかであろう。


「やあ、どうやら無事脱出できたようだ」


「ええ。でも、主人はもう命を落としていたし、基地も全て沈んでしまったわ。私もうあなたしか頼れる相手がいないので結婚してください【という感じの情緒あるセリフ】」


「……それは、いけません」


 ここで読者は茨城坂が毎回ヒロインといい感じに盛り上がっているのに最後の最後で突っぱねるひどい男だということを思い出すのであった。


「僕には若くして亡くした恋人がいます。彼女を裏切ることは、まだできそうにない」


「でも、私の名前を呼んでくださったじゃありませんか」


「千秋……それは、その恋人の名前です。つい思い出してしまった」


 【この設定はいい感じに今思いついたので中園さんに要確認】


「ひどい人ね」


「そうかもしれない」


 だが、夫人の笑みには男を責めることのない、柔和な菩薩のような優しさがあった。【なんかこの人いい人なので後からもうちょっとましな扱いをしてあげたい】


 やがて、バラバラバラ……と空に音が響き、一台のヘリコプターが姿を現した。窓から降りる縄梯子。そして愛らしい顔をひょっこりと出したのは、おお、有能なる探偵助手・花川原純子嬢ではないか!


「先生! こっそりついてきてしまいました!」


「呆れたお転婆だな。だが助かったよ」


 えへへ、と悪戯っぽく笑うその様は、どこか少年めいた闊達さと、年頃の乙女らしい恥じらいとが入り混じり、えも言われぬ魅惑的な表情であった。早くヒロインにしたい。


 やがて救助されたふたりを乗せ、ヘリコプターは再び島へと戻っていく。


(怪人五条川原……奴との決着は必ずつけねばならないな)


 茨城坂の決意を乗せて……。


「【五十億円欲しいなあ】」


 南の海はあくまでも青く青く輝いていた。【もうちょっといい締めを思いつきたい】




◆ ◆ ◆ ◆




Re:Re:Re:Re:Re: 進捗いかがですか


割物出版 第二編集部

中園喜助様


いつもお世話になっております。


大変申し訳ございません。

先ほど送付いたしました初稿ファイルですが、間違えて初期のバージョンを添付しておりました。

お手数ですがこちらの添付ファイルをご確認いただき、どうか先のものは中を決してご覧にならず速やかに破棄していただけますでしょうか。本当にお願いします。


豪徳寺招平


初稿_完成版_最新(3).txt




◆ ◆ ◆ ◆




『割物出版の中園です。豪徳寺先生、初稿拝見しましたよ』


「あ、どうも、ありがとうございます……。あの、どっちの方を」


『両方』


「両方!」


『いやあ、先生はプロットを作らないと聞いてましたがああいう書き方をされてるんですね。大変面白かったです』


「すいません……すいません……」


『いえいえ、ところでお電話差し上げたのはですね、ゴムボートの……』


「あの……じゃあ言いますけど、花川原助手メインの話って書けないですかね……」


『そこはもう少し焦らしていきましょう! いずれバーンとね! で、ゴムボートはですね……』


「はあ……」


 作家・豪徳寺招平はいささか気落ちして編集の指摘を聞く。だが、その胸には未だ消えぬ炎があった。気に入りのキャラクターをメインヒロインにしたい、その思いはたとえ水を差されようともさらに燃え上がる熱い篝火であった。


 読者は彼の志に当然共感し、その生き様に拍手喝采を送ることであろう。


【気の利いた一文】

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