想い100グラム
四葉くらめ
想い100グラム
100グラム足りなかった。
「好きです」
告白というものをされたことがある。
「絶対に許さない」
はっきりと拒絶されたことがある。
他にも慈愛に満ちた微笑みを向けられたり、憎むようなトゲを投げかけられたり、無関心という隔たりを感じたり、善意という尊さに救われたり、友人という優しさを貰ったり貰われたり。
人には様々な感情があって、人は自分勝手にそれを相手に押しつけている。それが良いとも悪いとも思わないし、正しいとも間違っているとも思わない。尊いと思うこともあれば、嫌悪することだってある。
でも、僕にとってそれはどこか客観的で、箱庭の外から眺めているような気分になる。
何も感じないというわけでは無いけれど、そこに大きなリソースを割くことに意味を見出せないでいた。
僕は、人の想いの重さというものが掴めないでいた。
もちろん具体的な重さが無いことは知っているけれど、僕の周りのソレはどれほど重いのだろう。どれほどの想いなのだろう。
僕に恋していた彼女の想いも、僕を嫌った彼の想いもきっとそれはもう重いのだ。その重さを僕が感じ取れないことが申し訳ないほどに。
「くっだらないわね」
隣にいる悪友がぼやいた。
いやいや、くだらなくなんてないだろ。
「くだらねぇわよ。
じゃあ君は他人が自分に向けてくる感情に興味は無いのか?
「少なくとも私が受け取った以上のことは考えないわ。それでも気になるっていうなら教えてあげる」
彼女はそう言うと、どこからかケースに入った1円玉の束を取り出した。いや、なんでそんなもん持ち歩いてるんだよ……。
「歯ァ食いしばりなさい」
え、ちょ、何する気なの?
彼女は1円玉の束をケースから取り出すと、それを落とさないように両手で包んだ。
「ピッチャー全力で振りかぶってぇ――」
いや、待って。それ痛いから。絶対痛いから!
「私の想いをぉ――投げました!」
彼女の想いとやらがどんなものなのか、正直よく分からない。分からなかったけれど、少なくとも他の人の想いには見えなかった重さが見えて――
100枚の1円玉が僕に降りかかる。
それだけで伝わった。
想い100グラム 四葉くらめ @kurame_yotsuba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます